気象庁では、2023年度の関東甲信地方の梅雨明けを「7月19日頃」と予測しています。すなわち、本コラムの更新直後はまだ「梅雨明け前」ということになりますが……ここしばらくは連日、最高気温30度超の「真夏日」で、最高気温35度超の「猛暑日」も珍しくない、例年以上に厳しい暑さが続いております。2〜3年前から環境省と気象庁の協同で「熱中症警戒アラート」が発表されるようになりましたが、この7月10日前後には、関東地方で今年初めて「熱中症警戒アラート」が発表され、対象地域の住民には「エアコンの使用」「小まめな水分補給」などの注意事項に加えて、「不要不急の外出の自粛」とどこかで聞いたようなフレーズまで飛び出しています。まだ梅雨も明け切らないうちからこうですから、今後、梅雨明け以降はさらに厳重な警戒が必要になるものと思われます。その一方で、2023年6月1日付の電気料金改定により、電気料金は全国的に高騰しています。中には、「エアコンの電気料金を確保するためには、食費を削るしかない……」という人、すなわち「熱中症で死ぬか? 餓死するか?」というギリギリのところまで追いつめられている人もいるかもしれません。厚生労働省の統計によれば、2022年6〜9月の熱中症による死亡者数は全国で1387人と「ほぼ例年並み」でした。無論、大半は抵抗力の弱い高齢者や幼児だと思われますが、その一方で、「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、2022年には合計827人が病院へ搬送されるなどしており、うち30人が亡くなっています。つまり、就業年齢にある「いい大人」で、特に健康面の不安(重篤な持病など)を抱えているわけでなくても、熱中症で病院へ搬送されたり、亡くなられたりするケースが考えられるということです。シェアハウスの場合、水道光熱費は賃料込みで一律、という料金体系を採用しているところが多いと思われますが、もし、部屋別に電気料金を徴収されている場合、入居者が適切にエアコンを使用しているかどうか、気にかけておく必要があるでしょう。
そこで今回、最初にご紹介したいのが、7月13日に積水ハウス(株)が発表した「暑さ対策における節電調査」(
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/research/20230713/ )の結果です。これは、今年の4月7〜10日、全国の20〜60歳代の男女を調査した結果をまとめたもので、すなわち「6月の電気料金改定よりも前」「猛暑を実際に体感する前」に実施された調査である――ということを念頭に置いて結果を見ていったほうが良いでしょう。これによると、2023年の夏、日中の過ごし方の意向として「外出したい」と回答したのは合計65.2%(屋外54.7%、屋内10.5%)となり、屋外だけで過半数を超えています。これは、2022年の合計47.2%(屋外32.8%、屋内14.4%)はもちろん、コロナ禍以前の合計51.8%(屋外35.6%、屋内16.2%)をも上回るもので、とりわけ屋外で過ごしたいとの意向は前回調査から20%以上の伸びを見せています。この「外出したい」についてその理由を訊ねると、「外出の方が楽しい」「運動不足対策」「外出先が快適」などのポジティブな理由が上位を占めましたが、中には「家計(光熱費)の節約」16.1%、「自宅の電気代懸念」15.4%という回答も見られました。一方、家計の負担に大きく関係する電気代を気にするかどうかについては、2023年の夏を自宅で過ごす上で72.8%が「気にする」と回答したにも関わらず、「電気代節約のための暑さに関する節電対策を実施する」と回答した人はこのうちの60.6%に留まりました。これは、2022年調査の節電実施率(76.4%)と比較して15.8%の減少となります。細かく見ていくと、「電気代を気にしていて、節電対策を実施する」が53.2%、「電気代を気にしているが、節電対策を実施しない」が19.6%、「電気代を気にしていないが、節電対策を実施する」が7.4%、「電気代を気にしていなくて、節電対策も実施しない」が6.6%という結果で、電気代を気にしている人の約4人に1人は節電対策を実施しない意向があるということが明らかになりました。また、2022年の夏に節電を実施した人に対してその内容を質問すると、「エアコンの設定温度を上げる」が49.7%、「エアコンとサーキュレーターや扇風機を併用」が33.8%、「エアコン稼働時間を減らす」が32.2%となっており、手軽に実行できるエアコン運転に関する対策が上位を占めています。同調査ではこのほか、「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の認知度なども質問していますが、これに対する回答は「知らない」が73.2%に対して「名前は聞いたことがある」が15.6%、「知っている」が6.6%、「内容まで詳しく知っている」が4.6%となり、まだまだ用語や概念に対する認知度が低いという結果が出ています。
