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第46回 社会貢献とシェアハウス

熊本では4月14日の前震以降、4週間近くが経過した現在も連日震度3以上の揺れが続いています。避難生活も長期化してきたことで、プライバシーの確保やエコノミー症候群など、さまざまな問題が生じていますが、前震および翌日の本震が発生した直後には、「とにかく、屋根のある環境で安心したい」とお考えになる方が圧倒的に多かったものと思われます。5年前の東日本大震災のときも、そうした被災者の方の一時受け入れ場所としてシェアハウスが名乗りを上げたことが話題になりましたが、今回の熊本地震でも、被災者支援に乗り出したシェアハウスがあります。しかも、前回はあくまで個別のハウス単位での動きでしたが、今回は、当コラムでも以前ご紹介した民泊サービス「Airbnb」が、前震の発生した翌日、4月15日には災害支援専用の特設ページ( https://www.airbnb.jp/disaster-response )を開設して情報を発信し、4月20日までの無料宿泊が可能な部屋を写真付きで紹介しています。Airbnbでは2013年から災害緊急支援を行っており、災害が発生すると被災地を対象に緊急災援活動のツールを始動し、被災地のホスト(宿泊所を提供する側)に自動メールを送って、援助が可能かどうかを打診。被災地では全予約が手数料無料となり、ホストは通常通りのサポートを受けられるということで、宿泊先を探す被災者と、無料で部屋を提供する人のマッチングを行っているわけです。現実問題として、これがどこまで被災地にとって効果的な支援となっているかはわかりませんが、誰かを助けたいと思う気持ちはどんな人間も持っています。シェアハウス大家さんとしては、被災地以外の方も含め、このような形の社会貢献のあり方は参考になる点が少なくないと思われます。

さて、当コラムもいつの間にか連載5年目を迎えました。旧コラム時代から計算すれば8年目となり、一時期世間を騒がせた「脱法ハウス問題」とその後の「寄宿舎ルール」騒動、規制緩和と量的拡大の末に、シェアハウスという“新たな住まい方”も、今ではすっかり定着した感があります。にもかかわらず――最近のシェアハウスに関する報道を見ると、とっくの昔に淘汰されていたはずの問題が未だに尾を引いているかのような論調を見かけることがあります。特に、センセーショナルなゴシップ記事を売り物にする週刊誌系の雑誌では、そのような読み物が多いように思われます。たとえば、『週刊SPA!』のWeb版である「日刊SPA!」が2016年4月29日付で掲載した、次のような見出しの記事がその典型的な例でしょう。
「住民トラブルが絶え間ない、シェアハウス経営者の苦悩。盗難事件や女性の部屋の壁に穴が…」( http://nikkan-spa.jp/1100493 )この見出しだけでも記事内容は推して知るべしですが、敢えて少し引用してみましょう。
「(前略)都内で4人が共同生活するシェアハウスの経営に携わる佐藤さん(仮名・30歳・男性)はこう語る。
『うちの場合はお金がないからシェアハウスを借りる人が多いので、家賃を通常の賃貸よりもかなり安めに設定しているんですが、その割には手間ばかりかかります。いちばん厄介なのが盗難。居住者から、「財布からお金がなくなった」という相談があり、調査をしましたが犯人はわからずじまい。4人の居住者がいたので、相談者からは「ほかの3人の誰かが犯人だから早くとり返してくれ」と迫られたのですが、証拠もなく調査などできるわけもありません。結局、私と居住者の間でしこりだけが残ってしまいました』
この事件をきっかけに監視カメラを設置する案も出たのだが、費用と手間を考えると実現は難しいとのこと。鍵の閉められるロッカーはあるので、自己管理の徹底をうながすことしかできていないという。
(中略)
佐藤氏は『儲けたいのなら、シェアハウス経営はおすすめしない』と苦笑する」。

