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第47回 空き家問題とシェアハウスその3

5月26・27日に開催された伊勢志摩サミットの直後、6月1日夕方に行われた記者会見で、安倍首相は先の衆院選での公約だった2017年4月の消費税率10%への引き上げ予定を、2019年10月まで2年半先送りするとの考えを表明しました。そもそも、当初の予定では2015年10月だったのですから、なんとまるまる4年間も先送りとなっているわけです。安倍首相はこの理由について「内需を腰折れさせかねない消費税増税は延期すべきと判断した」と説明していますが、今夏の参院選対策だということは子どもにもわかります。あからさま過ぎて、いっそ「お見事」と言いたいくらいの手のひら返しですが、かといって、鬼の首でも取ったかのように「アベノミクス失敗」を主張する野党勢力に期待できるわけもなく……新たに選挙権を与えられることになった18歳以上の若者たちも、今からすでにゲンナリしていることでしょう。

さて、当コラムでもたびたび取り上げてきた「空き家問題」ですが、去る5月28日の毎日新聞に興味深い記事が掲載されていました。「空き家転用 国交省、豊島区の条例案に『待った』」( http://mainichi.jp/articles/20160528/k00/00e/040/253000c )と題する記事で、お読みになった方も多いことと思われますが、新聞記事は公開期間が短いので、念の為全文引用しておきましょう。
「深刻化する空き家問題の対策として、東京都豊島区が若者のシェアハウスや高齢者のグループホームに活用する条例案を策定したが、建築基準法にない新しい運用に国土交通省が難色を示し、頓挫していることがわかった。同種の条例を大都市部に適用するのは全国で初めてで、スラム化を防ぐ切り札だっただけに、豊島区は苦慮している。
 区内の空き家率は東京都で最も多い15.8%ある。犯罪の温床となり地震で他の建物に被害を及ぼす恐れもあるため、転用を考えた。
 転用する場合、空き家は建築基準法上『寄宿舎』とされ防火や間取りに特別の措置が必要となる。豊島区は延べ面積150平方メートル・2階建て以下の戸建て民家について、▽火災報知機設置▽2方向の避難路確保▽障害を持つ入居者への配慮 などを条件に、寄宿舎でなく一般住宅とみなし使用を認める条例案を準備した。低所得者を集めて無届けで運営する業者の参入を防ぐため、認定制度を導入。所有者と運営者の安全確保への責務も明確にし、立ち入り調査権で悪用を防ぐ。
 愛知県は2014年から要綱で、権限のある人口25万人未満の地域で、避難路確保などを条件に空き家を障害者グループホームに転用することを認めた。豊島区の条例案は大都市では初で、不足する高齢者グループホームも増やすはずだった。
 だが区が今年3月に国交省に条例案を打診したところ、建築基準法の事実上の緩和策に『法を超える部分がある』と疑義が示され、区は条例案の今秋の区議会提出を見合わせた。園田香次建築課長は『空き家の実態調査もやり直して、長い時間をかけ条例案を検討する』と話す。
 国交省建築指導課は『空き家対策を一歩進めるのはいいが、何でも認めるわけにはいかない。後で法的疑義が生じないようにすべきだ』としている。
 建築基準法上、人口25万人以上の豊島区には独自に建築確認できる法的権限がある。空き家問題に詳しい米山秀隆・富士通総研上席主任研究員は『本来は自治体の権限でできるはず。国交省は全国のバランスも考えたのだろうが、一律な対応は問題で、個別に空き家活用を認めるべきだ』と話す」(毎日新聞2016年5月28日 15時00分更新)

