6月14日、米国のドナルド・トランプ大統領が79歳の誕生日を迎えました。その同じ日、首都ワシントンでは大々的な軍事パレードが催されています。一応の名目としては「陸軍創設250周年記念」とされていますが、わざわざ大統領の誕生日に催行しなければならない必然性はないはず……。しかも、総費用は4500万ドル(日本円にして約65億円)という莫大な金額に上るとのことです。ちなみに、首都ワシントンで軍事パレードが行われたのは、湾岸戦争直後の1991年以来34年ぶりのこと。全米各地で「我々に王はいらない」と抗議デモが起こったのも頷ける話です。
さらに翌15日には、米国務省内部で「国家安全保障上の懸念」を理由に、6月9日時点で入国禁止措置が発効している12ヶ国に加えて、さらに36ヶ国に対する入国制限を検討していることが明らかになりました。ルビオ国務長官の公電によれば、「60日以内に規定や用件を満たさない場合、全面的または部分的な入国禁止を推奨する可能性がある」とのこと。この36ヶ国の中に日本は含まれていないとはいえ、他人事として片づけるにはあまりにもリスクの多い状況です。トランプ政権の暴走は今に始まったことではありませんが、国際情勢は刻一刻と後戻りのできない危険な状況に踏み込んできているようです。
ますますキナ臭さの漂ってきた昨今ですが、気を取り直して、今月もシェアハウス関連の気になる話題をピックアップしていきましょう。
まずは、6月11日付『朝日新聞デジタル』に掲載された「年重ねても充実 めざす『自立』 『しなやかシニアの会』結成25年」(
https://www.asahi.com/articles/AST6B3V8QT6BPTJB001M.html )というタイトルの高田誠記者の署名記事から。以下、抜粋して引用いたします。
「老後はノンビリと好きなことをして過ごせると思っていた。だが現実は厳しいとわかった――。年齢がいくつになっても充実した生活を送ろうと『しなやかシニアの会』が大津市にできて25年。世の中は高齢化が急速に進み、『高齢者の自立』をめざした活動が目立つようになった(中略)」
この「しなやかシニアの会」は「大津市中央1丁目の商店街で昭和初期建築の町屋を借り、『リュエルしなやか』と名付けて拠点としている」とのことで、この「リュエルしなやか」という施設自体はシェアハウスとして機能しているわけではありませんが、「今後、(中略)会の活動を続け、支え合える高齢者共同住宅(シェアハウス)を設ける。そんな夢も膨らませている」と綴っています。また、おそらくはそこまで視野に入れてのことでしょうが、「12年度に高齢者施設を見学するバスツアーや、高齢者施設に詳しい建築家を招いた勉強会、介護の専門家を囲んだ意見交換会を催した」とも書かれています。
同記事では、この「しなやかシニアの会」の具体的な活動事例をいくつか紹介しており、それらは必ずしも前出の「高齢者共同住宅(シェアハウス)」に直結する内容ではありませんが、「人脈や地縁を頼り、なるべくお金を掛けずにと心がけている」という活動方針や、「メンバーが口コミで増える一方で、社会は予想を超えたスピードで高齢化が進んだ。『老後の問題に真剣に向き合わないと大変なことになる』とメンバーは危機感を抱いた。(中略)
『超高齢化社会では、行政や若い世代を当てにできない。意識改革しないと自立して生活できない。そのための学びが求められている』」といった当事者自身による現状分析から、彼らが不動産業やシェアハウス運営に詳しい協力者を求めている状況が窺われます。彼らが良きパートナーを得て、一日も早く高齢者向けシェアハウスなどの事業に乗り出す日を迎えられることを祈ります。
続いて、ちょっと気になったのが、5月24日付で不動産ポータルサイト『健美』に掲載された「7年経て家賃を相場の1.5倍に値上げ。入居率98%が続く人気物件【建築家と建てる賃貸住宅】」(
https://www.kenbiya.com/ar/ns/buy_sell/architect/9043.html )という記事。はじめにお断りしておきますと、これはシェアハウスの記事ではありません。……というより、ここで紹介されている事業者は「シェアハウスのつもりではない」ようなのですが、「どう読んでもシェアハウスのこととしか思えない」という、いささか不思議な手応えの記事になっています。以下、一部抜粋して紹介します。
「(前略)現在は、新たな顧客ニーズに目を向けて、新しい賃貸の集合住宅に着手している。シェアハウスも一般的になった昨今、シェアハウスよりもゆるく繋がれるマンションを計画。住戸の他、3階に一般の人も利用できるカフェを取り入れ、人が集まる場にしたいと考えているのだそう。
マンションに人との繋がりという付加価値を持たせることで、住み心地を向上させ、長く居住する人を増やす。何らかの事情で退去する場合も、戻ってくる場として思い入れを持ってくれて、良い口コミを広めてくれる。そんな温かな物件をコンセプトから企画している(後略)」
