シェアハウス
イラン戦争
ナフサショック
高齢者シェアハウス
法人利用
若手芸術家向けシェアハウス
イラン戦争による「ナフサショック」という用語を頻繁に耳にするようになりました。前回の当コラムで、4月13日にTOTOが発表した「ナフサ不足に伴うユニットバスなど一部商品の新規受注停止」のニュースを取り上げましたが、それから1ヶ月が経過しても、事態は一向に改善される気配はありません。5月12日に食品メーカー・カルビーが「一部商品のパッケージ仕様を見直す」として、ポテトチップスなど定番商品の見慣れたパッケージの印刷を2色に変更すると発表しました。ナフサ不足に起因するものとされ、これと前後して他の食品メーカーでもパッケージデザイン等の見直しや生産停止の動きがあることや、もちろん食品以外の業界でも同様の影響が出始めていることが報道されています。これは、4月5日に高市早苗首相が「ナフサの供給が6月には確保できなくなる」との報道をX(旧ツイッター)で否定し、「事実誤認」とまで言い切ったことへの痛烈なしっぺ返しと言えるでしょう。ごく一部の高市政権支持者は、この期に及んで「中間業者が値上がりを見込んでナフサの出荷を止めている」などと陰謀論を主張しているようですが、それこそ1年前の「令和の米騒動」の際の「卸売業者がコメの流通を目詰まりさせている」という陰謀論の劣化コピー。食糧危機もエネルギー危機も、人間の生存に関わる根本的な問題であり、小手先の対応でやり過ごせるものではありません。影響の規模が小さいうちに、一日も早く何とかしていただきたいものです。
さて、今月のコラムで取り上げる業界ニュースは、まず、その「ナフサショック」に関する話題になります。
5月14日付の『ダイヤモンド・オンライン』に、「ナフサショックでマンション修繕工事ができない!?管理組合はパニックを抑え住民も納得する『修繕トリアージ』戦略で乗り切れ!」(
https://diamond.jp/articles/-/389949 )という記事が掲載されました。これは、同サイトの連載コラム「マンション羅針盤」の第26回に当たり、大浦智志氏(コネクトコンサルティング株式会社 代表取締役・税理士法人アイム会計事務所 社員税理士)による有料会員限定の記事になります。ここでは、無料で公開されている導入部分のみ引用いたします。
「中東情勢の影響はマンション建設および修繕工事の現場に大きな影響を与えています。危機をあおるニュースはちまたに溢れていますが、ここは建設サプライチェーンの構造を正しく理解した上で、マンション管理組合として『何をすべきか』を冷静に考える必要があります。
まず押さえたいのは『原油→ナフサ(粗製ガソリン)→建築資材』という一本のつながりです。マンションの外壁塗装に使う塗料も、それを希釈するシンナーも、目地を埋めるシーリング材も、屋上を守るウレタン防水材も、全て原油を起点とする石油化学の産物です。中東情勢が緊迫化すれば、この『川上(原油・ナフサ)→川中(基礎化学品)→川下(建築資材・現場)』のサプライチェーン全体にコスト上昇と供給の不安定さが波及します。実際、4月以降は各メーカーの出荷統制が広範化しています。塗料大手の関西ペイントはシンナー製品で75%以上の値上げと出荷統制を継続している他、水回り設備でも供給調整・受注一時停止が相次いでいます。
ここで一歩引いてマクロを確認しましょう。燃料用の原油については国家備蓄が約230日分、民間在庫が約70日分の合計約10カ月分が確保されており、いまだ戦後最大規模の備蓄が機能しています。ところが見落としてはいけないのが、石油備蓄法はオイルショック以来『燃料』確保を主眼に設計されており、建築資材の親であるナフサは法定備蓄の対象外であるということです。国家備蓄は0日分、民間在庫だけが頼りで、その量はわずか約20日分。原油はたっぷりあるのに、建材の原料は3週間で底をつくという非対称な構造が、今回の資材ショックの本質です」
大浦氏の文章は簡潔でわかりやすく、また、具体的な数字を挙げて論旨も明快です。引用したのは「前提」に当たる現状分析のみであり、まさにここから先が「本題」になるわけですが……興味をお持ちの方はリンク先をご参照ください。
次にご紹介するのは、(株)毎日放送の公式サイト『MBS ONLINE』に5月10日付で掲載された「自由に自分らしく…人気集める“高齢者シェアハウス” 家族に先立たれた女性『楽しい。みんなと話をできるのが良い』 社会とのつながり保ちながら生きる新たな老後の暮らし方に?」(
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mbs/2634541?display=1 )という記事。これは、4月29日にMBSテレビの『よんチャンTV』という番組内の「特集」というコーナーで放送された内容を文章化したもので、リンク先では、当該番組の動画も期間限定で公開されています。ところで――読んでみると、これは昨年12月16日、テレビ朝日系の報道番組『羽鳥慎一 モーニングショー』の中で紹介された2件の高齢者シェアハウスとまったく同じ物件の事例でした。他局の番組とはいえ、半年も経たないうちに同じ取材先を取り上げ、ほとんど同じ入居者が取材に対応しているわけですから、“テレビ慣れ”“取材慣れ”している感も見て取れます。前回のテレビ朝日の番組については昨年12月の当コラムで詳しく紹介しているため、今回は重複していない部分のみ、一部抜粋して引用します。
