右肩上がりの経済成長を続けていたアベノミクスにも、ついに陰りが見えてきました。6月14日に閣議決定された「第三の矢」こと成長戦略ですが、「日本再興戦略」と銘打たれた同素案に対して、業界筋では「低成長の原因究明がない」「(各省庁の予算獲得に向けた)欲しいものリストにすぎない」とまで酷評されるなど、おおむね厳しい評価にさらされています。これを反映して株価は急落に転じ、100円台をキープしていた円相場が一時93円台まで急騰するなど、日本経済は迷走の度合いを強めています。もちろん、永遠に続く右肩上がりはありえませんが、このまま失速してしまうにはあまりにも惜しい気運。大阪市の橋下市長、東京都の猪瀬知事ら地方自治体のトップの発言が諸外国の非難を浴びるなど、このところまた国際社会の風当たりも強くなってきました。きたる7月の参院選での自民党の大勝は動かないでしょうが、安倍政権にとってここは踏ん張りどころです。「日本再興戦略」への不評に対して安倍首相が匂わせる参院選後の「第四、第五の矢」が、某元首相の「腹案」と同じでないことを祈ります。
さて、今回取り上げるのは、このところシェアハウス業界にも多大な影響を及ぼしている「脱法ハウス問題」です。これは5月末ごろから急にニュース等で取り上げられるようになり、誤解や偏見、無理解からシェアハウス全体が白眼視される懸念――もはや懸念では済まないという声もあるようですが――もあります。
今回の騒動の始まりは、私の把握している限りでは5月23日付の毎日新聞の報道のようです。元の記事はリンク切れとなっているようなので、以下、全文を引用してみましょう。
「新たな居住スタイルとして住居の『シェアリング』(共有)が注目される中、ネットカフェ大手『マンボー』(東京都新宿区)が『シェアハウス』などとうたって運営する中野区の施設が、東京消防庁から消防法違反を指摘されていたことが分かった。狭い個室が多数並ぶ構造で、自動火災報知設備などがなく危険な施設と判断された。シェアハウスには法令上の定義がなく、脱法的な類似施設が近年増加しており、専門家は『火災が起きれば多数の犠牲者が出る』と警鐘を鳴らしている。(毎日新聞 2013年05月23日 02時50分)」
その後、テレビや新聞等でくり返し報道されている「マンボー」の実態は、ご覧になった方にはおわかりのように、とうてい「シェアハウス」などと呼べるシロモノではありません。しかし、「シェアハウスには法的基準が整備されていない」という現状を逆手に取り、カプセルホテル以下の居住環境を「住居ではなく、倉庫(あるいは事務所)」と言い張って、じっさいに入居者との間では入居契約ではなく事務所賃貸契約を結んでいたといいますから、相当悪質といっていいでしょう。しかも、続報によれば、この報道があった翌24日、「マンボー」の千代田区の施設で「突然、6月中の退去を求められた」といいます。問題が大きくなるのを恐れて証拠隠滅に走ったのかもしれませんが、これが裏目と出て6月12日、施設利用者4人が「マンボー」を相手に、賃借権に基づく占有を妨害しないよう求める仮処分を東京地裁に申請し、司法の場で争われることになりました。
この一連の騒ぎのなか、太田昭宏国土交通相は6月11日、閣議後の記者会見で「建物の安全確保が大事で、速やかな実態把握と情報収集が必要だ。建築基準法違反が見つかれば是正措置を速やかにしなければならない」と述べた、と産経新聞は報じています。
当コラムでも再三警告してきましたが、シェアハウスのようなニッチな市場では、一部の不心得者が業界全体に大きな影響を及ぼすことになります。「シェアハウス」の名を騙る悪質業者が淘汰されるのはむしろ歓迎すべき事態なのですが、彼らのためにシェアハウスそのものがイメージダウンとなっているのもまた事実。今回の騒動をきっかけに、シェアハウス業界の浄化が進むことも期待されますが、ひとつ間違えば、個人経営の弱小シェアハウスが軒並み淘汰され、大手の経営する超優良シェアハウスだけが生き残るという事態にもなりかねません。個人経営のシェアハウス大家さんにとっても、ここは踏ん張りどころと言えそうです。
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