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第81回 パンデミックとシェアハウス

わずか2ヶ月前には――いえ、ほんの数週間前には予想もしていなかった事態とあいなりました。新型コロナウイルス、あるいは“武漢ウイルス”の名で知られる感染症の恐るべき猛威は、まったくもってとどまるところを知りません。つい先日まで頑なに「東京オリンピックは予定通り開催する」と強調していた政府や東京都、またIOCや東京2020組織委員会も、さすがに「延期または中止」を容認せざるを得ない方向に傾き、3月24日に安倍晋三首相とIOCのバッハ会長の電話会議により、ついに「1年程度延期」が正式に決定されました。新たな開催時期については今後協議していくとのことですが、安倍首相は「遅くとも2021年の夏までには開催したい」と語っているようで、いずれ決定次第、アナウンスされる見通しです。また、当初3月15日頃までと発表されていた小中学校の臨時休校も軒並み延長され、年度替わりの4月以降もどうなることか、具体的な方針はほとんど決定していないに等しい状況です。子どもたちだけでなく、大人たちも――今のところ、国内では花見や大規模なイベントの自粛、不急不要の長距離移動や一部の国への渡航制限といったレベルに止まっていますが、今後の状況次第では、海外のある国のように市民の自宅待機(=外出制限)、非必須事業の営業停止という非常事態を迎えることも決してありえない話ではなくなってきました。

こうした異常な状況下で何より恐ろしいのは、悪質なデマの横行と、群集心理のもたらすパニックです。2月下旬に熊本県で発生したと見られるトイレットペーパーの買い占め騒動は、翌日には全国に波及し、スーパーや薬局の棚から商品が姿を消しました。これは、「国内のトイレットペーパーは多くが中国から輸入されている……」「トイレットペーパーの原料の紙は使い捨てマスクにも使用されている……」といった、根拠のないデマがもたらした騒動でした。製紙メーカーからは即日「トイレットペーパーは国内で生産されており、十分なストックがある。また、紙はマスクに使用される原料とは違う。品切れになることはありえない」とデマを打ち消す公式発表がありましたが、それから3週間余り経った現在も、依然として「お1人様1点まで」のように販売個数制限をしている小売店が多いようです。とはいえ、こちらはあくまで流通上の原因によるもので、商品の在庫自体が不足しているわけではありません。問題はマスクの不足で、こちらは実際に中国からの輸入に頼っているところが多く、国内ではすでに2ヶ月近くも入手困難な状況が続いています。ネットオークションで転売品が高額取引されるなど社会問題に発展し、オークションサイトではマスクの出品禁止、さらに取引者への罰則を設けるなどの騒ぎにもなりました。さすがに、ここ数日はマスク関連のニュースも一時期ほどは見かけなくなりましたが――代わって、マスクどころではない、より深刻なニュースが次から次へと報じられています。

それらのニュースの中で、当サイトにとって身近な話題からピックアップしていくと、3月19日付の『神奈川新聞』に「川崎市麻生区の20代男性会社員が感染 シェアハウス居住」( https://www.kanaloco.jp/article/entry-304564.html )というニュースが掲載されました。以下、全文引用します。
「新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、川崎市は19日、同市麻生区の20代の男性会社員の感染が新たに判明した、と発表した。市内での感染は2人目。男性は同日夜に入院したが軽症という。12日に感染が判明した多摩区の70代男性との関係はないと見られ、最近の渡航歴もないという。
 市によると、男性は12日に発熱。15日に息苦しさを感じ、17日に市内の医療機関を受診。肺炎の診断を受け、男性は帰国者・接触者相談センターに電話相談。19日に陽性が判明した。
 男性はシェアハウスに知人4人と同居。市は2月27日からの行動を調べているが、ライブハウスなど換気が悪く不特定多数が集まる場所には出掛けていないという。発熱した12日に市内の仕事先に出勤した後は仕事に出ていないが、一度熱が下がったため、13〜14日にかけ、男性ほか5人の知人と車で神奈川の隣接県に泊まりがけで出掛けたという。
 市は、男性の同居者、車で外出した知人らが濃厚接触者とみて、関連自治体と連絡を取りながら調査を進めるとしている(2020年03月19日 21:05更新)」
一読した限り、今となってはべつだん珍しくもない「感染経路不明の感染者発生」というニュースに過ぎませんが、わざわざ見出しに「シェアハウス居住」というフレーズを使っているあたり、シェアハウスという住まい方が感染リスクの高いものであると認識されていることが窺われます。