「■新しい暮らしの形 “高齢者シェアハウス”
ひとり暮らしの高齢者数は2020年が約670万人だったのに対し2040年には約1040万人になると推計されていて高齢化が進んでいます(出典:高齢社会白書2025年)。
そんななかで注目されているのが“高齢者シェアハウス”です。一体どんな暮らしなのか、新しい暮らしの形を取材しました。(中略)
■利用者同士が交流できる食事会は大盛り上がり
この日は、シェアハウスの運営スタッフも参加する月に1度の食事会です。
女性が得意料理の『牛すじ煮込み』をふるまいます。(中略)
(スタッフ)『僕がつくりましょうか?』
(利用者)『自分のことは自分でします』
■入居条件は自立した日常生活が送れる65歳以上の高齢者
入居できるのは、自立した日常生活が送れる65歳以上の高齢者。スタッフは常駐せず、共用キッチンでの料理や洗濯は、入居者が各自で行っています。
家賃は月5万5000円。標準的な老人ホームや、サービス付き高齢者向け住宅に比べて、半分程度です。(中略)
■自由のある生活を求めた79歳男性
79歳の茂森稔さんは…
(茂森稔さん)『前は老人保健施設で自由がなかったので、自由のある生活を求めてきました(Qここは自由がある?)自由、好き放題』
一般的な高齢者施設の多くは一日のスケジュールや食事が決まっていますが、ここでは自由にすごせます。
■高齢化が進む日本 “ほどよい距離感”のシェアハウスが人気
高齢化が進む日本。ひとり暮らしの高齢者の数は、2040年には1000万人を超える見込みで、地域からの孤立や、健康状態の悪化に気づきにくいなどの課題が指摘されています。
こうしたなか、程よい距離感で共同生活をおくることができる高齢者向けシェアハウスが人気を集めていて、ここも14ある部屋すべて満室状態が続いているといいます。
■体操や健康相談を受けることが可能
『息を鼻から吸います。吸うときにお腹をぷくーっと膨らませるように…』
基本的には自立した生活を送りますが、週に1度ケアマネージャーとリハビリ専門スタッフが訪問。体操をしたり、健康相談を受けたりすることもできます。(中略)
■施設と違い気兼ねなく家族と過ごすことも
この日、79歳の茂森さんの部屋に、娘と5歳の孫がやってきました。
(孫)『たけのこご飯』
(茂森稔さん)『ありがとう』
この時間が一番の楽しみです。以前いた高齢者施設では家族と会うには予約が必要で面会室でしか会えませんでした。ここでは気兼ねなく一緒に過ごすことができます。
■『孤立感は全然ない』社会とのつながりを保ちながら自分らしく生きる
(茂森稔さん)『もう字もだいぶ覚えてるやろ?』
(孫)『「あ」とか「い」とか』
(娘)『週1、2回は来てますかね。この子は週1回か』
(娘)『のびのびしていて楽しそうに過ごしていますね。前(高齢者施設は)規制が多かったので』
(茂森稔さん)『孤立感とか全然ないし、ほかの部屋も人もあいさつしてくれるし、楽しいですよ』
社会とのつながりを保ちながら自分らしく生きる。こうした老後の暮らし方が広がっていくかもしれません」
「新しい暮らしの形」と銘打っているわりには既視感のある情報ばかりですが、もともとテレビ番組の一コーナーであるため、専門的な解説や深い掘り下げはありませんが、高齢の入居者にシェアハウスでの暮らしを具体的にイメージしてもらうには、テレビは依然として有効なツールでしょう。動画はスマホ等でも視聴できますが、テレビ局の取材スタッフという第三者が介在することによる「客観性の担保」は、誰もが一次情報の発信者となりうる現代社会だからこそ、逆に信頼性を高める効果もあるようです(若年層とは感じ方が違う、という点に注意が必要でしょう)。
次にご紹介するのは、5月8日付で発表された東京ディフェンス(株)のプレスリリース。「物価高騰の時代に『定額』で住める。企業の社宅需要に応える都内3拠点シェアハウス『クランテラス』が法人利用を強化」(
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000162028.html )というタイトルの通り、シェアハウス運営会社のプレスリリースですが、導入部であるリード文になかなか興味深い内容が書かれているので抜粋して引用いたします。
「東京ディフェンス株式会社(本社:東京都品川区)が運営するシェアハウス『クランテラス(CRANN TERRACE)』は、物価高騰による住宅賃料の上昇が続く中、賃料・管理費ともに定額制のプランを維持し、企業が社宅としてしやすい環境を提供しています。このたび、法人利用のさらなる拡大に向けた取り組みを強化することをお知らせします。
■背景:物価高騰が直撃する『社宅問題』
