平凡な29歳サラリーマン・ヤマダくんは、いかにしてシェアハウス大家さんへの道を歩んでいくのか!? 限りなくノンフィクションに近いフィクションストーリー!
「――このたびは、誠にご愁傷さまでございます……」
定番の挨拶ではあったが、万感の想いがこもっていた。深々と頭を下げてくる弔問客に対して、ヤマダくんはカウンターの内側からひたすら頭を下げ返して… 続きを読む
「――そんじゃ、ヤマダさんからひと言、お願いします」
全員の手に飲み物のグラスが行き渡ったのを確認して、いきなりイトウくんがそう言った。事前に打ち合わせも何もなしの無茶ぶりだったが――流れから… 続きを読む
「またか…………」
言わでもがなのつぶやきが、無意識に漏れる。苦笑してみせる空元気さえ、湧いてこない。それどころか、文字通り、がっくりと肩を落としてさえいた。何度もくりかえされた失望の念が、い… 続きを読む
「――では、そういうことで。……ああ、何か、ほかにご質問はありますか?」
モニター画面越しにかるく頭を下げてから、ヤマダくんはふと、思いついたように言葉を重ねる。モニターの向こうの相手は、あい… 続きを読む
「おはようございます。――あ、ヤマダ係長、奥様の……」
朝、出勤するなり、総務課の女性社員が声をかけてきた。相手の用件を察して、ヤマダくんはすまなそうに軽く頭を下げる。
「ああ、ゴメン。本… 続きを読む
「♪ハッピバースデー・ツーユー、ハッピバースデー・ツーユー……」
調子っぱずれな上に、思いっきりカタカナ発音だったが、聴く者の頬をついついゆるませるような歌声だった。
「お、上手いな」
続きを読む
――いったい全体、何を考えているんだ!?
声に出したわけではない。だが、そのやり場のない感情は、おそらく無意識のうちに態度に出ていたのだろう。反射的に妻が、びくん、と身をこわばらせる気配が、背… 続きを読む
「……え!? マジか?」
知らずしらず、そんなつぶやきが口から洩れる。語調からもひとりごとであることは明らかだったし、それほど大きな声を出したつもりもなかったのだが――そのつぶやきに、予想外の反… 続きを読む
カーテン越しに朝の気配を感じ、ヤマダくんはベッドの中でかすかに身じろぎした。
寝起きのぼやけた視界で、枕元の目覚まし時計を捉え――反射的にがばっと身を起こしかける。危うく声を上げそうになった… 続きを読む
「――これが、マンボウ……ねぇ?」
先週までとさして変わりばえのしない満員電車に揺られながら、ヤマダくんは声に出さず胸の奥でぼやいていた。正確には、「まん延防止等重点措置」とか言うらしいが、そ… 続きを読む
いつもの通勤電車は、今朝もあいかわらず混雑していた。
先週までと比べても、あきらかに乗客数は増えている。3月に入り、1ヶ月間延長した緊急事態宣言も翌週には解除となる見通しだった――少なくとも、… 続きを読む
今朝も、マユは元気いっぱいだった。
産後3ヶ月を過ぎて、そろそろ新生児から一人前の乳飲み児――「一人前」というのもおかしいが――に成長しつつある愛娘は、必要なときにはちゃんと声を上げて自己主… 続きを読む
――けたたましい赤ん坊の泣き声が、夜の静寂を破る。
声を聞いて反射的に飛び起きたつもりだったが、じっさいには、どうやら数分間は気づかずに寝ていたらしい。何故なら、たった今まで隣で寝ていたはず… 続きを読む
――枕もとで、目覚まし時計のブザーが鳴っている。
ベッドの中でもぞもぞと身動きしていたヤマダくんは、思い切って掛け布団をガバッと引きはがした。とたんに、朝の冷気が襲いかかってくる。ヌクヌクと… 続きを読む
「早いもんだ……もう、そんな時期になるのか」
郵便ポストに届いていた国勢調査の調査票を見て、ヤマダくんが思わずそんなつぶやきを漏らしてから、すでに10日余りが経過していた。
10月7日まで、… 続きを読む
「お疲れさまっス!」
「お疲れー」
