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第106回 “進化”とシェアハウス

2022年11月15日、この日をもって世界総人口が推計80億人を突破するというニュースが流れました。人口の増加は、長寿化と乳児死亡率の低下が主な原因と言われています。その一方で、日本を含む先進国では人口が減少しつつあり、2048年には日本の総人口は1億人を切るとまで言われています。人口減少社会は当然、住宅業界にも深刻な影響を及ぼすことになりますが、これまでは総人口が減少しても世帯数は増加していることから、対策はなおざりにされてきたきらいがあります。世帯数の増加は単身世帯の増加、すなわち離婚率および生涯未婚率の上昇と密接な関係があると言われています。そして、離婚率の上昇は、母親と子どもだけの母子世帯の増加を意味し、いわゆる「ワンオペ育児」は母親の疲弊とともに、子どもの成長にとって大きな障害となっていることが指摘されています。ここしばらく、全国で相次いで報道されるようになった「送迎バスの園児置き去り事故」も、「高層住宅ベランダからの幼児転落事故」も、突き詰めて考えれば、親や保護者の目が子どもたちの身に届かなくなってきていることが大きな原因ではないかと考えられます。ただでさえ出生率が低下している現在、幼児の死亡事故は、たんに被害者家族や関係者にとって痛ましい「個人の悲劇」には止まらず、子育て世帯だけでないすべての大人たちにとっても、真剣に向き合わなくてはいけない社会問題ということができるでしょう。

