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第117回 プレスリリースとシェアハウス

10月1日、さまざまな反対意見を内包しつつも、ついにインボイス制度がスタートすることになりました。シェアハウス大家さんの場合、他に本業を持っておられる兼業大家さんはもちろんのこと、不動産オーナー専業の方であっても、このインボイス制度の影響を直接受けるということは考えにくいと思われます。オフィスビルやテナントビルなどを何棟も抱えて多角的に経営されている……という方であれば話は違ってきますが、仮にシェアハウス以外の不動産を運用されているとしても、アパート・マンションなど居住用不動産であれば特に影響はありません。居住目的の家賃には消費税がかからないため、家賃収入は非課税売上ということになるからです(ただし、駐車場の使用料や、マンションの一室を居住者がオフィスとして使用している場合の家賃は、消費税の課税売上となりますから注意が必要です)。シェアハウス大家さんにとってのインボイス制度の直接的な影響としては、むしろ、入居者側の減収や廃業等による家賃滞納や退去のリスクが高まることが考えられます。とはいえ、これについてはケース・バイ・ケースで、なんだかんだ言いつつも「実際に始まってみなければ、どう転ぶかはわからない……」という部分が少なからずありますから、今から心配していてもどうしようもありません。差し当たっては、今後の入居者面談の際、相手がフリーランスの個人事業主であれば、インボイス登録の有無や登録番号について確認しておいたほうがいいかもしれません。

さて、今月も直近のニュースの中から目についた話題を取り上げて参りましょう。まずは、時事通信社が運営するニュースサイト『時事ドットコムニュース』に掲載された「日本初の DAO型 シェアハウス『Roopt DAO』、開業から 1 年で売上 1.7 倍&利益率の大幅改善を達成」( https://www.jiji.com/jc/article?k=000000010.000080525&g=prt )という“記事”になりますが……。ひとつお断りしておくと、“ニュース”とか“記事”とか書いてはいますが、正確に言えばこれは「プレスリリース」であり、早い話が当事者自身の情報発信による宣伝広告に近いシロモノです。それを敢えて当コラムで取り上げた理由は、この事例が、きわめて興味深い先進的な取り組みであり、シェアハウス大家さんにとって何らかの参考になるのではないか? と考えたからです。以下、抜粋して引用しつつ、適宜補足して参ります。

「〜DAO で稼働率 UP&運営・集客コスト減を実現〜
空き家活用のシェアハウスで若者の U・I ターンを創出する株式会社巻組(中略)および、分散型自律組織『DAO』のコンサルティング・実務支援を提供する株式会社ガイアックス(中略)は、日本初(※日本ブロックチェーン協会 理事の峯荒夢氏により、当該取り組みの前例がないと確認)となる DAO(※Decentralized Autonomous Organization の略。分散型自律組織。メンバーの投票などによって意思決定がなされ、自律して動く組織)型シェアハウス『Roopt DAO(ループト・ダオ)』の運営から 1 年の事業報告会を開催しました。
Roopt DAO は、DAO 導入前と比較して、『高い入居率』および『集客・維持管理コストの低減』を実現し、物件の魅力と収益性の双方を大きく向上しています。(後略)」

まず、ここまでが通常の記事でいう「リード」の部分、本文全体の要約になります。核となる「DAO(ダオ/分散型自律組織。自律分散型組織ともいう)」という専門用語についての簡単な説明はあるものの、「日本ブロックチェーン協会」とか、「DAO型シェアハウス」とか、聞き慣れない固有名詞や造語がポンポン飛び出し、かなりとっつきにくい文章になっています。本文ではこれに続いて、具体的な内容に入ってくるわけですが……。ふたたび、引用してみましょう。

「(前略)■ 売上が 1.7 倍に伸長:DAO コミュニティがドミトリーの魅力を引き上げ、稼働率・定着率を大きく向上
1.Roopt DAO のコミュニティメンバー、430 人超え(Discord 参加者、9 月 15 日現在)
 シェアハウス 10 ベッドに対し、43 倍の人がコミュニティに参加している計算。
2.入居率は 2022 年 12 月以降、8 割以上をキープ
3.売上タイミングにおいても、NFT 販売による先入金により、回転差資金が発生(後略)」

ここで1つ明らかになったのは、この「Roopt DAO」というシェアハウスがドミトリー・タイプの物件だということです。しかも、ベッド数は10と言いますから、ドミトリー・タイプにしてもかなり小規模なシェアハウスであると思われます。入居率は8割以上とのことで、8〜10人の間で安定しているようですが……これだけだと、何が凄いと言いたいのか、よくわからないでしょう。そこで、別の部分に着目すると、コミュニティメンバー(=Discord 参加者)が430 人超、とあります。Discordというのは、米国で開発された「テキストチャット」「音声チャット」「ビデオチャット」ができるサービスのこと。要するに、シェアハウスに住んでいる8〜10人の入居者の他に、420人以上のコミュニティメンバーとオンライン上で繋がり、コミュニケーションを取ることができるというメリットがあるわけです。また、「NFT 販売」云々、というのも、知らない人には理解しづらい文章ですが……調べてみると、NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)とは、「ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータのこと」と説明されています。この「非代替性トークン」にしても、前出の「ブロックチェーン」にしても、ごく大雑把に言ってしまえば、インターネット上で金融取引を行う際に用いられる「不正防止のための技術体系」ということになるでしょう。このNFTの中身については後回しとして……この先を見ていきましょう。