「お疲れさまでした」
「お先に失礼しまーす」
口々に辞去の挨拶を投げかけつつ、モニタ上に開いていた小画面が次々と閉じていく。あっという間に誰もい… 続きを読む
「おはようございます」
聞き覚えのある、それでいて最近耳にしていなかった挨拶の声を背中に聞いて、ヤマダくんはとっさに返事ができなかった。
「…………あ、――お、おはようございます」
… 続きを読む
「ヤマダさん? ――今こっちに来ちゃダメです!!」
電話越しに警告を発するようなイトウくんの悲痛な叫びを聞いたとき――ヤマダくんの脳裏に絶望感がよぎった。まさか――まさか……!? ヤマダくんのシェ… 続きを読む
――開かれたカーテンの間から、朝のまぶしい光が寝室に差し込んでくる。ベッドの上で身じろぎしつつ、なおも未練がましく掛け布団をかぶろうとするヤマダくんに、彼の愛妻が声をかけてきた。
「おはよう。… 続きを読む
「ほら、ここ――」
膝の上に乗せたノートパソコンの画面に映し出された該当箇所を指し示しながら、ヤマダくんが言った。
「――ここにちゃんと書いてあるよ」
言いながら、画面がよく見えるよ… 続きを読む
「――よっこら、せっ! と……」
少々オッサンくさいかけ声とともに、イシザキくんが抱えた段ボール箱を玄関先の床に下ろした。買い出しに行ったクルマの荷台からここまで運んできた、24本入りの缶ビール… 続きを読む
「は〜い、それじゃみんな、準備はいいかな? ………メリークリスマス!」
「メリークリスマ〜ス!!」
司会者の音頭に合わせて、テーブルを囲んで居並ぶ10人ほどのメンバーがいっせいに唱和する。めい… 続きを読む
「――ただいま。……いやぁ〜、まいった、まいった」
帰ってくる早々、玄関先で盛大なぼやき節を発したのは、『バーデン-S』最年長の住人であるアオノさんだった。
「お疲れさま。大丈夫だった?」続きを読む
「……えー、早いもので、今週末がラストチャンスになります」
9月下旬の三連休最終日、『バーデン-S』のリビングであった。連休中はそれぞれ、実家に子どもを連れて行ったり、家族旅行に出かけたりしてい… 続きを読む
「――つまりは、そういうことなんですが……」
つい先日とは、まるっきり立場も口調も変えて、ヤマダくんは言った。
「どうかひとつ、皆さんの忌憚のないご意見という奴を……」
大仰な物言い… 続きを読む
「――つまりは、こういうことだったのか……」
どんよりと疲労をにじませた声音で、ヤマダくんはつぶやいた。
「はぁ………すいません」
さっきからずっと下を向いたままのイトウくんは、かす… 続きを読む
未明の静寂を破って、壁の向こうから赤ん坊の泣き声がかすかに漏れ聞こえてきた。
「……はじまったな」
声に出さずに胸の奥でつぶやき、ヤマダくんはごそごそとベッドの上で身じろぎした。寝ぼけま… 続きを読む
「大丈夫っすよ。万事任せてください!」
どん、と胸を叩かんばかりに大見得を切ってみせたのは、『バーデン-H』102号室のイトウくんだ。そのようすを見て、ヤマダくんはむしろ不安げにボソボソとつけ加え… 続きを読む
「ええと、今週末に荷物の搬入……ですか?」
ちょっと意表を突かれた感じで、ヤマダくんはとまどい気味に相手の言葉をくり返した。
「うん。もちろん、本格的な引っ越しは月末になるけど――その前に… 続きを読む
「本日はご多忙のところ、お集まりいただきまして誠にありがとうございます――」
そんな、改まったおきまりの挨拶は、狭い会場に押し込まれた人々の歓声と笑いの渦にたちまちまぎれてしまう。つい数時間前… 続きを読む
「準備できたの――?」
クリスマスにはまだだいぶ間があったが、その問いかけはまるで、パーティの準備を確認するかのようなうきうきした口調だった。
「ああ。あとはこいつを――」
パラッ―… 続きを読む
「とりっかーとりー‼」
だしぬけに、舌っ足らずな甲高い声に出迎えられ、ヤマダくんは思わず玄関の引き戸に手をかけたまま、三和土の上で固まった。
