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第42回 空き家問題とシェアハウスその2

一連のオウム真理教事件で2012年に逮捕された菊池直子元被告は東京高裁で逆転無罪となりました。首謀者とされたオウム真理教元教祖麻原彰晃(松本智頭夫)死刑囚の実刑もいまだ執行されていないまま、すでに地下鉄サリン事件から20年以上が経ち、少なからぬ数の関係者が他界しています。その一方で、今年11月13日のフランス同時多発テロ以降、日本でも23日に靖国神社の爆弾テロ事件など、何かとキナ臭い世の中になってまいりました。この手の非合法活動で、テロ組織の拠点として利用されるのは、短期居住契約で不特定多数の人間が出入りできる共同住宅。昭和40年代の過激派は、当時日本中で建てられはじめていた安アパートなどをアジトにしていましたが、現代ではシェアハウスなどもアジト候補となりそうです。もしもこの先、どこかのハウスがアジトとして摘発されたら、たとえそれがどんなに例外的な物件であったとしても、シェアハウス業界全体に与える影響ははかり知れないものとなるでしょう。そうならないことを切に祈ります。

さて、寡聞にして知らなかったのですが、今年2015年を「空き家元年」と呼ぶ向きがあるそうです。国土交通省では去る11月20日、「平成26年空家実態調査」( http://www.mlit.go.jp/common/001109892.pdf )を発表しました。これは1980年から約5年ごとに実施されている調査で、今回は8回目に当たります。同調査結果から、興味深い項目をいくつかピックアップしてみましょう。
まず、空き家所有者の年齢は、過半数を占める55.6%が65歳以上の高齢者。また、空き家までの距離は、全体の3分の2に相当する67.0%が「1時間以内」と回答しています。また、これらの空き家を取得した経緯として、「新築した・新築を購入した」が23.4%で第2位となっています。つまり、現住所から1時間以内の距離に購入した新築未入居、あるいはいわゆる「新古物件」が相当数空き家のまま放置されていることになります。さらに、これらの空き家について「不動産業者、建築会社、管理専門業者など」に管理を委託しているケースはわずか2.0%。専門業者への管理委託の希望については、「委託するつもりはない」が77.2%に上っています。今後5年程度のうちの利用意向については、「空き家にしておく」が21.5%、「取り壊す」が11.2%、「売却する」が8.8%、「賃貸する」が6.1%など。空き家にしておく理由は、「物置として必要だから」が44.9%、「解体費用をかけたくないから」が39.9%、「特に困っていないから」が37.7%、「将来、自分や親族が使うかもしれないから」が36.4%などとなっています。ちなみに、売却や賃貸をしたい場合の課題については、「リフォーム費用がかかる」が29.1%、「設備や建具が古い」が27.2%、「住宅が傷んでいる」が25.0%という回答に分かれていますが、これらは要するに全部同じこと。業者に管理を委託しない理由、空き家にしておく理由とともに、「とにかく、お金をかけたくない」という悲鳴が聞こえてきそうです。

こうした状況を受けて、ここしばらく「空き家のシェアハウス利用」への取り組み事例が急増しています。

当コラムでも以前、「自己資金0円で自宅をシェアハウスに」というサービスを開始した業者の事例をご紹介していますが、営利目的の民間業者だけでなく、公益団体や自治体が主体となってこれらの事業に取り組んでいる事例も現れています。
たとえば、(一社)つくろい東京ファンド(http://tsukuroi.tokyo/ )という団体では今夏、【空き家×シェアハウス×子どもクッキングサロン】というプロジェクトをスタートしました。これは墨田区のファミリー向けの一軒家を借り上げて、東京の家賃の高さに悩む若者向けのシェアハウス(定員3名)として活用しています。同物件は広いキッチンを備えているのが特徴で、これを活用した「こどもクッキングサロン」を開設。子どもが一人でも立ち寄ることができ、おいしい食事をみんなで作って食べながら、地域とのつながりを実感できる居場所にしていきたいとの狙いがあるそうです。同法人では、開設資金集めに一般の募金を呼びかけています。開設後の運転資金はともかく、立ち上げ時の初期費用については、このように公益性を訴え、一般市民に協力を求めるというのもひとつの方法論かもしれません。

あるいは、自治体の側から資金などの援助に乗り出しているケースもあります。神奈川新聞によると、横須賀市都市計画課( https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4805/yatobank/test-top.html )では、「空き家対策」の一環としてシェアハウスの活用に取り組んでいます。横須賀市はリアス式海岸の地形のため、山間に多くの家が建っていますが、老朽化したり、空き家になっている家も増えているそうです。そこで、同市では階段の多い山間の空き家対策に乗り出し、「谷戸モデル地区空き家バンク」(空き家・空き地の紹介コーナー)を立ち上げました。この谷戸地区は車が入れない階段道路が多く、高齢者には辛い高台に多くの家が密集しています。しかし、健康な若い世代の人にとっては、高台も苦にならず、安い物件を手に入れることができます。こうした背景のもとで、関東学院大学の学生が「キャンパス近隣にある空き家を活用できないか?」と空き家問題の調査を行う中で、横須賀市の都市計画課と地元の工務店の協力を得て、空き家をシェアハウスにする試みが始まりました。その結果、市からの補助で、民家のシェアハウスへのリフォームに144万円、学生1人の家賃補助に月額5000円を得られるようになりました( http://www.kanaloco.jp/article/71808 )。

また、NHK東海NEWS WEBによると、岐阜県白川村では、村へ移住する人を増やそうと、空き家を改修したシェアハウスを用意することにしたといいます。このシェアハウスは、空き家になっている白川村平瀬地区の築60年になる木造平屋建ての物件。「白川村地域おこし協力隊」( http://vill-shirakawa-heritage-mgr.blogspot.jp/ )という地元の組織とボランティアが約600万円をかけて断熱材を入れたり、水回りを新しくして改修しました。建物には5つの個室とリビングダイニングキッチン、それに共同の風呂とトイレがあり、壁紙や床などの細かい内装工事は、入居者に住みながら手がけてもらうことにしているとのことです。家賃は3万2000円、ただし、ほかの空き家の改修に参加することが入居の条件としています。11月20日時点ですでに2人の入居者が決まっており、村では残り3人を募集しているそうです。白川村地域おこし協力隊の代表を務める福田麻衣子さんは、NHK東海の取材に対し「気軽にお試し移住を楽しんでもらおうと作りました。一緒に地域づくりに取り組んでくれる人に来てほしいです」とコメントしています。

これらの自治体や地元の地域振興団体などの取り組みは、個人の民間事業者であるシェアハウス大家さんにとって、必ずしも競合となるものではない、と当コラムでは考えております。むしろ、冒頭に記したように、業界全体を襲う荒波が予想されるなか、心強い防波堤となってくれるのではないでしょうか。行政を味方につける――もっと言えば、行政を利用することで、個々のシェアハウスの運営にも追い風を吹かせることができるかもしれません。
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