続いて、同じ7月13日にパナソニックホームズ(株)の「くらし研究室」が発表した「住まいの暮らしやすさに関する調査」(
https://homes.panasonic.com/company/news/release/2023/0713.html )の結果について見ていきましょう。こちらは、今年の5月17〜18日、全国の20〜69歳の男女1000人を対象に実施したWebアンケート調査の結果をまとめたものです。これによると、「コロナ禍で家事負担感が増えたか」という問いに対して、過半数を超える62.3%が「特にない」と回答しています。これを性別・年代別に見ていくと、40歳代男性が78.0%でもっとも多く、40歳代女性は46.0%でもっとも低くなりました。その差は実に32%となり、「男女の意識差を顕著に表している」と同研究所では分析しています。また、「コロナ禍でもっとも増えた家事」については「料理」が26.7%で最多となりましたが、「料理」の負担感は、女性が33.2%に対して男性が20.2%と13.0%高くなり、特に40歳代では女性39.0%に対して男性15.0%と24.0%もの差があることがわかりました。一方、「コロナ禍を経ても“変わらない”暮らしの意識」についての調査では、「家事のしやすさ(家事動線等)」「収納」「間取りの可変性やメンテナンスのしやすさ」については、80%以上が「住まいにおける暮らしやすさにつながると思う」と回答しており、コロナ禍に関係なく、暮らしやすさに重要なこれらの要素は不変であると考える人が多いことがわかりました。
節電調査にせよ、住まいの暮らしやすさ調査にせよ、このタイミングで実施・発表することに、本来それほど深い意味はないのでしょうが……どうも、「コロナ禍を“過去のもの”として一刻も早く片づけたい」という意図が感じられるのは考えすぎでしょうか? もちろん、日本経済の再生を目指して、制約のない自由な企業活動を再開しなければならない、という使命感は理解できますが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」国民性のこの国において、コロナ禍でせっかく得られた貴重な教訓を右から左へ流してしまうのは、いささかもったいないのでは……? そんなニュアンスも込めて、次にご紹介するのは、7月11日付で不動産情報サービスのアットホーム(株)が発表した「書類のオンライン化・電子サインに関する実態調査 2023」(
https://athome-inc.jp/news/data/questionnaire/online-denshisign-202307/ )の話題です。こちらは、コロナ禍のただ中にあった2021年8月以降に物件を購入、または賃貸物件を契約・更新・解約した全国の18〜59歳の男女計814人を対象にインターネットで実施されたアンケート調査で、調査期間は2023年5月10〜12日となっています。これによると、「契約書類のやり取り」について、実際に経験した方法と今後の希望を質問すると、実際の経験では「物件購入」では85.8%が「対面でのやり取り」で、以下「郵送」が7.3%、「メール」が2.8%、「不動産会社のホームぺージ」が2.0%、「LINE」が1.6%となっています。今後の希望では、「対面でのやり取り」が76.0%を占めたものの、「郵送」が13.0%、「メール」が6.1%、「LINE」と「不動産会社のホームページ」はそれぞれ2.4%となっており、「メール・LINE・不動産会社のホームページ」を合わせた「オンライン」でのやり取りは4.5%増加しています。「賃貸契約」では、実際の経験は「対面」72.4%、「郵送」15.9%、「オンライン」10.6%に対して、今後の希望は「対面」61.8%、「郵送」17.6%、「オンライン」19.6%となり、「オンライン」が9.0%と2倍近く増加しました。