同記事はフリーライターの小松ななえ氏による取材記事で、取材対象者は、アトリエサンカクスケール株式会社 一級建築士事務所 主宰の村上明生氏です。無論、村上氏もプロですから、プロとしての視点からご本人なりに「これはあくまで『マンション』であって『シェアハウス』ではない」と定義しているのでしょうが……正直、リンク先の記事を読めば読むほど、ごく普通のコンセプト型シェアハウスとどこが違うのか、よくわかりません。そう思えてしまうのは、ライターの小松氏の書きぶりによる印象もあるかもしれませんが……どうも、シェアハウスという住居形態の定義が、かつて20年近く前にイメージされていたものとは違ってきているのではないか? と感じてしまいます。
この「シェアハウスという住居形態」に対するイメージの変化については、次に紹介する記事を読むと一層強く実感されます。こちらはトレンド情報サイト『ピンズバNEWS』に5月19日付で掲載された「『一人を楽しみながら、つながりもほしい』若者世代が“令和版シェアハウス”に惹かれる理由」(
https://pinzuba.news/articles/-/10740?page=1 )という記事。以下、全文を引用してみましょう。
「日々流行の最先端やニュースを追いかけるトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏。そんな戸田氏が注目するトレンドの住環境とは――?」
こんなリード文の後、本文が始まります。
「『一人を楽しみながら、つながりもほしい』──そんな矛盾するようで実はリアルな願いを抱える令和の若者たちが、今、こぞってシェアハウスに集まっています。
パンデミックを経験したZ世代やミレニアル世代にとって、他者との距離感や関係性の取り方は大きく変わりました。物理的に閉ざされた3年間の反動か、人と繋がることに強い渇望を抱く人が増えた一方で、ひとりの時間もやっぱり大事だと考える若者も少なくありません。
そうしたニーズの間を絶妙に満たす形で進化しているのが、いわゆる“令和版シェアハウス”です。
かつては単なる『安い共同生活の場』というイメージが強かったシェアハウスですが、現在では、むしろ積極的に選ばれるライフスタイルとして注目されているのです。
その象徴とも言えるのが、神奈川県を中心に全国で20棟・約500室を展開する彩ファクトリーのコンセプト型シェアハウスです。2023年1月には、猫好きにはたまらない全29室のデザイナーズ猫シェアハウス『にゃんこの森横浜』をオープン。猫とともに暮らせるだけでなく、共通の趣味を持つ住人同士の交流が自然と生まれるように設計されています。
また、起業家向けシェアハウスの存在も注目に値します。東京と京都に展開している起業家向けシェアハウスは、ICT(情報通信技術)課題に挑む人材を支援する総務省のプロジェクト『異能vationネットワーク拠点』にも認定されており、ベテラン経営者との交流や、24時間使えるコワーキングスペース、毎月の活動報告会など、住むだけで成長できる環境が整っています。これらの施設は、住まいという枠を超えて、人生の目標に向かうためのプラットフォームとして機能しているのです。
■出世払いも可能な現代の“トキワ荘”
さらに、シェアアパート事業都内最大手の『TOKYO<β>』では、Z世代の夢を後押しするプロジェクトを展開しています。
その第1弾としてスタートしたのが、WEBTOON漫画家を育てる『MANGA-SO(マンガ荘)』。クリエイター志望者に必要な機材や環境を無償で提供し、1年間の家賃や光熱費も無料。デビュー後の印税の一部を施設へ還元する“出世払い”方式という新たな試みも話題を呼んでいます。
実際に入居している若者たちからは、『一人暮らしでは得られなかった刺激がある』『同じ目標を持った仲間がいるだけで、前向きになれる』といった声が寄せられているそう。
シェアハウスは清掃ルールや生活音に関するトラブルが起きやすいのは否めませんが、それでもこの形が選ばれる背景にあるのが、近年の不動産価格の高騰です。LIFULL HOMESのデータによれば、2024年3月の、東京23区でのシングル向け賃貸物件の平均家賃は10万円を超え、1年前と比べて8%以上の上昇となっています。
この家賃水準では、若者が一人で都内に住むのはなかなか難しい状況です。特に上京組や、夢を追いかけているクリエイター志望者にとって、シェアハウスは現実的かつ合理的な選択肢となっています。
さらにもう一つ、見逃せないのが“投資目的”でシェアハウスを選ぶ若者の増加です。シェアハウスに住む人は節約意識が高く、毎月の生活費をできる限り抑えて新NISAをフル活用している人も。2024年から導入された新NISAでは、年間最大360万円までの投資が非課税で可能となり、金融リテラシーが高い若者ほど、この制度を活かすために住居コストを削減しようとしています。
■価値観とライフスタイルに寄り添うシェアハウス
このように、シェアハウスは単なる共同生活の場から、多様な目的や価値観を持つ人々が“共鳴”しながら暮らす場へと進化を遂げました。