また、同じ3月19日、新型コロナウイルス感染症の影響が不動産事業者の事業運営や営業活動にも波及していることを受けて、(株)LIFULLがLIFULL HOME'S加盟店企業に対して実施した「新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査」の結果(https://lifull.com/news/17124/ )が発表されました。詳細はリンク先をご参照いただくとして、同社のまとめによると、(1)7割の不動産事業者が、現時点で “企業活動に影響が出ている” と回答 (2)9割の不動産事業者が “今後の影響を心配している”と回答 (3)企業活動への影響を心配 賃貸仲介「来店者の減少」、賃貸管理と売買「売上の減少」が最多 という結果が浮かび上がりました。現時点で「影響が出ている」と回答した企業のうち、「社員が感染、または濃厚接触者となった」は3%前後というところですが、「商談の延期・中止」は25〜30%、「売上の減少」は40%台前半、そしてもっとも影響が深刻な「来店者の減少」「内見者の減少」は軒並み50〜60%台を超えています。さらに、今後の企業活動への影響については「売上の減少」を心配する声が65%前後という結果が出ています。
なお、同様の調査として、これに先立つ3月6日には(株)帝国データバンク(TDB)が「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」(調査対象:2万3,668社/有効回答:1万704社/調査期間:2月14〜29日)の結果( https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p200304.pdf )を発表しています。こちらは業界を問わず、さまざまな企業に幅広い調査を行ったものですが、これによると、「マイナスの影響がある」と見込んでいる企業は63.4%で、業界別に見ると「運輸・倉庫」が72.8%でもっとも高く、次いで「卸売」が72.5%、「小売」が66.9%と続いています。「不動産」は55.2%で、そのうち「すでにマイナスの影響がある」が20.4%、「今後マイナスの影響がある」が34.8%となっています。個別回答では、「リフォーム資材の納期遅れ、納期時期の不明」(建物売買)、「建材の納期が未定となり、新築物件の完成引渡し時期が未定となった。長引くと相当な影響がある」(土地売買)、「ビルの衛生管理に気を付ける程度の影響はある」(不動産管理)などの声が挙がっていました。ちなみに、「建設」は50.0%で、「すでにマイナスの影響がある」は18.5%、「今後マイナスの影響がある」は31.5%でした。いずれにせよ、上記のLIFULLの調査結果と比較すると、わずか2週間足らずの間に状況が急激に悪化していることが読み取れます。

これらの意識調査からも、すでに多くの企業が危機感を覚えていることは明らかですが、現在の状況はおそらく、大多数の企業が考えている以上に深刻です。たとえば、ひと口に「不況」とはいっても、不動産業界や一部の業界だけがそうなのではなく、国内のすべての業界、ありとあらゆる企業が軒並み不況に陥る――などということは、これまでまずなかったはずです。たいていの場合、悪いところがあれば良いところもあって、日本全体としては一定のバランスが取れていました。さらに、日本経済がどん底のときでも、海外には相対的に景気のいい国がいくつもあって、いざとなれば助けを期待できたり、もしくは日本を飛び出して外国に活路を見出すということも可能でした(もちろん、実際にできるかどうか、できたとしてもやるかどうかはまた別の問題ですが)。ところが――今回の「コロナ禍」は、すでに全世界的なパンデミックを引き起こしており、世界中どこへ行っても「安全な国」はありません。感染拡大に伴い、世界経済への悪影響も甚大なものとなっており、一部には「コロナ恐慌」の到来を予見するメディアもあります。感染拡大の終息なり、画期的な治療法や予防法の確立なり、とにかく何らかの新展開によって状況の劇的な好転が見られない限り、少なくとも当面の間はマイナスを最小限に抑える「守り」の姿勢を崩さないことが賢明でしょう。
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