シェアハウス
トランプ関税
空き家対策
母子専用アパート
古民家リノベーション
高齢者向けシェアハウス
住宅難民問題
米トランプ政権の朝令暮改とも言える関税政策に、このところ日本のみならず世界中が振り回されています。4月17日の早朝には、訪米中の赤澤亮正経済再生担当相がホワイトハウスでトランプ大統領らと会談し、関税措置の見直しを求めて交渉を行ったと報じられました。会談終了後、赤澤大臣は引き続きベッセント財務長官らとの閣僚交渉を行い、さらにその後、記者団の取材に応じて、おおむね次のように述べています。トランプ大統領との会談内容については「日米双方の経済が強くなるような包括的な合意を可能なかぎり早期に実現したいとの石破総理の考えを伝えた。トランプ大統領は、アメリカの関税措置について率直に述べつつ、『日本との協議が最優先である』という発言があった」とのこと。閣僚交渉については「『自動車、鉄鋼・アルミニウムの関税、10%の相互関税を含めて、アメリカの関税措置は極めて遺憾である』と伝え、わが国の産業や、日米両国の投資、雇用の拡大に与える影響などについてわが国の考えを説明した上で、一連の関税措置の見直しを強く申し入れた」とのことです。これについてアメリカ側とは「可能な限り早期合意を目指す」「次回の協議を月内に実施すべく日程調整を行う」「閣僚レベルに加え、事務レベルでの協議も継続する」という3点で一致を見たようですが……。そうは言っても、トランプ大統領が最優先と言う「日本との協議」がどのような着地点を目指すものかは依然として不透明で、今後の交渉の進展についても「まったくわからない」とのこと。最悪の場合、「言うべきことはすべて言った。しかし、アメリカ側の理解は得られなかった……」ということも考えられます。「うまくいったら儲けもの」くらいのスタンスで、過度の期待はしないほうが後々のショックも少ないかもしれません。
さて、国家間の交渉の行方については遠くから見守りつつ、いったん足元に目を向けてみましょう。今月も、直近の話題からシェアハウス大家さんにとって気になるニュースをピックアップしています。
まずは、4月17日付の『東京新聞デジタル』に掲載された「『母子専用』アパート誕生 川口の業者がさいたま市に 家賃抑え、敷金・礼金ゼロ 自立支援へ『福祉カフェ』も準備中」(
https://www.tokyo-np.co.jp/article/399110 )という記事。上記サイトでは「会員限定記事」となっていますが、『Yahoo!ニュース』などの外部サイトには全文転載されています。以下、一部抜粋して引用します。
「経済的困窮などで住まいの確保に苦しむ母子家庭を支える−。そんなコンセプトを掲げる母子専用アパートが今年、さいたま市に誕生した。目指すのは、子育てと仕事を両立しやすい環境。運営する不動産コンサルティング会社『アーキリンクス』(川口市)の内野巧也代表(40)は『母親も子どもも笑顔になれる場になれば』と願う。(福田真悟)
さいたま市緑区にあるアパートは築40年超の2階建て。駅の徒歩圏外で、老朽化も進んでいたことから、10室ある部屋は長らくほとんど使われていなかった。
オーナーから『有効活用できないか』と相談を受けた内野さんは、立地に注目した。『駅は遠いが、スーパーと小中学校は近い』。部屋(36平方メートル)の間取りも2DKと広めで『子育てに適している』と判断。オーナーの負担で改修してもらった上で借り上げ、母子への貸し出しを始めた。
3年前から、上尾市の旧社員寮をリノベーションした母子専用のシェアハウスも運営している。きっかけは、知り合いのシングルマザーから『母子家庭は収入が少ないことが多く、貸したがらない大家もいる』と聞いたことだ。
もともと、増え続ける空き家の再生を手がけようと、5年ほど前に起業した内野さん。『空き家など遊休物件を活用して、シングルマザーの住まいを巡る課題を解決できないか』。そんな思いを、形にした。