近年の物価・光熱費の上昇に伴い、都内賃貸住宅の家賃は上昇傾向が続いています。社員の転勤・採用時に発生する初期費用(敷金・礼金・家具購入費)は企業や社員にとって大きな負担となっており、社宅コストの見直しを迫られる企業が増えています」
……とまあ、言ってしまえば「当たり前」の内容なのですが、シェアハウス大家さんにしてみれば、「法人利用」というのはなかなか魅力的な選択肢と言えるかもしれません。入居者間のトラブルや空室問題、家賃回収問題など、シェアハウス大家さんが日常的に頭を悩ませている問題も、契約先の法人がかなりの部分を肩代わりしてくれるわけですし、その法人が安泰である限り、ハウス運営も安定することになります。もちろん、その法人が倒産するか契約を打ち切られれば、一気に全入居者が出ていくことにもなりますが……。
もう1本、5月4日付で『讀賣新聞オンライン(YOL)』に掲載された「若手芸術家向け格安シェアハウス、共用部に『創作室』付きで入居者『理想的』…東京・三鷹市」(
https://www.yomiuri.co.jp/national/20260430-GYT1T00048/ )という記事をご紹介しておきます。こちらは読売新聞の長谷裕太記者による署名記事になります。以下、全文を引用します。
「東京都三鷹市が先月、三鷹の森ジブリ美術館など文化施設が点在する市内の地域に、若手芸術家を対象としたシェアハウス『三鷹ヴィレッジ 森のアトリエ』をオープンさせた。次世代の芸術家を育成するとともに、住民の文化活動も促進したい考えだ。地域おこしや魅力創出につながるとして、都や他自治体も芸術家支援に取り組んでいる。
■先月上旬にオープンした若手芸術家を対象としたシェアハウス
シェアハウスは2棟あり、定員6人。居室内に階段があるメゾネットタイプで、2人1組で1階の共用部にある『創作活動室』を利用する。活動室は約7畳で、彫刻や絵画など芸術作品を自由に制作できる。2階には約7畳の居室が2部屋ある。
入居する彫刻家の淺井颯人(はやと)さん(24)によると、彫刻は材料費が月に3万〜4万円かかるうえ、展示会は会場費だけで数十万円になり、支出が多いという。作品の売り上げや貯金を生活費などに充てており『彫刻制作に必要な広さを安く確保できて助かる』と喜ぶ。
■定員の3倍応募
市が2023年春、土地と建物の寄贈を受けたことをきっかけに計画が始まった。市は有識者らによる研究会を設置し、活用方法を検討。この中で『若手芸術家は創作に使える場所が限られ、経済的な不安も抱えている』といった意見が出され、市が昨年度、約8565万円をかけて改修した。
運営主体となるNPO法人『三鷹ネットワーク大学推進機構』が、今年2〜3月、30歳代前半までを対象に入居者を募集すると、定員の3倍を超す22人から応募があり、実績や面接を通して入居者が決まった。入居者は原則、3年間利用できる。
■交流イベント
26日には、地域住民ら約120人が参加して交流イベントが開催された。淺井さんら入居者が過去の作品を展示し、意図を説明したほか、地域住民らも交流スペースの活用法を考えるなどした。近くに住む森脇多恵子さん(70)も参加し、『高齢化が進む地域に、若い力が加わるのはありがたい。地域としても芸術家を応援していきたい』と話した。
入居者による体験講座も今後開かれる予定で、市の担当者は『創作の現場を身近に感じられる、地域に開かれた場所にしたい』と期待を寄せる。
■他の自治体でも
都や都内の他自治体も芸術家を支援している。
台東区は、区内で開催する音楽会や若手作家らによるトークイベントなどの文化芸術活動について、赤字分を最大240万円まで助成している。採択されると区から委嘱された専門家から助言やサポートを受けられる。
文化政策に詳しい立教大学大学院の佐藤李青特任准教授は『行政からの支援は若手芸術家にとって経済負担の軽減になるうえ、様々な人と触れあうことで作品の新たな方向性を見いだす可能性がある。地域にとっては活性化につながる面もあり、双方にメリットがある』と話す」
もちろん、ここで紹介されている事例は「行政からの支援ありき」ですから、民間のシェアハウス大家さんにとってそのまま参考になるものではありません。ただし、当コラムでもしばしば取り上げている、広義のいわゆる「トキワ荘プロジェクト」――漫画家に限らず、音楽家や起業家の卵を集めて一人前になるまでの支援を含めた生活の場としてのシェアハウス、という意味で、芸術家(ここでは主に彫刻家)という対象も十分に考えられることです。生き残りをかけた過当競争の中で、自ら運営するシェアハウスの「個性」や「特徴」を際立たせようと思うなら、過去の成功例を後追いするのではなく、むしろ視野を拡げて「今まで(ありそうで)なかった」対象を探すことも大切ではないでしょうか。
ナフサに限らず、近い将来さまざまな物資の不足が表面化してくることが予想されます。「先を見越して先手を打つ」のは容易ではなく、逆に詐欺被害などに遭うリスクも考えられるでしょう。自分を守れるのは、結局は自分だけなのですから、広く情報収集に努め、「何が正しくて、何が間違っているのか?」を正しく見極める目を養わなければならないのです。