さて、今回もシェアハウス関連の話題を中心にいくつか目についたニュースを紹介して参ります。まずは、10月28日付でダイヤモンド社のビジネス情報サイト『ダイヤモンド・オンライン』に掲載された「70代以上の『高齢者向けシェアハウス』増加、人気の理由と注意点とは」( https://diamond.jp/articles/-/311458 )という記事から。リード文には「『シェアハウス』と聞くと、若者たちが身を寄せ合いながら生活する様子を思い浮かべる人も多いはず。しかし近年、定年退職を迎えた70代以上の高齢者たちが共に生活をする“高齢者向けシェアハウス”が、各地にオープンしているらしい。高齢者向け住居の今に迫る」とあります。以下、本文を抜粋して引用します。
「(前略)『基本的には介護を必要としない高齢者が、複数人での戸建てをシェアする形や、共用部があるアパート型の集合住宅に住む住居スタイルを「高齢者向けシェアハウス」と呼んでいます』
 そう話すのは、一般社団法人高齢者住まいアドバイザー協会代表理事の満田将太氏。満田氏は『高齢者住宅仲介センター』を運営し、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の紹介を行ってきたシニア向け住宅のプロだ。(中略)
満田氏は7年前、千葉県にある『むすびの家』という高齢者向けシェアハウスの立ち上げに携わり、現在も運営に関わっている。当時、高齢者を対象にしたシェアハウスは数軒しかなかったが、現在は50軒ほどまで増えているという。
『以前は“高齢者向けシェアハウス”という言葉もありませんでした。しかし今は数が増えて、少しずつ認知度が上がっているのを感じますね。「むすびの家」はオーナーご夫婦が個人で運営しているシェアハウスですが、最近は介護とは関係ない一般企業や、NPO団体などが運営している物件が多いようです』(中略)
『今のところ、高齢者向けに展開されているシェアハウスは、集合住宅型の物件が多い印象です。先ほど触れたむすびの家もアパート型のシェアハウス。共用のスペースはありますが、それぞれの部屋にトイレとお風呂が付いているので、プライバシーも保たれています』
 そのほかにも、戸建ての一軒家を複数人でシェアする物件や、近隣農家の畑を借りて野菜づくりができるシェアハウスもある。それぞれ特徴は異なるが、“入居者同士が交流する機会と場所”があると満田氏。
『部屋が独立しているアパート型の物件でも、毎週末に共用スペースで夕食会を開いたり、毎日お茶の時間を設けたりする工夫をしていますね。また、入居者の見守りをサービスに組み込むシェアハウスも多いです。過去には、見守り中に新聞が郵便受けから抜かれていないことに気づき、オーナーが中に入ると風呂場で住人が倒れていた事例もあります』
 その入居者は幸い一命を取り留めたが、もしもひとり暮らしであれば、孤独死していた可能性もある。集団生活のおかげで、孤独死を免れたといってもいい。(中略)
『ある男性は、奥さんに先立たれて失意のどん底にあり、その様子を見た娘さんに勧められてむすびの家に入居しました。(中略)パートナーを亡くして寂しさを感じている人にとっても、シェアハウスはひとつの選択肢になりますよね』
 孤独死リスクの低減や、住人同士の交流などのメリットがあるものの、やはりトラブルは発生する、と満田氏。
『最近の話では、コロナ禍の影響で毎週実施していた夕食会を中止したところ「夕食会の材料費がかからないなら、費用を捻出している共益費も払いたくない」と主張する人が出てきたそうです。その後、ほかの人も巻き込み、共益費を巡って住人同士が対立してしまいました』(中略)
『シェアハウスの多くが入居者の交流を前提に造られています。なので、交流が好きではない人も不向きです。逆に、人との交流が好きな人はシェアハウス向き。また、面倒見がいい人や、優しい人、フットワークが軽い人、友達が多い人なども楽しく過ごしていますね。シェアハウスに入ってからハウス内だけでなく、その近所にもお友達の輪を広げた人もいます』
 共同生活が苦にならなければ、快適に過ごせるシェアハウスだが、重要な注意点があるという。
『高齢者向けシェアハウスは、自立している高齢者が対象なので“ついのすみか”になる可能性は低いです。入居しながら介護ヘルパーを利用する人もいますが、認知症を発症したり、要介護度がさらに高くなったりすれば、介護施設に移らなければならない場合も多いです。シェアハウスを視野に入れるときは、そうした健康面の入居条件も事前に確認する必要があります』(中略)
『70代と80代とでは、いくら元気でも体力面で大きな差があります。70代前半で入居すれば、その分長い期間をシェアハウスで楽しく生活ができます。共同生活の醍醐味を味わうためにも、興味がある人には早めの入居をお勧めしたいです』
 シェアハウスの住人たちが、生き生きと生活している姿を見て、満田氏自身も老後の選択肢に高齢者向けシェアハウスを入れているという。そして、中高年層は両親と今後の住まいに関する話をする際に、シェアハウスの話題を出してみては、と満田氏は提案する。(中略)
『これまでは、高齢者の住まいの話題はネガティブなイメージもありました。でも、シェアハウスという選択肢が新たに加わって、老後の住まい選びを前向きに捉える人も増えています。今はまだ数が少ないですが、件数が増えればより多くの人が自分に合った家を選べるようになるはずです』
 多様化する高齢者向けの住まい。超高齢社会の到来とともに、一人ひとりがベストな住まいを選択できる時代が近づいているようだ。(清談社 真島加代)」
一読しておわかりのように、同記事は「満田将太氏」という一人物のみを取材して書かれたものであり、記者である清談社(紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション)の真島加代氏は、満田氏の語る言葉をそのまま紹介する、というスタンスに徹しています。「プロの意見を尊重し、素人は余計な意見を差し挟まない」というスタンスは、それはそれで立派なものですが、その反面、真島氏自身は満田氏のスポークスマンでしかないため、満田氏があえて触れなかったことに関しては一切疑義を呈していない……という点に不満も残ります。たとえば、入居後に加齢や病気・ケガで介護レベルが上がるなどして退去せざるを得ない場合、その後の受け入れ先の問題が発生します。満田氏の話では、子どもや孫などの「身元引受人」の存在を前提としているように読めますが、それはつまり、入居審査に際して保証人が必要なのではないか? だとすれば、若者向けシェアハウスの場合にメリットのひとつとなっている「保証人不要」という項目は、少なくとも満田氏の考える高齢者向けシェアハウスでは成立しないとみるべきでしょう。さらに、入居時には身元引受人(保証人)がいた場合でも、入居後の時間経過によって条件が変化することは普通に考えられますから、そのようなケースではどのように対応しているのか? という疑問も生じます。いずれにせよ、高齢者向けシェアハウスには特有の難しさがある、という現実に目をつぶっていては、満田氏の語る明るい未来の実現も、あるいは絵に描いた餅になってしまうかもしれません。

