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第78回 借金帳消しとシェアハウス

毎月最終金曜日の「プレミアムフライデー」はまったく定着する気配もないまま、厚生労働省が惰性で(もしくは意地で?)続けているようですが、この11月にはもうひとつ、やや聞き慣れない用語を耳にする機会が増えました。それが「ブラックフライデー」で、本場アメリカでは本来、11月の第4木曜日の翌日を指すそうです。すなわち、2019年のカレンダーで言えば11月29日――この日は、アメリカでは感謝祭の翌日に当たり、1年中でもっとも売上が見込める日とされることから「黒字の金曜日」という意味を込めてこう呼ばれ、小売業界で一斉にセールが催されています。日本では、2016年頃から大手家電量販店のノジマやイオングループなど一部の小売チェーンで「ブラックフライデー」と称してセールが開催されるようになり、本場より1週間前倒しとなる勤労感謝の日の前後、2019年で言えば11月22日が当日に当たります。多くのサラリーマンにとっては給料日前であり、たいした売上が見込めるとも思えませんが……10月末のハロウィンに続き、またまた意味のよくわからない風習が入ってきたようです。

さて、これもいつの間にやらすっかり下火となった感があるネタですが、例の「かぼちゃの馬車」問題に端を発する一連の「スルガ銀」問題でひさびさに続報が出ました。まずは、11月21日付の『朝日新聞(朝日新聞デジタル)』から、「スルガ銀、物件手放せば借金免除検討 不正融資被害受け」( https://www.asahi.com/articles/ASMCP4HG4MCPULFA016.html )という記事になります。以下、全文引用します。
「スルガ銀行のシェアハウス向け融資で不正が多発した問題で、同行が一部の物件オーナーに対し、不動産の譲渡と引き換えに借金をなくす方向で検討を進めていることがわかった。過剰融資で価値の低い不動産が多く含まれるが、同行は巨額の貸し倒れ引当金を昨年度決算で積んでおり、業績への影響は限定的だ。
 スルガ銀の不動産投資向け融資では、預金通帳などの顧客資料を改ざんし、過剰な融資が横行。物件価格もつり上げられ、多くの行員が不正を黙認した。シェアハウス向けでは1200人超の顧客に計2千億円超を融資。このうち返済困難となった300人前後が被害弁護団を通じ、物件を譲渡して残債は全額カットするよう同行に求めていた。
 複数の関係者によると、スルガ銀はこうしたオーナーらの要望を大筋で受け入れる方向で、譲渡予定の物件の売却準備を進めている。難航していた交渉は早ければ来春にも決着する可能性があるという。
 金融庁は昨年10月に一部業務停止命令を出した際、元本の一部カットを含む対応をとるようスルガ銀に求めていた。同行は『11月末まで、元本の一部カットについて相談を受け付けている』とする一方、『現時点で決定したことはない』としている。(2019年11月21日23時21分)」
今回のニュースは、複数紙でそれぞれ報じていることから、そのニュアンスの違いを感じ取れるように、別媒体の記事もそれぞれ全文引用してみましょう。
『朝日新聞』より1日早く報じた『毎日新聞(デジタル毎日)』では、「スルガ銀、シェアハウスオーナー借金帳消し検討 和解進め信頼回復図る」( https://mainichi.jp/articles/20191120/k00/00m/040/385000c )という見出しで報じています。
「スルガ銀行の投資用不動産向け不正融資問題で、返済が困難になったシェアハウスのオーナーに対し、スルガが借金の帳消しを検討していることが20日、明らかになった。オーナーが所有する土地と建物をスルガに譲渡することが条件。価値の低い物件も多く一定の損失が見込まれる。ただ、貸し倒れに備えた引当金を積んでおり、経営への打撃は限定的とみられる。
 不正融資の温床となった創業家との関係解消には道筋がついており、係争が続くオーナーとの和解を進めることで信頼回復を図る狙いがある。
 スルガは不正融資で身の丈に合わない借金を負ったオーナーと返済条件の変更に関する交渉をしていた。ただ、返済見通しがたたない一部のオーナーからは、スルガからの借り入れで購入した物件を譲渡する代わりに、借金を帳消しするよう求められていた。スルガはこの要求を受け入れ、譲渡された土地と建物は第三者への売却などを検討する。【古屋敷尚子】(2019年11月20日 21時52分)」
続いて、速報性が命の『時事通信(時事ドットコムニュース)』が同じ20日付で報じた「シェアハウス、借金帳消し検討=物件譲渡を条件—スルガ銀」( https://www.jiji.com/jc/article?k=2019112001109&g=eco )という記事。
「スルガ銀行が、不正融資したシェアハウスについて、物件オーナーの借金を帳消しにすることを検討していることが20日、分かった。土地と建物を手放すことを条件とする。同行は不正の温床となった創業家との関係解消にめどを付けており、早期に一連の問題を解決し、経営再建を急ぐ考えだ。
 スルガ銀は今月30日まで物件オーナーからの元本減免の申し込みを受け付けている。期限が近づき、土地と建物を手放す代わりに借金の『棒引き』を求める一部オーナーに応じることも視野に入れ始めた。
 譲渡された土地と建物は第三者に売却する考え。同行のシェアハウス向け融資の残高は9月末時点で1992億円。オーナーは1200人を超える。ただ、これまでに貸し倒れに備えた引当金を積んでおり、追加損失は限られる見通しだ。(2019年11月20日19時33分)」
同じく速報性を重視する『共同通信』ですが、こちらは『朝日新聞』と同じ21日に日付が変わってからの更新で「スルガ銀、借金棒引きを検討 不正融資巡り、土地建物手放せば」( https://this.kiji.is/569911677581132897 )という記事になります。
「シェアハウス向けに不正な融資をしていたスルガ銀行が、所有者が土地や建物を手放した場合に限って債務の解消を検討していることが20日分かった。実現すれば、事実上の借金棒引きとなる。シェアハウスのオーナーは救済措置を一貫して求めており、スルガ銀には不正融資問題に区切りを付けて経営再建を急ぐ狙いがあるとみられる。
 ただ、シェアハウスの所有者側の弁護団は『銀行側との主張にはまだ隔たりがある』と説明しており、協議が難航する可能性もある。シェアハウスのオーナーには会社員も多い。
 スルガ銀は多額の貸倒引当金を計上しており、借金の棒引きに応じても負担は限定的とみられる。(2019/11/21 00:46)」