特徴は、母子家庭が抱えやすいさまざまな事情への配慮だ。広さの割に家賃を安めに抑えた上で、敷金と礼金はゼロ。元夫ら家族との関係がこじれているケースも想定し、必要に応じて引っ越しをサポートしているほか、契約時の連帯保証人も不要とする。
さらに、自立支援の体制づくりにも取り組む。アパートでは現在、社会福祉士らが運営する『福祉カフェ』の入居に向けて準備中。行政手続きや教育、就労の悩みについて、適切な支援につなげるのが狙いだ。
シェアハウスは開設以来、ほぼ満室。アパートにも入居の相談が相次ぐ。3人の子どもとアパートに入居した女性は『もっと値段が高かったり、保証人が必要だったり、いい物件を見つけるのは難しい。同じような境遇の人にとって、ありがたいと思う』と話す。
『物価高もあり、生活に苦しむ母子家庭は増えているのでは』と内野さん。空き家再生と母子家庭の居住支援を両立する取り組みを『ハハトコ』と命名し、モデル事業として各地に広めたいと考えている。
『シングルマザーが安心して暮らせる住居の選択肢がまだまだ足りない』と強調。『十分な支援を実現するには、行政や研究機関、企業など社会全体で取り組む必要がある』と訴えた(後略)」
同紙・福田真悟記者の伝える通り、取り組みとしては大変意義のあることであり、そこに異論はないでしょう。ただ、「母子家庭専用」というのは、貸し手側にとってはそれなりにリスキーですから、そこをどのようにリスクヘッジしているのかという点に言及がないのは少々物足りない気もします。無論、運営者であるアーキリンクス社の内野代表もその道のプロですから、行政からの援助など、何らかの手立てを講じていると思われますが……。おそらく、そういった面に言及することで、いわゆる「貧困ビジネス」のようなマイナスイメージを読者に与えてしまうことを配慮したのではないかと想像できます。いずれにせよ、「空き家対策」と「母子家庭支援」を結びつけたビジネスモデルはきわめて社会的意義の高いものですから、今後の動向に注目したいと思います。
続いて、4月16日付の『京丹後経済新聞』に掲載された「京丹後に一棟貸し宿『ウミエル』 古民家リノベの展示場としても活用(
https://kyotango.keizai.biz/mapnews/91/ )という記事。こちらは同紙の運営するサイトの中にある「みんなの経済新聞ネットワーク」というコンテンツの一つです。以下、一部抜粋して引用します。
「京丹後の設計事務所『U設計室』(網野町島津)が4月21日、一棟貸しの宿『Umieru(ウミエル)』(網野町遊)をオープンする。『Umieru』の施設名は、『海が見える』と『U設計室の設計が見える』という2つの意味をかけて名付けた。
同施設オープンのきっかけは、遊地区出身の介護関係者である稲岡錠二さんが、同事務所代表の大垣優太さんに『空き家を活用してくれる人を探している』と声をかけたこと。リノベーション以前の物件には稲岡さんの知り合い(通称、晋ちゃん)が単身で住んでいたが、高齢になり介護が必要になった際、介護車両が集落の狭い道路に入れず、在宅介護サービスを受けるのが困難だったため、周囲の後押しで介護施設への入所が決まった。生活面や身体面での安全性は確保されたが、晋ちゃんの『あの家でずっと過ごしたかった』という強い思いを受け、稲岡さんが『元の家主が戻ってこられるような形で、古い空き家を活用したい』と動き出した。
大垣さんは、以前から『空き家を減らしたい。丹後の昔からの景観を守りたい』という思いを持っており、通常の設計事業と並行してシェアハウスなどを運営しながら、古民家リノベーションの重要性を訴えてきた。しかし、大垣さんによると、『古民家リノベーションは実際の事例を見ることでイメージが湧き、施工を決める人が多いが、実際の事例を見学できる場は新築ほど多くない』という。同事務所も住宅展示場は持っておらず、今までは同事務所が手がけた事例を『オープンハウス』という形で見学してもらうことで古民家リノベーションを広めてきた。