これなどは、当事者自身の言葉として最後のセリフを言いたいがための、いわば「初めに結論ありき」で書かれたことが容易に想像できますが……同記事ではさらに、別のハウスの取材として次のような事例を紹介しています。
「(前略)なかには女性の住人にとって身の危険をもたらしかねない深刻なトラブルもあるという。
『女性から、「毎晩、隣の男性に壁をドンドン叩かれるからなんとかしてほしい」という相談がありました。でも、その男性に聞いても「身に覚えがない」というばかり。でも、男性の退去後、壁から直径4cmの穴が見つかりました。本人は、「引っ越しの際に、物が当たった」と言っていましたが、本当でしょうか……』
 このように、住民間のトラブルの苦情は絶え間ないそうだが、強制的に追い出すこともできず、和解させようとしてもうまくいかない。以前は、シェアハウスの入居希望者はみんな受けいれていたが、あまりにもトラブルが多いので人数を絞っているという。
 どうやらシェアハウス経営の苦労は、シェアできないようだ。 <取材・文/日刊SPA!取材班>」
ここまで読めば、けっきょく、この「オチ」をつけることがこの記事を書いた目的だったということがよくわかります。「取材班」と署名していますが、十中八、九、たった1人のライターの書いた記事でしょう。ことによると、取材自体が担当編集者の「脳内取材」だった可能性さえあります。仮に本当に取材をしていたとしても、東京都内だけで1000軒以上は存在するシェアハウスのうち、取材したのはせいぜい2〜3軒というところでしょう(実際には、それすらも怪しいものですが……)。仮に、取材を受けた側が「ハウス経営は順調だ。何の問題もない」と回答した場合、都合が悪いので、記事中では一切触れていない……ということも考えられます。

その一方で、こんな記事も紹介されています。こちらは、2016年4月23日付で『東洋経済』のWeb版である「東洋経済オンライン」に掲載されたものですが、記事作成はリクルートの不動産情報サイト「SUUMOジャーナル」によるもので、前出の記事とは比較にならないほどマジメな内容になっています。タイトルは「知られざる『シニア版シェアハウス』のリアル 北欧などでは多いグループリビング」( http://toyokeizai.net/articles/-/114940 )。こちらも、タイトルからおおよその内容は想像がつきますが、導入部分だけ引用してみましょう。
「“グループホーム”(認知症高齢者や障害者向けの共同生活施設)は知っている人も多いが、“グループリビング”についてはあまり知られていない。まだ介護を必要としない元気な高齢者が6〜9人集まって共同生活する住まい方。旧厚生省が1996年からモデル事業も実施してきたが、近年はサービス付き高齢者向け住宅の供給が主流になっているので身近に見かけない。北欧などでは多いようで私も気になっていたグループリビング。今回初めて訪問し、実践者にお話を聞くことができた(後略)」
ということで、この後は実際の高齢者向けシェアハウスの事例紹介になります。当コラムでも、以前別の高齢者向けハウスの事例を取り上げたことがありましたが、そのときは当事者の発信したニュースリリースという形での紹介でした。中立的な第三者による取材という形では、上記引用にもあるように「今回初めて」目にするという方も多いのではないでしょうか?

なお、ほぼ同時期に、同じテーマで、次にご紹介する記事も発表されています。これは「朝日新聞デジタル」が2016年4月12日付で掲載した記事です。
「老いていく埼玉 高齢者の『シェアハウス』も登場」( http://www.asahi.com/articles/ASJ4D2GJFJ4DUBQU00J.html
「(前略)2025年、「団塊」が会社を退職し終えると、埼玉県は3大都市圏の中でも群を抜くペースで75歳以上が増加する。10年と比べて、75歳以上は倍の117万7千人になる――。埼玉の「老いる将来」の予測は、「2025年問題」と呼ばれるようになった。
(中略)
 新座市にある『グループリビングえんの森』。2011年9月にできた木造2階建て住宅で、65〜91歳の女性8人が共同生活を送る。いわば、高齢者の『シェアハウス』だ。
(中略)
 昨年、高齢夫婦のみの世帯が2割に達した埼玉県。親子二〜三世代を基本とした家族形態が大きく姿を変え、公的サービスだけで生活を維持できるか。高齢期を迎えた個人が助け合いながら一つ屋根の下で暮らす『グループリビング』のように、新しい形態の住まいの模索が広がりつつある。(中略)
 暮らしネット・えんの代表理事、小島美里さん(64)の言葉が印象的だった。『グループリビングは、高齢期の住まいを考える実験場なんです』(後略)」
このふたつの記事が、ほとんど同じタイミングで書かれているのは偶然なのでしょうが、少なくとも「日刊SPA!」の記事とは違い、これらはきちんとした取材に基づいて書かれていることは間違いないでしょう。

無論、こうした高齢者向けハウスや、冒頭でご紹介した被災者支援の取り組みなどは、シェアハウスというビジネス全体の中のほんの一部に過ぎません。すべてのシェアハウス大家さんにできることでもありませんし、またする必要もないでしょう。ただ、どのような形を取るにせよ、社会貢献への取り組みについてはシェアハウス大家さん一人ひとりが真剣に考えていかなければならないと思いますし、そうすることでこそ、「日刊SPA!」の記事のような、敢えていえば「悪意ある誤解と偏見」をなくすことにもつながっていくのではないでしょうか。
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