目の前の上がり框に、血みどろの蒼白い顔… 続きを読む
「…………そっか。じゃあ、いよいよ――」
しばしの沈黙の後、ためらいがちに口を開いたヤマダくんの表情は、隠しきれない困惑の色を浮かべていた。予想外だったわけではない。むしろ、必然の成り行きだっ… 続きを読む
「いや〜、ホント、助かりました」
そう手放しで大絶賛する相手のようすを見て、ヤマダくんはちょっぴり複雑な表情を浮かべた。喜ぶべき出来事には違いないのだが、こうもあっさりと、露骨に手のひらを返さ… 続きを読む
「……あくまで暫定的な措置、ということでよろしいのですね?」
堅い声音と事務的な口調でそう念を押され、ヤマダくんはかすかに呻くように頷いた。一拍置いて、うつむいたまま絞り出すような声で応える。… 続きを読む
「…………どう思います?」
じっと無言で考え込んでいた3人の中で、口火を切ったのはイシザキくんだった。
「うん……」
アオノさんもそう言ったきり、なかなか先を続けようとしない。
… 続きを読む
「まあ、何はともあれ――」
ちょうどまる1ヶ月ぶりに集まったメンバーの顔を見回しながら、ヤマダくんはちょっともったいぶって言った。
「無事のご出産、ご退院……本当におめでとうございます!」<… 続きを読む
「――ああ、来た来た。おーい、こっち、こっち!」
ファミレスの奥のボックスシートから立ち上がって、大声で叫びながらこちらに手を振る相手の姿を見て、ヤマダくんは思わず、その場で回れ右して引き返し… 続きを読む
「はじめまして。……ってか、正直、あんまりはじめての気もしませんけど」
どこか人を喰ったような第一声ではあるものの、悪い印象は少しもなかった。馴れ馴れしいというより人懐っこい気さくな態度であり… 続きを読む
「おめでとうございます! 今日はお招きいただいて……」
玄関先で改まったあいさつをするヤマダくんとワタナベさんに、
「ありがとう。まあまあ、あいさつはいいから、入って入って。狭いとこだけど… 続きを読む
「今日も、冷やかし半分の問い合わせモドキが1件だけ……。あとはまあ、例によって例のごとし……か」
ノートパソコンのモニタから顔を上げながら、疲れ切ったようにヤマダくんがボヤく。
「――クレ… 続きを読む
「その……、こんなことを申し上げるのはたいへん心苦しいのですが……」
いつになく――というよりも、それなりに長いつきあいであるヤマダくんが初めて耳にする、妙に歯切れの悪い言い方だった。
「… 続きを読む
「……そりゃまあ、あんたら当人の気持ちが一番大事なんだけどさ」
そう言って、聞こえよがしなタメ息をひとつ。
「正直、あたしはあんまり賛成できないねぇ……」
背中を向けたままそこまで言… 続きを読む
「この間のことは、本当にごめんなさいね……」
テーブルに手を突いて深々と頭を下げてくる相手に、ヤマダくんは少々居心地悪そうに答える。
「いえ、まあ、済んだ話ですから……」
「そういうワ… 続きを読む
重苦しいような沈黙が、広間を支配していた。
『バーデン-K』のリビング――中央に掘りごたつが設えた、12畳敷きほどの板の間である。古民家再生シェアハウスに特有の、冬場は暖かく夏場はひんやりと居心地… 続きを読む
「…………なるほど。お話は、よくわかりました――」
迷いを感じさせるしばしの沈黙ののち、ヤマダくんはやっと、それだけを口にした。
「ホントに申し訳ありません。私たちの目が届かなくて……」続きを読む
「それじゃ、お世話になりましたぁ〜!」
無邪気な……というより、むしろ能天気と言ったほうがよさそうな、あっけらかんとした別れの挨拶だった。言ってることは殊勝なのだが、声音はいつもと変わらない、… 続きを読む
ピピピピッ、ピピピピッ……と軽やかな電子音が鳴った。
ぼんやりした意識の中で、ヤマダくんはのろのろと手を布団から出し、咥えた体温計を口から抜くとデジタル表示を確認した。