そうした中、『観光客を呼び込みながら、シェアハウスよりも利益率が高く見込める宿を、古民家リノベーション事例の展示場として活用しては』と大垣さんは考えた。そこに稲岡さんから声がかかり、物件を見た大垣さんは、その立地と景観に引かれ、同施設を造ることを決めたという。
『宿』という形なら元の家主もゲストとして宿泊することができると考えての決断で、実際に物件の元家主である晋ちゃんも宿泊を予定する。
同施設は1棟を2つの部屋に分け、1部屋に最大6人が宿泊できる。部屋のコンセプトは、明るい色使いで白と緑を基調としたデザインの『白』と、黒とオレンジを基調としたシンプルで落ち着いた印象の『黒』。それぞれの1階と2階でも雰囲気を変え、1階はあえて古民家らしさを消して新築に近い造りに、2階は元々あった梁(はり)を見せるなど古民家らしさを残した造りにした。『お客さまに展示場として見てもらう際、どんな雰囲気が好きかというイメージを具体的に持ってもらうために、あえて部屋や階層で異なる印象のデザインにした』と大垣さんは話す。
大垣さんは『1階にテラスを設けることで、高台にある立地と窓から見える景色を生かしている。内装の色使いは少しレトロさを意識しており、U設計室らしさを出した。もともと状態が悪く、雨漏りもしているような家だったが、フルリノベーションすることでここまで変わるということを見せられたら』と話す。
さらに、『丹後を知るきっかけになってほしい。ただ泊まるだけではなく、丹後と接点を持てる場にしたい』と話し、近隣の『お薦め』スポットなどをウェブサイトに掲載する予定だという。今後は同施設で得た収益をさらなる古民家のリノベーションに使いたいと考えており、『家族向けの小さな貸家や、高齢者向けのシェアハウスなどにも挑戦したい』とも話す(後略)」
一読しておわかりのように、これはシェアハウスとしての古民家リノベーションではなく、宿泊施設としてのそれになります。その意味では、シェアハウス大家さんにとってはやや縁遠い事例と思われるかもしれませんが、物件の立地やオーナーとの関係性、土地柄といった点を考慮した場合、選択肢の一つとしてこのような活用法も視野に入れることができるということで、何らかの参考になるかもしれません。シェアハウス利用を想定して古民家を入手したものの、リノベーションしても当初想定していたほど入居者が集まらない――といったお悩みを抱えている方であれば、「こんな方法もあるのか?」と、一考の余地があるのではないでしょうか。
お次は、4月6日付の『産経ニュース』に掲載された「『干渉されないのがいい』?高齢者向け?のシェアハウス ほどよい距離感が心地いい」(
https://www.sankei.com/article/20250406-XTL5TMXE55IHRF2L42VST2GVKA/ )という記事です。以下、一部抜粋して引用していきます。
「シニア世代が共同生活を送る高齢者向けシェアハウスが注目されている。社会から孤立しないように生きるのは、セカンドライフを良質なものにするポイントだが、『濃密な人間関係は重い』という人も少なくないはずだ。周囲とほどよい結びつきを保ちながら、安心して日々を過ごせる−。そんな試みを実践している千葉県のシェアハウスを訪ねた。
■全員70代以上
千葉県東部の九十九里海岸に面した山武市。その中心部にほど近い閑静な住宅街に2階建ての集合住宅がある。高齢者向けシェアハウス『むすびの家』だ。
(中略)
むすびの家の特徴は『緩やかな結びつき』だ。入居者は毎日、午前8時40分のラジオ体操と午後3時のお茶の時間に顔を合わせる。参加は自由。顔を見せなくとも、田中さんらがそれとなく安否を確かめている。
家事はそれぞれで、介護ヘルパーを雇っている人もいる。買い物は週2回、送迎を受けられる。徒歩10分の場所には量販店もある。
風呂、トイレ、キッチン付きの12室は、1人用と夫婦用の2タイプがあり、『談話室』として広い共用スペースが設けられている。全体がバリアフリーで、階段には足腰が弱った人のためのリフトもある。各戸のキッチンは火災のリスクの少ないIHコンロだ。家賃は月6万5000〜10万円。現在は8室が埋まっている。
