現地時間4月13日23時過ぎから同14日にかけて、イランがイスラエルに向けて多数のミサイルや無人機を使った大規模な攻撃を仕掛けました。イスラエル側は、アメリカなどの協力を得て、そのほとんどを迎撃したとしています。この攻撃について、イランは「4月1日にシリアにあるイラン大使館がイスラエルの攻撃を受け、革命防衛隊の司令官らが殺害されたことへの報復」としており、イランのライシ大統領は「敵のイスラエルに教訓を与えた」との声明を発表して攻撃の成果をアピールしています。ライシ大統領といえば、昨年暮れにモスクワを訪問してロシアのプーチン大統領と会談した際、「パレスチナとガザで起きていることは言うまでもなく大量虐殺であり、人道に対する犯罪だ」と批判し、これがアメリカと西側諸国によって支持されていることは「さらに悲しいことだ」と述べています。また、年明けにイラン国内でテロ事件が発生した際には、中国の習近平国家主席がライシ大統領宛に見舞いの電報を送っているように、イランは露骨な反米姿勢を見せており、イランとイスラエルの軍事衝突は「世界大戦の引き金にもなりかねない……」きわめて深刻な事態といっても過言ではないでしょう。もちろん、人類はそこまで愚かではない、と信じたいところですが……地球上の誰ひとりとして望んではいないはずの戦争が、いつの間にか、私たちのすぐ背後にまで迫ってきているのかもしれません。そんな危機的状況下で、私たちに何ほどのことができるとも思えませんが……せめて、望ましくない選択肢には「NO」の意思表示ができるようにしたいものです。
気を取り直して、今月も直近のニュースから興味深い話題についてピックアップして参りましょう。まずは、4月13日付の『テレ朝news』で紹介された「【SDGs】役割分担がなくても善意で成り立つシェアハウス」(
https://www.youtube.com/watch?v=c0YhsRd_Abs&list=PLKeSkVQhqoOpQkhAux42Z9JsP-gTn80Aq&t=4s )について。これに関しては、リンク先の動画をご覧いただいたほうが話が早いでしょう。2分ほどの動画で、言いたいことはすべてタイトル(「役割分担がなくても善意で成り立つ」)で言い表しています。要するに、ルールでカッチリ分担を決めるよりも、各自がそれぞれの臨機応変に判断し、ゆるやかに助け合いしつつ、楽しくやってますよ……という事例のようです。もちろん、事実ではあるのでしょう。ただし、どこのシェアハウスでも再現できるノウハウがあるわけではなく、ここのハウスでは「たまたまうまくいった」だけに過ぎないように思えます。その意味で、たいへん羨ましく、また希少な事例かもしれませんが、シェアハウス大家さんにとって具体的に参考にできるケーススタディにはなり得ないようにも思えてなりません……。
次に、株式会社インプレスの運営する情報サイト『INTERNET Watch』に4月11日付で掲載された「日本初のDAO型シェアハウス『Roopt DAO』、4月22日解禁の『合同会社型DAO』へ」(
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1583588.html )という記事。この『Roopt DAO』というシェアハウスについては、プレスリリースの紹介という形で、当コラムでもこれまで何度か取り上げたことがあり、ご記憶の方も多いと思われます。今回もおおよそ似たような経緯でプレスリリースを元に書かれたもののようですが、こちらはインプレスの社員である山田貞幸記者の署名記事となっています。以下、全文を引用します。
「株式会社ガイアックスおよび株式会社巻組は、日本初のDAO型シェアハウス『Roopt DAO』(ループト・ダオ)を、4月22日に合同会社化すると発表した。同日に国内で解禁される日本版合同会社型DAOの先例を作るとしている。
DAO(Decentralized Autonomous Organization:ダオ)とは、Web3の重要キーワードの1つであり、『自律分散型組織』と訳される。ブロックチェーンやスマートコントラクト(ブロックチェーン上に記録されたルールに従い、取引や契約が自動的に行われる仕組み。不正を防ぎ透明性を担保できる)を用いて運用されることが特徴となる。