――38.6℃。続きを読む
「あ、イトウくん。そっちの皿、頼むわ」
リビングとキッチンをせわしなく行き来しながら、ヤマダくんは、ちょうど通りかかった102号室のイトウくんに声をかけた。
「ふぁああい……」
あくび… 続きを読む
玄関先の常夜灯がチカ……チカ……と点滅しているのが目についた。そろそろ寿命らしい。次に交換するときはLED電球に替えようか……と考えていたのを思い出し、ヤマダくんは内心ちょっと憂鬱になった。
… 続きを読む
玄関のドアを開けると、ぷ〜ん、とカレーの匂いが漂ってきた。誰かの今夜の夕食だろう。食事を済ませてきたからよかったものの、さもなければ帰宅早々、空腹感に苛まれていたかもしれない。飯テロ、とかいう奴だ… 続きを読む
「……では、改めましてぇ。みなさん、今後ともよろしくお願いしますぅ」
キャピキャピと甲高い声質で、語尾を少し伸ばすような甘ったるい喋り方――いわゆる「アニメ声」という奴だろう――で、髪の長い20… 続きを読む
「こういうときに、こういうことはあまり言いたくないんだけど……」
いかにも心苦しそうに、ヤマダくんは口ごもりながら言った。
「いや、もちろん、今すぐにどうこう、という話ではないんだけどね」… 続きを読む
「――まさか、ここまでのことになろうとはね……」
重苦しい沈黙を破って、ヤマダくんがポツリ、とつぶやいた。ヤマダくんの隣では、ワタナベさんが居心地悪そうにもぞもぞしている。『バーデン-H』のリビ… 続きを読む
2016年4月15日、午前6時――。
寝不足気味の頭を抱えて、ヤマダくんは自室である101号室のベッドから這い出した。大あくびしながら、のそのそと洗面所へ向かう。
と――リビングの方から、点けっ… 続きを読む
「えー、それでは『バーデン-K』の新装オープンを祝って……乾杯!」
緊張にかすれた声で、ワタナベさんが乾杯の音頭を取った。
「かんぱーい!」
女性ばかりの華やかな声が口々に唱和する。そ… 続きを読む
「ここを買うって!? ……しかも、居抜きで?」
呆気にとられたように、ヤマダくんはオウム返しに言った。ややあって、かすれた声で先を続ける。
「…………それで、きみはなんて返事をしたんだ?」続きを読む
「……しかし…………今日でないとマズイの?」
いかにも気乗りしないようすでヤマダくんが言う。言葉の端々に色濃い疲労がにじんでいた。昨夜もあまりよく眠れていないのだろう。
「ううん、マズイと… 続きを読む
「ついこないだ、国勢調査があったばかりなのに……」
そんな、言わでもがなのセリフを口にしながら、ヤマダくんはリビングに集まったシェアメイトの面々に言った。
「こんどは例の『マイナンバ… 続きを読む
「ええと、こんなん……だったっけ……?」
ぶつぶつとひとりごちながら、ヤマダくんは目の前の書類とノートパソコンのモニタとをためつすがめつしていた。
封の閉じられていない封筒に収められてい… 続きを読む
「ふんふん……なるほどねぇ……」
軽いといえば軽い、どころか、ほとんど無関心にも思えるくらい投げやりな口調で、ヤマダくんはたった今内見した物件をバッサリ斬り捨てた。
「まあ、悪くはないんで… 続きを読む
「………………ッ!」
言葉にならない、かすかな低い呻き声が漏れる。
「へぇ………」
感嘆とも、感動ともつかないつぶやき。目の前の建物を見上げながら、ヤマダくんは不思議な興奮を覚えてい… 続きを読む
「……」
パラリ――と紙をめくる乾いた音がする。
「……………………」
また、パラリ――。
室内を覆う重苦しい沈黙の中で、その音だけがかすかに空気を動かしていた。
ややあっ… 続きを読む
「できれば徒歩圏。最低でも、2駅区間内で探そうと思ってるんですけど……」
ヤマダくんの言葉に、ワタナベ氏はうむうむと頷いてみせた。
「じっさい、探してみると、これがなかなか……」
