TPP交渉参加をめぐる議論がいよいよ白熱して参りました。ちょうど1年ほど前、当時の野田首相が「TPPはビートルズ、日本はポール・マッカートニー」などと意味不明の論理を振りかざして煙に巻いていた頃を思えば、政府も国民も、だいぶ本気の度合いが変わってきたように感じますが……まあ、それだけ「待ったなし」の状況ということなのでしょう。もし、TPP参加が正式に決定された場合、不動産業に対する影響も当然、懸念されます。現時点では、REITなど不動産投資分野における外資の規制緩和・規制撤廃、あるいはオフィスビル仲介事業などへの外圧が予想されているものの、市井のシェアハウス大家さんへの直接的な影響はまだ想定の範囲には入っていないようですが……。たとえば、海外からの渡航者が増えれば、外国人入居者の受け入れに積極的なゲストハウスにとっては歓迎すべき事態となるかもしれません。ただし、長期的に見た場合、彼らが日本でのシェアハウス・ゲストハウス事業に参入し、競合するという事態も想定しておかなければならないでしょう。
さて、1年前といえば、今年もやってきたのが「平成25年地価公示」の発表。3.11大震災から2年を経て、地価相場はどのような変動を見せているでしょうか。国土交通省の記者発表では「平成24年1月以降の1年間の地価は、全国的に依然として下落を示したが、下落率は縮小し、上昇・横ばいの地点も大幅に増加し、一部地域において回復傾向が見られる」と総括しています。言いたいことは理解できるのですが、内容的には1年前のコメントとほぼ同様であり、この1年間の市場の変化はどうやら予想以上に遅々としたものであったということがわかります。けっきょく、全国2万6,000地点の地価変動率は、住宅地が全国平均で▲1.6%(前年度▲2.3%)、商業地が▲3.1%(同▲3.1%)となり、いずれもリーマン・ショック以降5年連続の下落となりました。下落幅に関しては昨年よりもさらに縮小しており、また調査地点の上昇・横ばい・下落数の変動では、住宅地・商業地ともに上昇・横ばいの地点が増え、下落の地点が減少していることがわかりますが、これをもって「景気回復の兆し」「地価上昇の気配」と断定してしまうには、ややためらいを覚えるところです。また、昨年に引き続き地価の上昇率がもっとも高いのは宮城県で、上昇率上位10位中8地点が宮城県・岩手県・福島県の被災地3県に集中しています。無論、被災地の復興はたいへん喜ばしいことですし、特に福島県が上位に顔を見せているのは嬉しいニュースでもあるのですが、やはり、プライスリーダーである東京都区部の平均地価が依然として下落傾向にあるのはいささか寂しいような気もします。とはいえ、下落率は住宅地で▲0.2%(同▲1.0%)、商業地で▲0.4%(同▲2.1%)まで回復しており、順調にいけば7月の路線価発表の季節にはもう少し景気のいい話が聞けるかもしれません。もっとも、目先の景気回復が、近い将来の増税とセットになっていることは重々承知しておりますが。
「地価公示」の発表といえば、今年も業界団体や企業の経営トップがコメントを発表しています。まず(公社)全国宅地建物取引業協会連合会会長の伊藤博氏は「いわゆる『三本の矢』が功を奏しつつある証であり、株高、円安の傾向とともに大変明るい兆しの現れであり、喜ばしいこと」とした上で「住宅政策については、消費税増税に伴い消費者マインドが冷え込まない対応を切に望むものである」と釘を刺しています。いっぽう、(一社)不動産協会理事長の木村惠司氏は「不動産市場全体にようやく回復の兆しが見え始めてきた」、(一社)不動産流通経営協会理事長の袖山靖雄氏は「新築・中古住宅それぞれにおいて取引が活況を呈している」といった調子で、いずれも昨年に比べて一層前向き、あるいは強気の評価を下している点は注目すべきでしょう。そして民間企業からは住友不動産(株)代表取締役社長・小野寺研一氏が「地価はすでに反転しているというのが実感」、東急不動産(株)取締役社長・金指潔氏が「企業および消費者のマインドは回復傾向にある」「東京圏を中心に回復の程度が加速している」と、業界団体以上に強気な発言も飛び出しています。
こうした「識者の見解」には、それぞれの発言者の立場というしがらみもあって、一概に鵜呑みにすることはできないのですが、数字で証明できる部分に関しては一定の信憑性があります。今後の地価変動についても、継続的に観測していく必要があるでしょう。
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