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第54回 地価公示とシェアハウス2017

あの東日本大震災と福島第一原発事故から早くも6年が経過しました。被災地では、福島県内の4町村で4月1日までに避難指示が解除されるなど、復興が進んでいるところも見られる一方で、現在もなお、不自由な仮設住宅暮らしを強いられている人は被災3県合計で3万3854人(2017年2月末現在)に上るといわれています。時間が経つほどに人の記憶が風化していくのは仕方のないことですが、「悲しい記憶を忘れる」ことと「悲劇の教訓を活かす」ことはまったく違うはず。大災害の教訓は常に心に刻んでおきたいものです。

さて、国土交通省は3月21日、毎年恒例の「平成29年地価公示」( http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/2017/index.html )を発表しました。すでに多くの方がご覧になっていると思われますが、地価変動率は、昨年度の「全用途・全国平均が前年比上昇」に続いて、今年度はついに「住宅地・全国平均が前年比横ばい」となり、住宅地の地価変動率はリーマンショック以来9年ぶりに前年比下落のスパイラルを脱しました。三大都市圏では上昇基調が顕著で、とりわけ東京圏では住宅地・商業地・工業地のすべてで4年連続の上昇となっています。国交省・地価公示室の分析によると、「全国的に雇用情勢の改善が続く中、住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支え効果もあって、住宅地の地価は総じて底堅く推移しており、上昇の継続又は下落幅の縮小が見られる」とのことで、商業地・工業地まで含めて全国的にあらゆる用途において地価変動率は堅調に推移しているとまとめています。

これについての業界団体トップからのコメント( http://www.re-port.net/article/news/0000051343/ )も見て参りましょう。
まず、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会の伊藤博会長は、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の地価上昇に注目して「雇用情勢の改善、金融緩和や住宅ローン減税等を背景に、地価回復傾向が地方圏への着実な波及を示したことは歓迎したい」としつつも、「しかし一方で、地域間格差が鮮明になってきている点や、賃貸物件の新築着工戸数の増加に伴う既存物件の利回り低下による需要の先細りは懸念材料だ」としています。
また、(一社)不動産流通経営協会(FRK)の田中俊和理事長は「(前略)今回の地価公示は現場の相場観に近いのではないか。レインズの全物件の取引件数も高水準な状況で推移しており、消費者の『低金利で買い時』の声は強く、足元の流通市場は引き続き堅調だ」とのコメントで、今回の公示地価の上昇は市場の動きを反映した実体のあるものであることを保証しています。
これに対して、(公社)全日本不動産協会の原嶋和利理事長は、「地価上昇の機運が地方の都市部にまで浸透してきている」との見方を示し、今後は東京五輪を控えて国の施策する国土強靭化計画により首都圏を中心にさらなる地価の好転を期待する一方で、次のように苦言を呈しています。「(前略)我が国では、少子高齢化、人口減少の急速な進展、空き家の増加などの喫緊の課題に加えて、若年・子育て世代となるべき30代の所得の伸び悩みや貯蓄額の低下傾向がみとめられる」さらに、2019年10月に予定される消費税再増税の影響も懸念されるとしています。
地価公示が下げ止まりから反転上昇を示したここ2〜3年、業界団体の論調はおおむね楽観的な現状分析と将来予測が支配的でしたが、ここまで回復傾向が顕著になってくると、さすがに手放しで喜んでもいられないようです。
ところで――ここに引用した業界団体にせよ、大手不動産会社にせよ、本件についてのコメントを見ていく、何故か「米国トランプ政策の日本経済への影響」については誰一人として触れていない、という事実に気づかされます。これが年明け頃までなら、全員でなくても、何人かは必ず指摘していたはず。政権発足後、特に政策において重大な方針転換がなされたという話も聞かないのですが……。仮に、「もはや旬を過ぎた話題だから」というような理由でスルーされたのだとすれば、それはそれで怖しい気もします。

なお、上記のFRK・田中理事長のコメント内容に関連して、3月23日に(株)東京カンテイが発表した2017年2月の三大都市圏中古マンション70平米方換算価格の月別推移( https://www.kantei.ne.jp/report/c201702.pdf )によると、首都圏の中古マンション平均価格は3,583万円(前月比0.4%上昇)。近畿圏の平均価格は2,111万円(同0.1%上昇)、中部圏の平均価格は1,683万円(同0.8%上昇)と、いずれも直近3〜4ヶ月にわたって小幅ながら価格上昇傾向が続いているとのこと。調査対象は中古マンション限定ですが、田中理事長の言う「現場の相場観に近い」という見解が、身内のひいき目ではないことを裏づける傍証にはなるでしょう。

地価や不動産価格の上昇傾向は、中小・零細資本が大半を占めるシェアハウス事業者にとっては両刃の剣。保有物件の評価額が上昇するのは、固定資産税が増税となるデメリットよりも、むしろ資産価値(担保価値)の向上というメリットが大きく、これを担保に金融機関から新たな融資を引き出しやすくもなります。その反面、新規物件取得の場においては物件価格が高騰し、おいそれと手が出しにくくなります。前回の当コラムでも何社かの取り組みを紹介していますが、こうした苦しい環境の中にあって、あの手この手の工夫で活路を見出そうとするシェアハウス事業者は枚挙にいとまがありません。

たとえば、(一社)日本シェアハウス協会の会員である横浜市の某工務店は3月初旬、市内で放置されていた空き家を建て替え、「多世代・多文化共生型シェアハウス」として新築オープンしました。多目的室には健康器具や美容家電、キッチンには人気の高いバルミューダの家電などを備え、『建通新聞』などの業界紙でも取り上げられています。
また、これまでに50棟以上の女性専用シェアハウスを手がけてきた渋谷区のリノベーション・コーディネート事業会社は3月中旬、文京区の築45年の木造2階建て物件をシェアハウスとして再生しました。これはオーナー宅の隣で空き家状態にあり、有効活用の依頼を受けた同社が、間取りは既存のまま活かし、傷みのあった屋根を一部補修したほか、床材や設備、2階ベランダなどを一新して完成したとのことです。
さらに、以前当コラムで取り上げた「シェアハウス初のリゾートマンション」を仕掛けた中堅シェアハウス会社が先日、やはり横浜市内で「シェアハウス×トライアスロン」をコンセプトとした新しいシェアハウスをオープンしましたが、これまた業界初の試みと思われる「カラオケスナック付のシェアハウス」だとか。なんでも、アスリート向けのさまざまな設備がある共用エリアの奥にカラオケスナックがあり、カラオケマシンだけでなくビアサーバーやミラーボールなども揃っているそうです。

前回のテーマとも重なりますが、このように知恵と工夫を絞って新しいコンセプトを生み出したり、空き家のリフォームや建て替えなどに取り組んだりしているのも、それだけシェアハウス事業者が各社とも集客に悩み、差別化に活路を見出そうとあがいているからだと推測されます。その飽くなきチャレンジ精神には心から敬意を表しますが――たとえ、どんなに奇抜なコンセプトを次々に考え出していっても、最初のインパクトが薄れれば集客効果は失われてしまうでしょう。いたずらに奇を衒うより、集客の基本に立ち返ること。シェアハウスもそろそろ、そういう時期に来ているのかもしれません。
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