「ま… 続きを読む
「2軒目……ですか?」
オオシマ女史の言葉には、かすかに驚いたような響きがあった。
「ええ……いや、まあ、自分としてはまだ、時期尚早かな? と思ってるんですが……」
語尾をモニョモニ… 続きを読む
「まあ、楽にしてください」
贅を尽くしたおせち料理がところ狭しと並んだテーブル越しに、お銚子を片手にワタナベ氏が話しかけてくる。
「は、はあ……」
緊張に上ずった声音で生返事をするヤ… 続きを読む
「メリークリスマス!」
唱和と同時に、今夜ばかりは少々張り込んだスパークリングワインを満たしたグラスが、一斉に澄んだ音色を立てた。
全員がグラスに口をつけ、無言で炭酸の刺激に咽喉を鳴らす… 続きを読む
「……そのときね、耳元でハッキリ聞こえたんだって。……『今から行くよ』って……」
ボソボソとささやくようなかすれ声で、204号室のスギシタさんが語り終えた。凍りついたように無表情なまま――。
続きを読む
「……………………」
何を言うべきか、どういうふうに話したらいいのか判断できないまま、ヤマダくんは無言で目の前の相手を見つめていた。
H駅前の居酒屋――たまに、ハウスのメンバーや彼女であ… 続きを読む
「で……?」
なるべくキツい言い方にならないように気をつけながら、ヤマダくんは話の先を促した。
「なんつうか、つまりその……まあ、そういうことになっちゃってさ」
照れくさそうに頭をご… 続きを読む
「それじゃ、お疲れさま〜〜カンパーイ……」
あまりやる気の感じられない乾杯の音頭に、居並ぶメンバーもお義理のように唱和する。
「乾杯……」
お互いにグラスをぶつけることもなく、めいめ… 続きを読む
「……それじゃ、お元気で」
吹っ切ったつもりではいたにもかかわらず――ヤマダくんの口から出た声は、妙に湿っぽいものだった。寂しくない、といえばウソになる。ましてや、不安がないなどとは口が裂けて… 続きを読む
「じゃあ、来週の金曜日の夜……で、いいんだね?」
廊下で話している電話の声が、リビングまで漏れ聞こえていた。
「ウン……ウン、ああ、わかってるよ」
どことなくぶっきらぼうな、そのくせ親… 続きを読む
「ただいま〜。いやあ、ひどい目にあったよ……」
その日――4日ぶりの帰宅のあいさつもそこそこに、アオノさんは盛大なタメ息をついた。
「お帰りなさい。ご無事で何よりでした」
玄関口で出… 続きを読む
「……やれやれ、だな」
ホッと息をつきながらヤマダくんがそう言うと、
「ホント、やれやれ、ね……」
ワタナベさんも調子を合わせる。ちょっと前までのトゲトゲしい雰囲気はなくなり、どこと… 続きを読む
「……言えないんでしょ?」
聴いているだけで耳の中がチクチクしてくるような、じつにトゲトゲしい口調だった。
「………………」
「……わたしから言ってあげてもいいんだよ?」
「……い… 続きを読む
カラカラ――ッ。
何気なく、バスルームへ続く脱衣所のアコーディオンカーテンを開けた瞬間――ヤマダくんは反射的に叫んでいた。
「あッ……し、失礼しました……!!」
目の前にあったのは、… 続きを読む
「……えー、では、改めまして」
すでにアルコールが入っているせいか、少々呂律の怪しい口調でヤマダくんは言った。
「われらが『バーデン-H』の、再出発を祝って……」
言葉を切って、テーブ… 続きを読む
プルルッ……と固定電話が鳴りはじめた瞬間、ヤマダくんはビクッと身をこわばらせた。
受話器に伸ばす手が、いかにも嫌々といった動きだった。
受話器を取ってからも、すぐには口を開かず、耳に当て… 続きを読む
「あなたに非はない――と、私も思っているんですが……退去していただけませんか?」
言いにくそうに口を開いたヤマダくんに、「彼女」はぴしゃりと言い返した。
「いやです」
「あ、いや、その… 続きを読む
「ヤマちゃん。ちょ〜っと、いいかな………?」