借金の「免除」「帳消し」「棒引き」と使っている用語は違っても、どの記事も負債者にとっては飛びつきたくなるような明るい未来を感じさせる大見出しがついています。それぞれのニュースの更新時刻をチェックすると、『時事通信』→『毎日新聞』→『共同通信』→『朝日新聞』の順番で、特に最後の『朝日新聞』は21日の夜23時台と、ほぼ丸1日以上遅れての報道でした。また、遅れて報じた2紙では記事中で触れられていませんが、先行した2紙の記事中にある「創業家との関係解消」とは、これに先立って10月29日付で報じられた、大手家電量販店ノジマの社長野島広司氏(奇しくも、今回のコラム冒頭で触れた、日本版ブラックフライデーの仕掛け人の一人)が創業家から株式を買い取り、スルガ銀行の筆頭株主となったこととヒモづけています。今回のスルガ銀行の動きが、この筆頭株主交代と無関係ということは無論ありえませんが、後から報じた2紙では「銀行側との主張にはまだ隔たりがある(『共同通信』)」「現時点で決定したことはない(『朝日新聞』)」とエクスキューズを付けており、先行した2紙ほどには手放しで断定しているわけではないようです。いずれにせよ、最初に「かぼちゃの馬車」の賃料支払停止が報じられた2017年1月下旬から2年近く経ち、ようやくこの一連の問題にも解決のメドがついてきたようです。

その一方で、11月下旬に相次いで発表された不動産市況の動向を見ると、一時期の盛況はどこへやら、ここにきてはっきりと落ち込みが現われてきているのがわかります。たとえば、不動産情報サービスのアットホーム(株)が11月25日に発表した「2019年10月期の首都圏居住用賃貸物件の市場動向」( https://athome-inc.jp/wp-content/uploads/2019/11/2019112501.pdf )によると、同月の成約件数は1万3,111件(前年同月比20.4%減)と、11ヶ月連続の減少。地域別では、東京23区が5,857件(同23.7%減)、東京都下1,115件(同18.1%減)、神奈川県3,557件(同19.1%減)、埼玉県1,323件(同11.9%減)、千葉県1,259件(同17.8%減)と、全エリアで2桁台のマイナスを記録し、これで6ヶ月連続全エリアでのマイナスが続いています。さらに、1戸当たりの平均成約賃料は、マンションが8万9,200円(同0.7%下落)と2ヶ月ぶりにマイナスに転じ、アパートは6万1,300円(同3.9%下落)と9ヶ月連続のマイナスとなっています。

また、(公財)不動産流通推進センターが11月20日に発表した「全国の指定流通機構の活用状況(2019年10月分)」( https://www.retpc.jp/wp-content/uploads/reins/katsuyo/katsuyo1910.pdf )によると、同月の新規登録件数は38万2,754件(前月比1.5%増)と2ヶ月連続のプラスだったのに対して、成約報告件数は4万4,277件(同7.0%減/前年同月比9.0%減)と、前年同月比では6ヶ月連続の減少となっています。このうち、賃貸物件では、新規登録件数が23万7,072件(前月比1.7%増)と2ヶ月連続の増加に対して、成約報告件数は2万9,552件(前年同月比10.4%減)で8ヶ月連続の減少となっています。

さらに、(株)不動産経済研究所が11月18日に発表した「2019年10月度の首都圏マンション市場動向」( https://www.fudousankeizai.co.jp/share/mansion/402/a1jsa3y8.pdf )によると、同月の発売戸数は2,007戸(前年同月比29.5%減)と減少。契約率は42.6%(同25.7%減)で、前月比では14.2%減少しています。
それぞれ、母数も違えば調査対象も違い、さらに言えば調査目的も違っているわけですが、ここに挙げたすべての調査で前月比、前年同月比で減少(レインズの登録物件数は増えていますが、これはつまり「売れ残り/空室」が増えているということです)となっているということは、かなり市況が冷え込んだ、シビアな状況であることを示しています。先日の消費税増税や、相次ぐ自然災害など、ただでさえ景気の落ち込みが目立っているなかで、景気の遅行指標といわれる不動産市況もまた、かなりの危機的状況を迎えつつあるようです。
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