毎日新聞といえば、当コラムでもたびたび指摘しているように、あの「脱法ハウス問題」の火付け人であり、同紙の展開したシェアハウスへのネガティヴキャンペーンが国交省の「寄宿舎ルール」策定の一因になったともいわれています。その毎日新聞が、「国交省は頭が固い。もっと融通を利かせろ」と紙面で主張するのは、何やら皮肉な気もしますが……。ただし、今回に関しては、至極もっともな主張だと思います。なにしろ豊島区といえば、先だっての区役所新庁舎計画(49階建ての10階以上を住居として販売、旧庁舎跡地を定期借家で賃貸し、再開発事業で国から補助金を受けるなど、実質税金投入ゼロ円で建築費用を捻出)を成功させたほどの不動産運用巧者。今回の条例案にせよ、実現すれば一定以上の成果は見込まれているだけに、国の融通の利かない対応にも腹が立ちますが、「長い時間をかけて条例案を検討」などと悠長なことを言っている区の弱腰にも、何とも歯がゆいものを感じてしまいます。

一方、空き家問題と縁の深いリフォーム産業の業界紙を発行するリフォーム産業新聞社からは、これまた興味深い調査結果が報告されています。同社が5月に発刊した「空き家市場データブック2016」の中で、戸建て空き家の潜在市場規模の推計を行ったところ、じつに9兆601億円という数字が算出されたそうです。同社のプレスリリース( http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000011345.html )によると、この数字は「平成25年住宅・土地統計調査における居住世帯のない住宅総数から建築中の住宅を引いた308万7600戸の一戸建て住宅を対象に、国土交通省『平成26年空家実態調査』の空き家所有者(調査時点)の利用意向の割合に応じて、潜在需要戸数に換算。1件当たりの平均単価を掛け合わせて潜在市場規模を算出した。そのため、空き家の建築時期や状態、立地などは考慮に入れていない。なお、建替え(アパート・ビル)、解体後に更地となった土地の売却は算出の対象外とした。また、賃貸には仲介手数料や敷金、礼金等は含めていない、賃貸と管理委託は月額の平均費用を1年に換算し潜在需要戸数に掛け合わせて算出している」とのこと。こうして細かく読んでいくと、けっこう穴だらけで、大雑把な推計に思えてきますが、何といっても「9兆601億円」という数字のインパクトは絶大で、さらに分野別の市場規模の内訳や、空き家市場・空き家所有者の動向紹介、事業者や行政の取り組み事例、専門家に対するインタビュー、都道府県ごとの空き家に関する統計データや補助金・助成金情報なども掲載されているとのことです。シェアハウス大家さんが読んでも、何かの参考になるかもしれません。

もう一つ、空き家問題の新たな対策の一つとなる可能性が期待されている「民泊サービス」に関しても動きがありました。同サービスについては当コラムでも再三取り上げてきましたが、厚生労働省および観光庁が音頭を取り、「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」が昨年11月から開催されています。6月10日に開催された通算第12回目となる同検討会では、事務局から規制改革を踏まえ「新たな制度枠組み(案)」が提示されました。詳細は、規制改革実施計画について( http://www.mlit.go.jp/common/001134464.pdf )および、民泊サービスの制度設計について( http://www.mlit.go.jp/common/001134495.pdf )などの資料にわかりやすくまとめられていますが、要するに、民泊サービス実施が認められるために物件が満たすべき「一定の要件」の策定、民泊実施者の行政庁への届出義務化・管理者の登録義務化および違反者に対する処分と罰則、それと既存の旅館業法の改正案などが主な内容となります。同検討会では、この新たな制度枠組み案に対して、構成員からもさまざまな意見・要望・提案が出されており、それらを踏まえて次回検討会で最終報告書(案)を提示し、6月中に最終報告書を公表する予定となっています。

空き家問題対策にせよ、民泊サービスにせよ、全体としては規制緩和の方向に進んでおり、将来的に法制化されれば、シェアハウス業界にも直接的な影響を及ぼすことは間違いありません。法制化されたとしても一定の猶予期間は与えられるでしょうが、今のうちにある程度の見通しを立てておいた方が、いざ実施されたときにスムーズに対応できると思います。
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