次に取り上げる話題は、11月2日で『PR TIMES』で配信されたプレスリリース。
「大型国際学生シェアハウス『HAKUSAN HOUSE』『KAMIKITA HOUSE』家族型ロボット『LOVOT』がノンバーバルコミュニケーションマネージャーに就任〜国籍・言語の壁を越えた言語コミュニケーションで、居住空間に温もりをもたらす〜」( https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000064242.html )というタイトルで、要するに外資系企業の運営する国際シェアハウスにコミュニケーションロボットを導入した、という話題です。「今まで日本になかった新しい学生寮」をコンセプトに、英国の企業が2018年に立ち上げた日本法人が運営しているとのこと。確かに目新しい試みのようですが、画期的とまで言えるかどうか……ご参考までに。

最後にもう1本、10月19日付のアイティメディア株式会社が運営する『ITmedeia ビジネスONLINE』に掲載された「“おうち時間”増加も影響 進化する賃貸住宅 ジム、サウナに“映画館”付の部屋まで登場 『住む』だけじゃない付加価値のイマ」( https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2210/19/news024.html )というタイトルの記事をご紹介しておきます。こちらも一部抜粋して引用しましょう。
「昨今、『住む』以外の機能を備えた賃貸住宅が増えている。ワークスペースはもちろん、サウナやシアタールームまで兼ね備えた物件――といえば、驚く読者も少なくないだろう。背景には、コロナ禍で働き方、暮らし方が変化したことで住まいに求められる機能が拡大していることがある。新たなコンセプトによって変わりつつある賃貸住宅事情やビジネスの最前線を追った。(中略)
 特に05年以降のシェアハウスの増加はその傾向に拍車を掛けた。居住空間自体にそれほど差異がないシェアハウスでは共用部をどう作るかがポイントとなる。同様の考えはシェアハウス以外にも広まり、住まいで過ごす時間を豊かに過ごすことや、他の入居者とのコミュニケーションを意識した施設が多数作られるようになってきている。
 ところが、コロナ禍で事情が一変した。居室に『住む』以外の機能が持ち込まれるようになってきたのである。(中略)」
同記事では以下、いくつかの物件を実例として紹介していますが、これはぜひ、リンク先の元記事をお読みいただきたいと思います。見出しのみ取り上げていくと、
「共用部をワークスペースに活用」
「賃貸の“王道”に反した暗い部屋も」
「自然を取り入れ『創造性』『生産性』を高める物件」
「ジム、サウナ付き物件も登場」
「『転貸』『店舗営業』OKの物件も登場」
……といった内容。タイトルや、これらの見出しを見ると、すでにコロナ禍以前から一部で見かけるようになっていたオプションも散見されますが、それを「コロナ禍におけるテレワーク対応」という視点から切り取ることで、『ITmedeia ビジネスONLINE』という掲載媒体にふさわしい記事に仕上がっています。こちらの記事は株式会社東京情報堂代表取締役である中川寛子氏によるもの。さすがに40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、多くの著書を持つ中川氏だけあって、非常に読みごたえがある記事になっています。同記事の最後を、中川氏は次のように結んでおります。
「以上、最近の賃貸住宅の多様化、付加価値の現在を見てきた。最も目立つのは働く場を付加する動きだが、一部には法人登録できる賃貸住宅も出てきており、働き方という切り口だけでもまだまださまざまなやり方があり得るだろう。さらに眺望、健康、リラックス、趣味などとニーズのあるキーワードを付け加えていけば、賃貸住宅はまだまだ進化できる。というより、進化を期待したい」

中川氏が言われるように、賃貸住宅産業にまだまだ“進化”の余地があるとしても、裏を返せば、「今まで通りの旧態依然とした経営では生き残ることが難しい……」という状況であることに変わりはありません。シェアハウス大家さん一人ひとりが、それぞれできる範囲で“進化”を目指していく心構えが必要になってくるでしょう。
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