ふいに、デスクの電話が鳴った。ひと呼吸おいて、内線のコールランプが点滅するのを確認し、ヤマダくんは受話器に手を伸ばした。
「ヤマダです」
「××不動産とおっしゃる方からお電話です。……回します」
営業1課の新卒女子・ワタナベさんの緊張したような声につづいて、受話器から聞こえてきたのは、聞き覚えのないダミ声だった。
「あ、ヤマダ様ですか? どうも、はじめまして! ワタクシ、××不動産の△△と申します! 本日はぜひ、ヤマダ様にご説明させていただきたいお話がございまして……」
「すいません、いま忙しいので」
そっけなく言って、ヤマダくんは受話器を叩きつけるように電話を切った。
このところ、職場に毎日のようにかかってくるマンション販売の営業電話だった。「投資用ワンルームマンションのご案内です!」「月々のローンは家賃収入で返済できます!」「節税にもなっておトクですよ!」……。話の内容そのものには、じつは、興味がないこともなかったのだが、あまりにもウサン臭い。99%悪質業者とみて間違いなさそうだ。
そっとタメ息をついて、ヤマダくんは仕事に戻った。
「30歳までに家を買う」――1ヶ月ほど前、母親にそう宣言したヤマダくん。
自らの年収(420万円)と貯蓄(100万円)を踏まえて、彼なりに思うところがあったようだ。さすがに、虎の子の100万円を競馬でスッてしまうようなバカなマネはしない。それどころか、最近は土日に競馬やパチンコに出かけることもあまりしなくなった。
そのかわり、週末には街の不動産屋やモデルルームなどに足を運ぶ。インターネットやフリーペーパーに載っている情報よりは、はるかに役に立つ。と、思っていたのだが……。
情報収集の過程でバラまいた名刺のせいか、それともどこか別のところで名簿が売り買いされたものかはわからないが、ヤマダくんは、会社宛にかかってくるしつこい営業電話に悩まされることになった。複数の同業者に名簿が回っているか、あるいは同じ会社が違う社名を名乗っているのか、聞いたこともない不動産会社からひっきりなしに電話がかかってくる。いい迷惑だった。
(それにしても……)
ヤマダくんはふと、仕事の手を止めて考えこんだ。
(家賃収入でローンの返済、か……)
もちろん、世の中にそんな美味い話があるとは信じられない。でも、ヤマダくんには思いつかなかった発想だったのは事実だ。たしかに、それなら支払いの負担が減るから、自己資金が少なくてもローンはなんとかなるかも……。
(待てまて、そんなことまでしてワンルームマンション買ってどうすんだよ? だいいち、信用できる話じゃないって!)
雑念を追い払い、ヤマダくんはふたたび目の前の仕事に集中することにした。
――その夜。
会社帰りに買ったコンビニ弁当でわびしい夕食をとりながら、ヤマダくんは、昼間の思いつきをあらためて検討してみた。今住んでいるアパートの家賃は月8万円。家を買うとしたら、これを住宅ローンに充てることになるだろう。逆に言えば、月々のローン返済額が8万円なら、今と変わらない生活レベルを維持できる。たとえば、5,000万円の家を買うとすれば、月8万円×12ヶ月=年96万円で、5,000万円÷96万円だから……。
「ご、50年以上……!?」
80過ぎのジジイになってもローンを払いつづける自分の姿を想像して、ヤマダくんはガックリきた。もちろん、頭金を用意し、ボーナス時などに繰り上げ返済していけば、ある程度期間を短縮できるだろう。しかし、それでも金利を考えたら40年以上はかかりそうだ。
つまり、生活レベルを切り詰めて月々のローン返済額を増やすか、あるいは5,000万円の家をあきらめて2,000〜3,000万円の中古マンションにでもするか、さもなければ……。
(……収入を増やすか、だ)
この3年間、給料は据え置きのままだった。10年後、20年後にどれだけ上がっているかもわからない。キャリアアップを目指して、思い切って転職するのも悪くはないだろうが、それで収入が増えるかどうか。増えたとしても、それがつづくかどうか……?
(家賃収入でローンの返済、か……)
ヤマダくんの脳裏で、昼間の思いつきがぐるぐる廻っていた。いや、もちろん、ワンルームマンションなどお呼びじゃない。でも、これって、ワンルームだけに通用する話だろうか? 一戸建てとか、分譲マンションに応用することはできないか?
「もしかすると……!?」
急いで弁当の残りを平らげると、ヤマダくんはパソコンを立ち上げた。試しに「家賃収入 ローン返済」でキーワード検索してみると、出てくるわでてくるわ……。ヤマダくんが知らなかっただけで、どうやら不動産投資の世界ではごく一般的な考え方だったようだ。「賃貸併用住宅」という単語とか、「敷地内に2棟の建物を建てて、1つを自宅に、もう1つを賃貸アパートに……」といった記事が目につく。
気になったサイトから別のサイトへと、次々と移動しながら、ヤマダくんはふと、あるサイトに目を止めた。
「マイホームをタダで手に入れる……?」
(つづく)
〜シェアハウス事業を企画から運営まで、トータルにサポート〜
運営会社:株式会社シェアスタイル | シェアハウス資産運用のご相談はこちら | シェアハウス管理物件のご紹介はこちら | 採用情報
Copyright © 2006-2015 ShareStyle Co.,Ltd. All Rights Reserved.
{$xoops_footer}>