「(前略)■ 運営・集客コストを大幅改善:DAO コミュニティが自律的なシェアハウス運営を促進、事業者のコストを低減
1.シェアハウス運営業務の一部を DAO メンバーが実施
報酬としてのリワードトークン付与の仕組みが機能。合計 205 時間分(掃除を外注した際の4年分に相当)に対しトークン付与。シェアハウスの広報・集客も DAO メンバーが実施。
通常、スタッフがシェアハウスに行く回数が 30 回/年程度のところ 3 回/年に減少したにも関わらず、他の物件よりも詳細に状況を把握(後略)」

ここにも「リワードトークン」という聞き慣れない用語が出てきますが、それ以外はおおむねわかりやすい説明になっていると思います。要するに、シェアハウス運営に付随するさまざまな業務(清掃や入居者募集等)を、DAOメンバー(=入居者を含む合計430人以上のコミュニティメンバー)が管理会社に代わって実施し、管理会社はその報酬をNFT(非代替性トークン)によって支払う、という仕組みです。これにより、管理会社(この事例では株式会社巻組)の負担(人件費や外注費)を大幅に低減しただけでなく、DAOの魅力によって入居者の定着率が高まり、売上も約1.7倍に上がった――ということのようです。
なお、これとまったく同じニュースを、第三者の視点から取材したのが、株式会社メディアジーンが運営する「ミレニアル世代のための経済メディア『Business Insider Japan』」に2023年10月12日に掲載された「『家賃3万のNFTシェアハウス』が予想以上の大成功。開始1年、成功の鍵は“報酬トークン”」( https://www.businessinsider.jp/post-276635 )という記事になります。こちらの記事では、この「Roopt DAO」の家賃や所在地も含め、いろいろ具体的な内容について語られています。また、リンク先で無料会員に登録すれば、記事の続きを読むことも可能です。

もう1本、株式会社不動産流通研究所の運営する『R.E.port』に10月5日付で掲載された「元社員寮をペット共生型シェアハウスに再生」( https://www.re-port.net/article/news/0000073866/ )というニュースについてもご紹介しておきましょう。これも、“ニュース”というよりは「プレスリリース」に近い内容なのですが……以下、抜粋して引用します。

「千島土地(株)(中略)は4日、ペット共生型シェアハウス『ペミリ住之江(Pemily)』(大阪市住之江区、総戸数45室)を2023年11月にオープンすると発表した。
 元社員寮をシンプルでスタイリッシュな空間にリノベーションし、ペット(小型犬)と暮らせる大規模シェアハウスに再生する。大阪メトロニュートラム『平林』駅徒歩2分に立地。目の前には公園があり、気軽に散歩ができる。居室面積は12平方メートル。
 共用スペースには、開放的なキッチンやダイニング、ゆったりとくつろげるリビングなどを備えるほか、全面人工芝の屋外ドッグランや、出入口にはペット用の足洗い場も完備。ペットグッズ販売スペースも設置する。ドッグトレーナーの資格を持つスタッフが管理人として常駐し、ペットに関する相談に対応していく。運営はペット事業を展開するbonne puppy(ボンパピ)(後略)」

一読して、こちらはだいぶわかりやすい事例であり、記事内容だと思います。成功するか否かはさておき、取り組み内容もハウスの特徴もイメージしやすく、とっつきやすい。もちろん、「ドッグトレーナーの資格を持つ管理人」などの専門性の高さには斬新さも感じられますが、「元社員寮をリノベーションした」という事例には既視感もあり、良くも悪くも、シェアハウス大家さんが想像できる範囲内に収まっていると思われます。

これに対して、最初にご紹介した事例は、おそらく大半のシェアハウス大家さんにとっては「ピンとこない……」ものだったのではないでしょうか? DAOといい、NFTといい、日頃から興味や関心を持って勉強していなければ、これらの用語に触れる機会はなかなかありません。また、リンク先で最初のプレスリリースをご覧になればおわかりのように、発信者側にも「知らない人が読んでもわかりやすいように」という配慮が足りず、わかりにくく伝わりにくい内容になっています。とはいえ――そこで「興味がない」「わからない」と切り捨ててしまっては、何も始まりません。わからなければわかるまで、人に教わったり自分で調べたりして勉強してみる。その結果、試してみる価値があると思ったら、実践してみる。リスクは当然ありますが、自分の頭で考えて、リスクに見合うだけのリターンがあると判断したのであれば、挑戦してみるのも選択肢の一つではないでしょうか。
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