『ひとりの時間も欲しいけど、孤独にはなりたくない』――。そんな令和世代の本音を、ソーシャルアパートメントやコンセプトシェアハウスは見事に受け止めています。これまでのシェアハウスとは異なる視点から、若者のライフスタイルや価値観の変化を映し出す“鏡”のような存在と言えるのではないでしょうか。
今後も多様化が進む中で、ペット共生型や育児支援型、クリエイター向け、あるいはシニアとの多世代共生型など、さらに細分化されたニーズに応える新たなシェアハウスが続々と登場することが予想されます。
賃料の高騰や不安定な雇用、将来への漠然とした不安といった現代特有の課題に向き合いながら、同じ価値観や夢を持つ人々と寄り添い、支え合える場──。それが、令和版シェアハウスが支持される最大の理由と言えそうです」
さて、一読されてみてどう思われたでしょうか? 当コラムを以前からお読みいただいている読者諸兄であれば、どれも既視感のある話題ばかりで、目新しい情報はほとんど出てこなかったのではないでしょうか。この記事を執筆しているのは、自称「トレンド現象ウォッチャー」という戸田蒼氏。プロフィールによれば「大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中」とあります。要するに、シェアハウスに関しては門外漢であり、この記事を書くに当たって「よく勉強している」ことは伝わってくるものの、文章の端々に「シロウトゆえの思い込み」がにじみ出ています。典型的なのが「令和版シェアハウス」という造語で、「かつては単なる『安い共同生活の場』というイメージが強かったシェアハウス」とか、「これまでのシェアハウスとは異なる視点から」とか、平成期のシェアハウスの実態を知っていれば絶対に出てこない言い回しが目立ちます。はっきり言ってしまえば、戸田氏の命名する「令和版シェアハウス」は「平成までのシェアハウス」と比べて、とりたてて違いはありません。その意味では、一つ前の記事の村上氏の認識も同様で、「彼らが知らなかっただけで、シェアハウスというのは昔からそういうものだった」と、ここで断言してしまってもいいでしょう。とはいえ、村上氏や戸田氏の不勉強や無知をあげつらうのが当コラムの趣旨ではありません。知らなかったからこそ「新しい」と感じ、彼らなりの視点から「再発見した」シェアハウスの魅力は、それこそ令和の現在においても有効であり続けている……そう言うこともできると思います。
その他、直近のシェアハウス関連のプレスリリースをいくつかご紹介しておきます。
「神戸で『有機野菜付き家賃』と『敷地内養鶏による新鮮卵』の暮らしを実践するシェアハウス和楽居、6月21日に『0円食堂』イベント開催」(
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000162356.html )(2025年6月3日 13時00分)
これは見出しにある「0円食堂」のイベント告知のリリースですが、和楽居というシェアハウスの独自の取り組みについても本文で詳しく紹介されています。
「築100年超の元旅館・空き家を再生、福島県西会津町に最小文化複合施設『叶ヤ』誕生」(
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000163571.html )(2025年6月2日 11時00分)
こちらは古民家ならぬ古旅館の再生ビジネスの話題です。「叶ヤ」というのは「シェアハウス・喫茶店・ショップ・ギャラリーの4機能をあわせ持つ地域文化拠点」とのこと。
「2025年度新入社員10名入社 古民家をリノベーションしてシェアハウスへ受け入れ」(
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000043613.html )(2025年5月30日 11時33分)
本文によれば「県・市外から移住者を採用できるような体制を整えて(新入社員は6名が県・市外からの移住)、そのうち2名が4月よりシェアハウスへ入居」ということのようです。ただし、ここに出てくる古民家シェアハウスが「社宅」として扱われているのか、一般向けに開放されているシェアハウスに運営会社の社員も入居しているのかは、このリリースを読んだ限りでは不明なのですが……。
改めて考えてみますと、当コラムの前身である「今月の不動産コラム」の連載開始からまもなく17年。リニューアルした現在の「新」コラムのスタートからでも早15年目になります。その間、政権交代や東日本大震災、「かぼちゃの馬車」事件、コロナ禍とその中での東京オリンピック・パラリンピック、ウクライナ戦争、大阪万博等々……じつにさまざまな出来事がありました。シェアハウス大家さんも、もちろんシェアハウス入居者の皆さんも、世代交代をくり返してきていることでしょう。そうした中で、シェアハウスも時代に対応して進化してきている一方で、「変わらぬ魅力」も持ち続けていることがわかります。当コラムでは今後も、シェアハウスの行く末を見守り続け、新たな情報発信を続けていきたいと考えております。