従来の組織では、スムーズな情報共有や意思決定のために階層構造や中央の意思決定機関が求められるようになるが、DAOでは、よりフラットな形態の組織でも情報共有や意思決定、また出資や分配も同様にスムーズに行えることが期待される。そのため、『中央集権的でない組織』『中央管理者を持たない組織』のように紹介されることもある。
■DAOにより皆がリスクを共有して運営されるシェアハウス
Roopt DAOは、2022年8月にスタートし、東京・神楽坂のシェアハウス『Roopt神楽坂 DAO』を運営。ガイアックスがコンサルティングや運営支援を行い、シェアハウス運営を手掛ける巻組がDAOに参加し、法人格が必要な各種手続きなどの窓口となる体制だった。
従来の賃貸住宅では、サービス提供者である大家と顧客である住人の立場が明確に分かれ、しばしば利害が対立する(リスクを共有できない)。対して、DAO型シェアハウスでは、大家や住人のほか、利用者、支援者らがリスクをシェアし、運営方針を話し合い、タスクも分担しながら運営していることが特徴となる。
Roopt DAOでは、『Discord』を使用したコミュニティに住人・支援者ら400人以上が参加して議論や意思決定が行われており、広報や集客を含めた運営業務もDAOメンバーが実施している。『学生起業家DAOシェアハウス』を打ち出してのブランディングもあって、スタートから1年で売上1.7倍、利益率も大幅改善といった実績を上げていた。
■4月22日に合同会社型DAOが解禁
DAOが、その組織の特徴を保ったまま法人格を持つことができる事例は海外にはあるが、これまで、日本では不可能だった。しかし、4月22日に施行・適用する『金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令』により、可能になる。
もっともDAOに近い形態の会社は、出資者と経営者が同一である合同会社だが、これまで、DAOが合同会社になるには、DAO内で貢献に対する報酬や権利の証明としてやり取りされるトークン(暗号資産)の扱いについてが、大きなハードルとなっていた。
従来の金融商品取引法では、社員権のトークンは『一項有価証券』とされ、有価証券届出書や証券業登録などの厳格な規制が適用された。これが、改正により、業務執行社員が保有するトークンと収益を分配しないトークンについては、前述の規制の適用外である『二項有価証券』扱いとされるようになる。
■空き家対策の『仕組み化』を目指す
Roopt DAOでは、Discord内で投票によって意思確認を行い、合同会社化を決定した。投票は4月8日に終了し、今後は、合同会社型DAOの定款マニュアルなどを展開している団体の情報を参照しながら、合同会社型DAOの実現に向けて進めていく予定だとしている。
合同会社化のメリットは、DAO自身が法人格を持ち主体的に活動できること、そして、収益分配が可能になることにある。ガイアックスの廣渡裕介氏(DAO事業部 副事業責任者)は、『通常、DAOでは、活発に貢献をするメンバーと見守るメンバーに2極化しますが、合同会社型にすることにより、見守るメンバーにも金銭的な収益分配が可能になり、役割の明確化とそれに応じた報酬設計が可能になります』とコメントし、Roopt DAOで自律分散的にマネタイズしていくための設計支援に注力したいとしている。
また、合同会社化により、増え続ける空き家対策の『仕組み化』を目指すとしており、巻組の渡邊享子氏(代表取締役)は、Roopt DAOを皮切りに、次世代型の不動産賃貸運営の手法を模索したいとコメントしている」(INTERNET Watch 山田貞幸/2024年4月11日 16:00更新)
この「Roopt DAO」については、以前当コラムで紹介した際にも「おそらく大半のシェアハウス大家さんにとっては『ピンとこない……』ものだったのではないでしょうか?」と書いていますが、今回もイマイチ、「シェハウスを合同会社化するとどんなメリットがあるのか?」とか、「『一項有価証券』と『二項有価証券』の違い」であるとか、かなり難解な記事になっているように思います。ただし、約半年前の初出時よりはあきらかにすんなり読み進めることができたと思いますから、元記事の読み手が「既知のものである」と認識すれば、それだけ具体的なイメージが浮かびやすくなるでしょう。
続いてご紹介するのは、日本の最南端・沖縄県のローカルニュースサイト『沖縄タイムス』に4月8日付けで掲載された「『最期の時間』は住み慣れた地域で シェアハウス型在宅ホスピス、今夏オープン予定 NPO『いきがいLABO』が沖縄市で」(
