不動産関連お役立ち情報  >  新・今月の不動産コラム  >  第38回 空き家問題とシェアハウス

第38回 空き家問題とシェアハウス

昨年11月27日に公布された「空き家対策特別措置法」は、本年2月26日に施行され、さらにその関連規定も含めて5月26日から完全施行となりました。同法2条1項に定められた「空家等」とは、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く」とあり、さらに2条2項に定められた「特定空家等」とは、「? 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態 ? 著しく衛生上有害となるおそれのある状態 ? 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態 ? その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態 にある空家等をいう」とされています。いわゆる「空き家問題」は、かれこれ10数年以上前からたびたび指摘されており、おもに地方都市の抱える課題として自治体レベルで検討されてきましたが、これまで特効薬といえるような施策は見つかっておりませんでした。近年は首都圏にまでこの問題が波及しており、東京23区内でも対応に苦慮する声が聞かれています。

こうした動きを受けて、6月9日には国土交通省が「遊休不動産再生を活用したエリア価値向上手法に関するガイドライン〜リノベーション・エリアマネジメントのすすめ〜」案( http://tochi.mlit.go.jp/wp-content/uploads/2015/06/3e48d690ba2fb77cf90f9230f39bb2f3.pdf )を発表しました。「リノベーション・エリアマネジメント」というのはいささか聞き慣れない用語ですが、国交省ではこれを「(特定のエリアにおいて公的および民間の遊休不動産を再生することにより、エリアにおける良好な環境やエリアの価値を維持・向上させるための)住民・事業者・地権者等による主体的な取り組み」と定義しており、この「リノベーション・エリアマネジメント」を推進するため、先進的な取組事例に関する情報や留意点等を地方公共団体向けにとりまとめたのが同ガイドライン案です。ここでいう「先進的な取組事例」の一つに、「遊休不動産のシェアハウス化」が含まれていることは言うまでもないでしょう。ただし、国交省では、たんに個別の空き家をシェアハウスとして再生するだけでなく、周辺へ及ぼす効果を勘案し、たとえばエリアぐるみで地域コミュニティを形成するなどして、エリア全体の価値向上を図るところまでを視野に含めています。こんなふうに言ってしまうと、一介のシェアハウス大家さんの出る幕ではなさそうですが……同ガイドライン案では、「地方公共団体は、遊休不動産の所有者・地権者、地域住民、民間事業者と協力しながら、構想の策定や協議会の場の設定・運営等のソフト支援に取り組むべき」としています。逆に、我々民間事業者の立場から言えば、自治体に協力することで何らかの具体的な恩恵を得ることも期待できそうです。

たとえば、6月11日に開催された(公社)神奈川県宅地建物取引業協会の2015年度通常総会において、同協会の坂本久会長は冒頭挨拶の中で次のように述べています。「5月26日に『空き家対策特別措置法』が完全施行された。全国に820万戸あるといわれる空き家の中で、特定空き家ではないものが相当数ある。なぜ空き家になっているのかを、調査して中古住宅流通に結びつけていければ、会員のビジネスチャンスにつながってくる。受け身ではなく攻めていける方法を考え、本部でも取り組んでいきたい」と……。これは(株)不動産流通研究所の運営する「R.E.port」の編集部取材記事( http://www.re-port.net/news.php?ReportNumber=43426 )ですが、神奈川県だけに限らず、空き家問題をビジネスチャンスと捉え、独自の動きを見せている自治体は全国に広がりつつあります。一概にメリットだけを享受できるとは限りませんが、所有物件や今後の取得予定物件について、地域の自治体から発信される情報には注目しておいた方がいいでしょう。

また、同法施行を受けて、関連業界ではさまざまな対応やサービス形態を打ち出しています。たとえば、京王電鉄(株)では6月16日より、「空き家巡回サービス」( http://www.keio.co.jp/news/update/news_release/news_release2015/nr150610_keiohotnetnewservice.pdf )を開始すると発表しました。これは同社が推進する「京王ほっとネットワークサービス」の一環として、“住んでもらえる、選んでもらえる沿線づくり”を目指し、顧客ニーズに応えるさまざまなサービスに取り組むというものです。「転勤で自宅を空けてしまう」「実家が誰も住んでいない状態である」「相続したがしばらく利用しない」といった、居住していない一戸建てやマンションを、所有者に替わって定期巡回し、郵便物の確認・近隣への挨拶、施錠確認、写真撮影、庭木・雑草の確認などが基本メニューとなっています。さらに、物件に応じて予算別に「一戸建て簡易プラン」「同・標準プラン」「マンションプラン」を用意し、オプションで郵便物の転送や庭木剪定などのメニューもあるとのこと。サービス提供エリアは京王線・井の頭線沿線全域となっており、「沿線住宅地の価値・魅力の維持につなげ、どの年代層にも生活しやすい、活気のある沿線となることを目指す」としています。同サービスの評判次第では、沿線に住宅地を擁する他の私鉄各会社でも、同様のサービス導入を検討する動きがみられるかもしれません。

その一方で、こうした空き家の所有者・地権者たちの意識は、「自宅不動産の活用」に対して消極的であるとの調査結果も報告されています。積水化学工業(株)住宅カンパニーの調査研究機関である(株)住環境研究所(JKK)が発表した「戸建持家層の自宅不動産の活用に関する意識調査」結果( http://www.jkk-info.jp/files/topics/55_ext_05_0.pdf )によると、首都圏1都3県に住む人のうち、自宅を「活用資産」と回答したのは全体の27.3%にとどまり、約6割が「非活用資産」と回答しています。JKKではこの結果を、「自宅は活用するものではない」という認識がすり込まれている可能性がある、と分析しています。ただし、持家戸建層を世帯年収別に分けると、自宅を「活用資産」と考えるのは年収1,000万円以上で、それ以下では年収が低くなるごとに「活用資産」と考える層が減っていく傾向がみられました。持家戸建層に、自宅の「賃貸住宅」としての活用の可能性を聞いたところ、世帯年収が高いほど意欲的であり、「住み替え後の自宅処分の方法」については、自宅を「活用資産」と考える人たちの32.8%が「(賃貸住宅として活用するなどの手法で)手放さない」と回答していることがわかりました。つまり、リタイア後に悠悠自適を目指す富裕層では、老後の資金計画の中で自宅の賃貸活用を視野に入れており、逆に収入に余裕のない層ほど「終の住まい」として自宅を手放したがらない傾向があるようです。シェアハウス大家さんとしては、中古物件の取得に際して、こうした不動産の所有者・地権者の意識を配慮することも必要になりそうです。
前
第39回 就活支援とシェアハウス
カテゴリートップ
新・今月の不動産コラム
次
第37回 メディア報道とシェアハウスその3

ログイン

ユーザー名:

パスワード:


パスワード紛失


シェアハウス大家さん
倶楽部(無料)

シェアハウスで不動産投資に踏み出すサラリーマンやOLの皆様を応援する会員制プログラムです。ご登録いただくと各種不動産投資情報やサービスを無料提供致します。
入会申込(無料)