その日、会社から帰ったヤマダくんを待ちかまえていたように――じっさい、待ちかまえていた… 続きを読む
「では、今のサカグチさんのご意見に賛成の方は……?」
ヤマダくんが周囲を見回しながら、おそるおそる採決の声をかけた。
沈黙………重苦し… 続きを読む
「うーん…………これは、たしかに……」
苦りきった表情でヤマダくんが控え目に同意を示すと、
「でしょう? やっぱり、誰が見てもそ… 続きを読む
「こりゃ、ないよな」
テレビの画面に向かって苦笑まじりにヤマダくんが小声でツッコミを入れる。
「マジ、ありえねぇっすよね〜」
少し離れたソファから合いの手を入れたのは、103号… 続きを読む
「うぅぅーーーーんんん…………」
地の底から響いてくるような、獣じみた唸り声を上げているのはヤマダくんである。
「&h… 続きを読む
「はい、そっちのテーブルに取り皿回してあげて!」
「あ、そこの隙間、詰めて詰めて」
「そっちのほう、座布団足りてる?」
「えっと、コップは全員行きわたったよね?… 続きを読む
「とりあえず、最初はそちらで黙って見ていてください」
「……はぁ」
「私の方でひと通り質問しますから、それが終わってから、もし何か補足するようなことがあれば… 続きを読む
「…………わぁ!」
玄関から一歩足を踏み入れた瞬間、ワタナベさんの口から歓声が漏れた。
声にこそ出さないが、ヤマ… 続きを読む
「浴室のカラン……は、まあいいとして、シャワーはどうしたもんか……?」 カリカリ、トントン、パラパラ、ガシガシ――。 つぶやきとともに、いろいろな音が… 続きを読む
「えーと、収入印紙に……実印に……」
ゴソゴソとブリーフケースの中身を確認しながら、ヤマダくんがひとりごちた。
「よし、と。……これで大丈夫…&… 続きを読む
「新築……ですか?」
ワタナベ氏は、やや意表を突かれたように訊き返した。
「はい。考えてみれば、そもそもの出発点はそこでしたから……」
ヤマダくんはワタナベ氏… 続きを読む
ザクッ、ザクッ、ザクッ……。
路面にへばりつくように凍結している雪を、先端の平たい雪かき用のシャベルでこそげ取りながら、ヤマダくんは、ふう、と小さく息をついた。
午… 続きを読む
「ま、楽にしてくださいよ」
にこやかにビール瓶をこちらに突き出す初老の男性を前にして、ヤマダくんはガチガチに緊張していた。グラスを握る手が細かく震え、男性が注いでくれるビールをこぼしてしま… 続きを読む
「はい。はい……かしこまりました! では、本日中に……」
そういって電話を切り、デスクトップ上で作成途中の書類に戻ろうとしたとたん、息つく間もなくヤマダくんの前の電話が… 続きを読む
「ね。今からヤマダさんのお部屋に行ってもいい……?」
そういって、ワタナベさんはヤマダくんのほうをいたずらっぽく見た。グラスを数杯重ねた酔いでほんのり頬を染めているが、口調はわ… 続きを読む
「……短い間ですが、なにぶんよろしく!」
そういって、ヤマダくんは頭を下げた。リビングでくつろいでいた6人ほどの若者たちは、それぞれの反応で歓迎の意を表した。にっこり笑って「よろ… 続きを読む
「マイホームをタダで手に入れる……?」
しつこいマンション販売営業のセールストークをヒントに、「家賃収入でローンを返済する」という裏ワザの存在を知ったヤマダくん。いろいろ… 続きを読む
ふいに、デスクの電話が鳴った。ひと呼吸おいて、内線のコールランプが点滅するのを確認し、ヤマダくんは受話器に手を伸ばした。
「ヤマダです」
「××不動産とおっしゃる方から… 続きを読む
なにも、やけくそになっていたワケじゃない。
後になって、ヤマダくんは何度もそう自分に言い聞かせることになる。「もののはずみ」と言おうか、「売り言葉に買い言葉」と言おうか、とにかく、あ… 続きを読む
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