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第53回 差別化戦略とシェアハウス

関東在住の人間にはいささかピンとこないニュースかもしれませんが――2月11日、西日本の日本海側では山陰地方を中心に記録的な寒波による豪雪に見舞われました。鳥取県では平年の10倍近い90cmを超える積雪が観測され、雪による事故や立ち往生などが続発、死亡事故も起こっています。東京を中心とした関東地方ではこの冬、11月に初雪を観測したものの、その後は今のところおだやかな天候が続いていますが……暦の上では立春を過ぎても、まだまだ冬の寒さはこれからが本番。東京でも近年は、3月下旬から4月上旬にかけての「春の雪」がしばしば観測されています。この先も急な寒気や降雪があるかもしれませんので注意が必要です。

さて、当コラムでは何年も前から大手企業のシェアハウス事業参入をお伝えしてきましたが、2月13日付の『全国賃貸住宅新聞』では「管理大手がシェアハウス運営に本腰」と題する記事が掲載されました。同記事中では、「入居者コミュニティ形成スキルの向上図る」との小見出しに続いて、「入居者コミュニティの形成が賃貸住宅運営で注目される中、シェアハウス事業に大手が本腰を入れ始めた」と解説しています。事例として紹介されているのは、名古屋に本社を置く某建設会社と、新宿区に本社を置く某住宅メーカーの大手2社。前者はアクティブシニア向け、後者は女性専用のブランドとして立ち上げ、いずれも第1号物件に関しては自社所有とする方針だといいます。ちなみに、記事タイトルになっている「管理大手」というのは、どうやらこの2社のことではなく、その後に出てくる千代田区に本社を構える某メンテナンス会社のことのようです。この会社は学生寮や社員寮の運営で多くの実績を持ち、4月に首都圏で2棟計120室規模のシェアハウスを開設するとのこと。共通の趣味を持つ入居者をターゲットにした、いわゆる「コンセプト型」のシェアハウスで、それぞれ“自転車”と“アウトドア”をコンセプトにしているといいます。これらの事例を紹介しつつ、同記事は次のように締めくくられています。
「水回りやリビングなどが共用のシェアハウスの担い手は、機敏性のある中小零細企業が主役だった。しかし大手企業は、ブランド力によってオーナーや入居者に安心感を与えることができるため、シェハウス市場に開拓の余地を感じている側面もあるようだ。」(全国賃貸住宅新聞 2017年02月13日|企業)
専門家の分析にしてはいささか平凡で、当たり前すぎる結論のようにも思えますが、引っかかるのは「〜中小零細企業が主役だった。しかし大手企業は〜」という部分。この書き方からすると、少なくともこの記事を書いた記者の頭の中には、「これまではいざ知らず、これからは(シェアハウスビジネスの主役は)大手企業だ」という予測があることは容易に推察できます。この予測が当たっているかどうかはさておき――これまで試験的にシェアハウスの可能性を手さぐりしてきた大手企業のうち、「行ける」という手ごたえを掴んだ何社かは、いよいよ本腰を入れてきたことは間違いないようです。

ところで、前出の事例にも出てくる「コンセプト型」シェアハウスですが、最近は以前に比べて、よく言えば「個性的な」――悪く言えばいささか「突飛な」コンセプトを掲げているところも少なくありません。一例を挙げると、「芸能人を目指す女性専用シェアハウス」などというものもあるようです。これは、もともと都内および神奈川県内で女性専用のシェアハウスを複数運営している事業者が、芸能人になるためのオーディションサイトの運営会社とコラボしたものだそうで、その発想の柔軟さには頭の下がる思いがいたします。なお、これも前回のコラムで取り上げた「経験や人脈をシェアできる『起業家シェアハウス』」と同じく、いわゆる記事広告(タイアップ広告?)のようなのですが……前回といい今回といい、同じように中堅どころのシェアハウス運営事業者が、このような集客手段を取っているのは何故でしょうか? 一つには、従来のインターネット募集・口コミ・紹介といったやり方では集客が不十分になってきているのではないか、と考えられます。さらにその理由を突き詰めて考えていくと、需要と供給のバランスが崩れている……需要が落ち込んでいるのか、供給過多になっているのか、あるいはその両方なのかもしれませんが、いずれにせよ、稼動率の低下・空室期間の長期化に悩むシェアハウスが増えてきているようなのです。だからこそ、シェアハウス運営事業者の間では今、必死に差別化を図る動きが目につきます。

たとえば――渋谷区のある事業者では、今年1月から同社の運営するシェアハウス検索サイトの新サービスとして、対面式でシェアハウスの相談に応える「来店サービス」を開始しました。
また、別の渋谷区の会社では、1月末から新たに民泊の仲介サイトを立ち上げましたが、これは仮想現実(VR)の技術を活用してサイト上で360度を見渡して物件の中を内覧できるというものだといいます。古民家などの日本らしい物件を外国人にも一目で分かるようにするのが目的だそうです。
2月に入り、こうしたシェアハウス関連のニュースや広告がやたらと目につくようになりました。これはもちろん、年度替わりの4月を控え、これから進学や就職で新生活を始める人が多い時期だからという季節要因もあるでしょうが――このことは同時に、新生活の場として「シェアハウスに住む」という選択肢が、広く一般に認知されたことの証明でもあります。だからこそ、大手資本も本格的に市場へ参入してくるわけですし、それに対抗して、既存の中堅事業者たちもさまざまな工夫を凝らした集客戦略で差別化を図っているわけです。このような厳しい状況下で、個人のシェアハウス大家さんや零細事業者がこれまで通りの経営を続けていたらどうなるでしょうか。今の入居者が住んでくれている間は変えなくてもいいかもしれませんが、2年後は、3年後は……? 今のうちに、先々のことを考えておく必要がありそうです。

その一方で、2月10日付の『新潟日報』には、新潟市内に「福島県からの避難者(女性・母子世帯)向け」のシェアハウスがオープンしたという記事( http://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20170210306781.html )が掲載されていました。6年前の東日本大震災では、東京電力福島第一原発事故から逃れるため、福島県から自主的に避難した人々が大勢いました。新潟県内には現在もこうした避難者が少なくないそうですが、自主避難者への住宅の無償提供は今年3月末で終了することになっています。これを受けて、地元のNPO法人が管理運営するとのことです。ただし、彼らは本来「若者の就労支援」などを手がけるNPO法人であり、シェアハウス運営に関してはずぶの素人。そこで、地元の不動産業者の協力を得ることにし、家賃を抑えるとともに、入居期限も設けないことになったそうです。これなどはいささか特殊なケースかもしれませんが、シェアハウスという居住形態の融通性、汎用性を存分に活かした新たな運用方法のひとつと見ることもできます。その意味では、シェアハウス運営者の側から見れば、これもまた立派な差別化戦略になり得ているのではないでしょうか。
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