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1338885 )という記事。この「シェアハウス型在宅ホスピス」についても、以前当コラムで取り上げたことがあります。以下、全文を引用してみましょう。
「沖縄県内初とみられる民間のシェアハウス型在宅ホスピスの開所計画が進んでいる。医師、看護師、作業療法士の3人が共同代表を務めるNPO法人『いきがいLABO』が沖縄市美里で整備を進めている。終末期の患者が、医療や介護ケアを受けながら住み慣れた地域で、同じ境遇の人と一緒に生活できる。今夏オープンの予定だ。
病院のホスピスではなく、住み慣れた地域や自宅で最期を迎えることを望む人は多いが、家族での見守りが難しい場合もある。
『「最期の時間を地域で暮らしたい」という当たり前の思いを実現できる場所をつくりたい』
同法人の共同代表の一人、医師の長野宏昭さん(44)はその思いで構想を練ってきた。
長野さんが院長を務める訪問診療クリニックや訪問看護、介護事業所などが入居する3階建てビルをリフォームして開設する。
2階部分に在宅ホスピス『いきがいの家』を整備する。個人の空間を確保するため寝室を8室設け、リビングやキッチンを共有する。3階のクリニックや訪問看護・介護事業所のケアが受けられる。
1階には、がんや難病患者、医療的ケア児や認知症の高齢者、その家族らが医療や介護の相談をできる『よりどころ』を開設する。
看護師で共同代表の親泊朝光さん(45)は『おかえり、ただいまと言える家をつくりたい』と話す。同じく共同代表で認定作業療法士の田村浩介さん(46)はよりどころについて『気軽に集い、相談できる場所にしたい』と意欲を語る。
先月24日には、取り組みを知ってもらおうと医療関係者向けに見学会と講演会を開いた。講演会では、がん患者などが看護師や心理士に無料で相談できる『マギーズ東京』(東京都)の秋山正子センター長が『地域の人に理解し支えてもらうことが大事だ』とアドバイスした」(沖縄タイムス 社会部・屋宜菜々子/4月8日12:17更新)
なお、同記事の末尾には「在宅ホスピス」についての用語解説が付記されています。当コラムでは以前、これとほぼ同義の「ホームホスピス」という用語について簡単に紹介したことがありますが、念の為、改めて引用しておきましょう。
「[ことば] 在宅ホスピス
終末期の患者に対し、医療機関ではなく、自宅や地域で緩和ケアをすること。訪問診療・看護・介護などを利用しながらその人らしい生活を目指す。自宅での生活が難しい場合はシェアハウスなどの民家で、同じ境遇の人と過ごす方法もある。最期を住み慣れた場所で過ごしたいというニーズは高く、高齢化に伴い死亡者が増加する中、ケアする人材の育成や確保、自宅以外の受け皿の整備が課題になっている」
さすがに過不足なく、わかりやすい解説になっていると思います。また、「在宅ホスピス」における「シェアハウス」の位置づけにしても、必要にして十分な条件を備えている施設であることが説得力を持って語られているのではないでしょうか。
「ゆりかごから墓場まで」という言葉がありますが、奇しくも、冒頭で紹介した「善意で成り立つシェアハウス」が子育て夫婦も入居している物件の事例であり、次に紹介した「Roopt DAO」が合同会社型、すなわち事業としての収益配分を可能とするビジネスモデルの事例であったことを思えば、今回のコラムで取り上げた3つの事例は、それぞれ「幼少期」「成人期」「晩年期」のライフステージにおけるシェアハウスの具体的な活用例を示唆するものとなりました。無論、この3つのテーマが同じ月に話題になったのは偶然ではありますが……かつてはシェアハウスといえば「大学生からせいぜい20〜30代の独身者が集まって暮らす家」というイメージであった(現在でも、このようなイメージをお持ちの方は少なくないでしょう)ことを思えば、隔世の感があります。シェアハウスという住まい方が日本に根づいてから、まだ四半世紀も経ってはおりませんが、将来的には「シェアハウスで生まれ育ち」「シェアハウスで暮らしたまま成人して仕事に就き」「シェアハウスで暮らしながら伴侶を見つけ、結婚して子どもを育て」「最期の時までもシェアハウスで迎える」……という生き方をする人びとも必ずや出てくることでしょう。いずれ、そのような時代が到来したとき、シェアハウスという住まい方は、何も特別なことはない、ごく当たり前の選択肢の一つとなっているに違いありません。