さらに、「賃貸更新」になると、実際の経験は「郵送」54.0%、「対面」25.4%、「オンライン」15.9%に対して、今後の希望は「郵送」46.8%、「オンライン」29.8%、「対面」18.3%となり、「オンライン」は13.9%増えて「対面」を上回りました。そして、「賃貸解約」では、実際の経験は「対面」49.8%、「郵送」27.0%、「オンライン」17.0%に対して、今後の希望は「対面」41.5%、「オンライン」32.4%、「郵送」22.0%となりました。いずれも、今後の希望については「オンライン」を選択する人が多く、特に賃貸契約の更新・解約についてはそれぞれ10%以上増えていることがわかりました。
次に、「書類への署名捺印」については、「物件購入」の場合、「電子サイン」を実際に経験しているのは4.5%でしたが、今後の希望では8.9%となりました。電子サインの経験者からは「便利」「手軽」等の意見が寄せられています。「賃貸契約」の場合、「電子サイン」を実際に経験したのは9.6%でしたが、今後の希望では21.3%と2倍以上の人が「電子サイン」を希望しています。「賃貸更新」では、「電子サイン」の経験13.5%に対して、希望は32.1%と20%近くも増加。そして「賃貸解約」では、「電子サイン」の経験14.1%、希望は31.5%となりました。全体的に「電子サイン」は、経験と希望に10%以上の差があり、一定のニーズがあることがわかりました。このほか、「手続きの中でオンライン化してほしいこと」としては、購入・賃貸契約・賃貸解約では「不動産会社への連絡」が1位となり、賃貸更新では「書類等の確認」が1位となりました。また、賃貸更新・賃貸解約経験者の約3割は「書類等の確認」「署名・捺印」「書類の返送」のオンライン化を希望していることがわかりました。コロナ禍では、従業員のリモートワークやテレビ会議をはじめ、企業活動のさまざまな場面でオンライン化が進められました。しかるに、いわゆる「5類移行」後は、その反動からか、必要以上に「コロナ前の原状回復(?)」を目指す傾向が見受けられます。出勤時間帯の満員電車など、多少大げさに言えば「平成をすっ飛ばして昭和に回帰した」かのような風景が日常茶飯事となりつつあるようです(これは、思い込みもあるかもしれませんが……)。せめて、オンライン化で便利になったり合理化されたりしたビジネス習慣については、今後も維持していきたいところだと思います。
もう一本、7月7日に国土交通省が発表した「脱炭素社会に向けた耐震・環境不動産形成促進事業の10年目見直し〜環境要件の引き上げや直接出資スキームの導入〜」(
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo05_hh_000001_00119.html )という話題についてもごく簡単に触れておきましょう。これは、ひとことで言ってしまえば、国交省が出資するための要件を厳しくし、かつ出資額を低減するということになります。同事業は、「耐震・環境性能を有する良質な不動産形成を促し、国の資金により民間投資も喚起しながら経済成長に貢献する事業」として10年前の2013年に創設されたものですが、ここ数年は目立った成果も上がらず、国交省の負担が増大していたようです。そこで、段階的に規模を縮小し、近い将来なし崩しに消滅させる狙いであることは間違いないでしょう。省庁がムダを省き、合理化を図るのは大いに結構なことですが、その理由が「余裕がなくなり、なりふり構っていられなくなった……」という切羽詰まった事情だったりすると、国民として、いささか不安を覚えずにはいられません。
最初の話に戻って、諸物価高騰の折から、「節電」というより「電気代の節約」のためにエアコンを使用しない人が一定数いるという現状も、個人単位で見れば「余裕がなくなり、なりふり構っていられなくなった……」という切羽詰まった事情を示しているのかもしれません。水道光熱費込みの家賃設定をしている多くのシェアハウスでは、この夏、大家さんの負担が例年以上に大きくなる可能性もあります。家賃の値上げが可能であればそれもやむなしでしょうが、入居者の経済事情や大家さん自身の資産状況を鑑みて、できるだけ無理をせずに乗り切ることが肝要です。厳しい状況ではありますが、長い目で見て、少しでも損のない道を選択するように心がけましょう。