■『先に逝ったら…』
オーナーの田中さんは現役時代、建設会社で研究や設計に携わってきた。子供はなく、千葉市内で妻の坤江さん(86)と2人暮らしをしてきたが、70歳を過ぎたころから周囲で亡くなる人が増え、夫婦に不安が芽生えた。
『先にどちらかが逝ったらどうなるか』(田中さん)。思いついたのは元気な高齢者で支え合う生活だった。土地探しを重ね、自然に恵まれた山武市の現在の地で平成27年11月、むすびの家をオープンさせた。
この9年半は田中さん夫妻にとっても充実した日々だった。出入りする入居者たちと交流し、最期に寄り添ったこともあった。田中さんは『孤立せず気安く生活できる場になった』と言う。
■多様なスタイル
住人が入居を決めた理由もライフスタイルも多岐にわたる。『年齢を教えるのはパス』と話す女性は、住人の中では若手だ。『老人ホームに入るのはまだ早い』と、2年前に入居した。地元の公共施設で清掃員として働き、『助け合うのはお互いさま』と周囲にも気を配る。
数カ月前に入居した女性(86)は、脚のリハビリのために近くのプールで水中歩行をするのが習慣だ。少しずつ歩けるようになってきた。『ここは生活に干渉されないのがいい。こういう所が増えればいいね』。言葉に実感がこもっていた。
■?住宅難民リスク?深刻化
高齢者にとって住まいの問題は深刻だ。マンションやアパートを借りようとする際、孤独死や家賃滞納のリスクを懸念する業者などに断られるケースがある。シニア世代の?住宅難民?リスクの解消が課題となっている。
政府は今年10月に『住宅セーフティネット法』を改正し、新たに『居住サポート住宅』認定制度を設けることで、高齢者でも住まいを見つけやすい環境づくりを進める考えだ。
内閣府の高齢社会白書(令和6年版)によると、65歳以上の1人暮らしの高齢者は増え続け、令和32(2050)年には1083万人に上ると推計。住居を見つけられないリスクが一層高まると予想され、政府は居住サポート住宅について、施行後10年間で10万戸の供給を目指す。
住居の確保と同時に、ほどよい人間関係と安心が担保できる住まいも求められており、入居者が支え合う高齢者向けシェアハウスの存在感も高まっている」(内田優作)
冒頭のリード文中にある「『濃密な人間関係は重い』という人も少なくないはずだ」という一文が、どうやら同紙・内田優作記者の主張したいポイントのようです。その「結論ありき」で書かれているせいか、文末にある?住宅難民問題?への言及がやや取ってつけたような印象もありますが、書かれている内容はおおむね筋が通っています。「お互いに支え合いながらも、ほどよい距離感を保ち、ベタベタしない」という人間関係を理想とする人は、比較的若い世代に多いようなイメージもありますが(内田記者自身は30歳前後の年代のようです)、近年はそうした考え方が高齢者の間にも広まりつつある――というより、そう考える世代がすでに高齢化してきているのかもしれません。いずれにせよ、現在シェアハウスを利用している層がいずれ高齢化するのは必然ですから、将来的には「すべてのシェアハウスが直面する問題」だということもできるでしょう。
今回の当コラムで取り上げた話題は、一見するとそれぞれテーマがバラバラで、少々とりとめのない内容に思われるかもしれません。ですが、1番目と2番目の事例は「空き家対策」、1番目と3番目は「母子家庭」「高齢者」といった?住宅難民?への「居住支援対策」という点で共通しており、また2番目の事例に登場する設計事務所代表が「(将来的に)高齢者向けのシェアハウスなどにも挑戦したい」と語っているように、じつはそれぞれに通底するテーマがあります。ひとことで言えば、「家も、人も、いずれ必ず老いる」ということ。人が住まなくなれば家屋は老朽化し、今は若くても生きていればいつかは老人になります。不動産は、目先の3年、5年という短いスパンではなく、20年、30年、あるいはそれ以上の長期的スパンで、「時の流れ」を考慮することも必要なのではないでしょうか。