去る10月7日、内閣改造により第3次安倍内閣が発足しました。新たに国土交通大臣に就任したのは公明党政調会長の石井啓一氏です。石井氏は東大工学部卒業後、1981年に当時の建設省に入省。1992年に退官するまでの11年間に、道路局国道第二課橋梁係長、道路局路政課課長補佐などの役職に就いています。政治的な力関係でズブの素人が就任することも珍しくない大臣ポストに、バリバリの元建設官僚が就任したのは、業界にとっては歓迎すべき事態だといえますが……ご存じのように、省庁の実質的なトップはお飾りの大臣ではなく、No.2の事務次官です。現在の国交省事務次官は、7月に交代したばかりの徳山日出男氏ですが、この方の経歴を見ると「東大出身」「1979年、建設省に入省」「道路局企画課長から東北地方整備局長、道路局長を経て技監、事務次官」とのこと。年齢も近く、大学時代から建設官僚時代にかけて、ずっと石井氏の先輩であった人物です。当時から現在のお二人の人間関係はわかりませんが、新任の大臣にとっては、おそらく絶対に頭の上がらない相手だと思えるのですが……願わくは、最強のコンビとなっていただきたいものです。
さて、今年の6月頃から報じられていた「レインズ有料化」の動きについて、東日本不動産流通機構は10月1日、課金制度の詳細について発表しました。これは2016年4月1日よりスタートされ、情報の検索・取得に関する機能に対する「プラス課金」と、成約登録・図面登録機能に対する「マイナス課金」の2種類が設けられています。同機構によると、課金の目的は悪質な不動産業者の利用を制限する狙いがあるとされ、課金対象機能別に件数を設定し、その設定件数を超える部分が課金対象となります。今回設定された「課金対象件数基準値」では、プラス課金である「物件条件検索」「物件詳細検索」は月当たり3000件、「成約条件検索」「成約詳細検索」は月当たり300件を基準値として、これを超えると1件につき原則5円が課金されます。マイナス課金については基本的に1件ごとに発生しますが、「図面登録」は初回登録時のみで、いずれも原則1件当たり30円が課金されます。通常利用の場合はさほど問題にならない金額設定(もちろん、レインズの性質上、そうせざるをえないのも当然ですが)なのはいいとして、これが悪質業者に対してどれほどの抑止効果を期待できるものか、いささか疑問ではありますが……。
次にご紹介するのは、最近注目の集まっている「シェアハウスを利用した医療・介護福祉サービス事業」に関する話題です。介護サービスが必要な高齢者や、在宅療養が必要な重病患者の自立生活を支援することを目的としたシェアハウスがあちこちで誕生しています。
「医療介護CBニュース」(
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151014-00000008-cbn-soci )によると、今年10月1日に「ユニマットそよ風」から社名を変更した「ユニマット リタイアメント・コミュニティ」は、同14日に開かれた説明会で今後の事業方針としてアクティブシニア向けサービスへの進出を打ち出し、2016年の年明け早々にも「高齢者向け自立型シェアハウス」を全国に約10拠点開設する予定だと発表しました。同社はこれまで、通所介護やショートステイ、グループホーム、有料老人ホームなどの介護保険事業のほか、サービス付き高齢者向け住宅の運営などを手がけており、今年9月末時点で全国に276拠点を運営しています。今回発表された「高齢者向け自立型シェアハウス」については、同記事によると「(前略)自立型シェアハウスは、既存のショートステイを活用して全国に展開。退職した高齢者が一定期間都市から地方に移住する『ワープステイ』や、親子二世代が互いに近距離に住居を構える『近居』といったニーズへの対応を目指す」(医療介護CBニュース 10月14日〔水〕19時5分配信)とのことです。当コラムの読者であるシェアハウス大家さんの多くにとっては、直接的な競合となるわけでもなく、むしろシェアハウス業界全体のイメージアップにつながる、何ともありがたいお話ということになりそうですが……その一方で、こんなありがたくないお話も報じられています。
少し前のニュースになりますが、7月24日付の産経新聞にこんな記事が掲載されていました。「医療グループが複数の患者を劣悪な環境下に 風呂のないシェアハウスに居住 精神疾患患者“囲い込み”」(
http://www.sankei.com/smp/affairs/news/150724/afr1507240003-s.html )。例によって記事の一部を引用します。
「生活保護を受給する精神疾患患者の相談員として、窓口となる都内自治体の福祉事務所に特定の医療グループの職員が派遣され、多くの患者が同医療グループの精神科クリニックで公費が使われる『自立支援医療』を受けていたことが23日、分かった。元患者は相談員の助言でクリニックに通うことになり、通院をやめようとすると、『生活保護費を打ち切る』と虚偽の説明を受けたとしている。(中略)
一方、この医療グループは複数の患者を風呂のない狭いシェアハウスに居住させるなど劣悪な環境下に置いているとして弁護士らが近く、改善を指導するよう厚生労働省に申し入れる」(2015.7.24 08:12更新)
ざっとお読みいただければおわかりのように、ここで問題となっているのは「福祉事務所に相談員を送り込んでいた某医療グループ」であり、「シェアハウス」自体は関係ありません。問題の医療グループとやらについては(報道時点で確証がなかったということなのでしょうが)具体名を伏せ、漠然と「都内で4つの精神科クリニックを開設する医療グループ」とだけ記しています。しかし、同記事では見出しに「劣悪な環境」「風呂のないシェアハウスに居住」と大きく打ち出し、あたかもシェアハウスそのものが「狭い、風呂のない、劣悪な環境」であるかのような印象を与えています。しかも、悪いことに、このニュースは上の「高齢者向け自立型シェアハウス」の記事と同じカテゴリに入っており、yahooなどの検索サイトでワード検索すると、同じページに表示される場合があります。これでは、上の記事を読んで興味を抱いた人が、下の記事の見出しだけを見て「やっぱり、シェアハウスっていうのは……」と敬遠してしまうこともないとはいえません。
世の中は毀誉褒貶がつきもの、出る杭は打たれるといいますが、シェアハウスへの世間の関心が高まるにつれ、さまざまな立場からいろいろな声が上がってきます。それらひとつひとつを気に病んだり、いちいち腹を立てたりしても始まりません。シェアハウス大家さんとしては、己の信念に基づいた毅然とした態度で世間の風評に向き合っていきましょう。