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第55回 貧困とシェアハウス

4月30日に更新された「All About」マネープランの記事によれば、「50代の平均貯蓄額は1128万円、中央値は500万円」だといいます。ちなみに、27日の更新記事によると「40代の平均貯蓄額は588万円、中央値は200万円」だそうです。ここで問題になるのは、もちろん「平均」ではなく「中央値」。これは、「多い順、または少ない順に並べたときの真ん中にあたる額」のことで、つまりは一番数の多い層を指しています。このデータは、金融広報中央委員会が毎年実施している「家計の金融行動に関する世論調査2016(2人以上世帯調査)」( https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/yoron/futari/2016/pdf/yoronf16.pdf )によるものですが、よもや40代で200万円、50代で500万円の貯蓄しか持たない世帯が一番多いという結果になるとは……。日本人の貧困化の進行は、思っていた以上に深刻なようです。

「日本人の貧困化」といえば、(時期的には偶然でしょうが)翌5月1日にはダイヤモンド社が提供するビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン(DOL)」にこんなタイトルの記事が掲載されました。
「シェアハウスから足を洗えない!貧困にあえぐ若者の劣悪住宅事情」( http://diamond.jp/articles/-/126439 )。正直、このタイトルだけ見れば、読むまでもなく内容は想像がつきそうなものですが、一応、部分的に抜粋してみましょう。
「一軒家やマンションの一室を複数人で共有して暮らす『シェアハウス』。リアリティ番組『テラスハウス』(フジテレビ/2012年〜)の影響もあり、『シェアハウス=オシャレ物件』というイメージを抱いている人も多いだろう。しかし実際には、経済的な理由からやむを得ず選択し、その生活から抜け出せない“シェアハウス難民”もいるという。
(中略)
『本当はアパートに引っ越したいけど、初期費用が払えないからシェアハウスに住み続けるしかない』と語るのは、都内のデザイン会社に勤務するAさん(27歳・女性)。(中略)
 Aさんの月々の手取りは13万円程度。そこから、シェアハウスの家賃光熱費、奨学金の返済、通信費などを支払うと毎月3万円しか手元に残らない。これでは引っ越し資金など貯められるはずもない。
(中略)
『最初は高円寺の古い一軒家を改築したシェアハウスに入居しましたが、物件の取り壊しが決まり退去させられました。次に住んだのが、都心部にある初期費用ゼロの物件。家賃光熱費合わせて5万円ポッキリでしたが、なぜか私以外の住居者が全員中国人でした。しかも、壁紙がめくれていたので何気なく剥がしてみると、壁一面カビまみれだったんです。その後、せきが止まらなくなったので、再度引っ越す羽目になりました』
(中略)
 現在は、郊外のシェアハウスに住んでいるというAさん。稀に住人同士のトラブルや喧嘩に巻き込まれることはあるが、今の暮らしには概ね満足しているという。ただ、『三十路までには普通のアパート暮らしに戻りたい』というのが本音だ。(後略)」
このAさんの事例を紹介した後、同記事は「首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター特任研究員の小田川華子氏」によるコメントになりますが、小田川氏はその専攻分野もあって、「シェアハウス居住者=貧困層」という“決めつけ”がいささか強すぎるようにも思えます。たとえば、「雇用が安定せず、アパートの初期費用や引っ越し代を払う余裕のない単身者が、初期費用の安いシェアハウスを選択するのは自然な流れ」「事情があって親を頼れない、もしくは実家が職場から遠いという人はシェアハウスに住み続けるしかありません」「『若いうちはシェアハウスでも仕方がない』という考え方の人もいますが、それが一時の状態では済まなくなってきているのが問題」「6畳の部屋に2段ベットを2〜3つ搬入して複数人住まわせている物件や、部屋内に窓がひとつもない物件など、明らかに建築基準法に反しているシェアハウスも存在します」これらはすべて同記事中にある小田川氏の発言ですが、人々がシェアハウスという住まい方を選ぶ理由として「経済的な理由」のことしか考慮していないことが窺われます。先の事例のAさんの個人的事情にせよ、Aさんの入居したシェアハウスにせよ、事実は事実としてその通りなのかもしれませんが、やや「結論ありき」の一面的な捉え方のように思えてなりません。「27歳で手取り月収13万円の職場、都内在住」というAさんのスペックを考えても、シェアハウスという居住環境以外の要素について見直す余地はありそうですし……。
同記事を書いたのは、歌舞伎町にある編集プロダクション「清談社」に所属する(?)松原麻依氏というライターですが、上記引用中にもある“シェアハウス難民”という言葉をはじめ、「圧倒的に初期費用が安い」「窓がないような(中略)建築基準法を無視した『脱法シェアハウス』」「劣悪な住環境の割には月々の家賃が高額」等々、地の文(小田川氏やAさんの発言以外の部分)の端々からシェアハウスに対する悪意と偏見が感じられます。記事の冒頭で「テラスハウス」の番組名を挙げていることからも想像できますが、おそらく松原氏はシェアハウスについてあまり知識のない人なのでしょう。

いっぽう、当コラムでもたびたび指摘してきましたが、朝日新聞系列のメディアでは、シェアハウスに対して比較的前向きな捉え方・書き方をしているケースが目立ちます。
例えば、朝日新聞社のニュースサイトである「朝日新聞デジタル」では、しばしばシェアハウス関連のニュースが取り上げられていますが、4月23日更新の「東京)LGBTの孤立防ごう 都内でシェアハウス次々」( http://www.asahi.com/articles/ASK4K3QLYK4KUULB001.html )という記事では、いわゆる性的少数者(LGBT)とその理解者たちが一緒に生活できるシェアハウスが、都内の足立区・世田谷区で相次いで開設されている状況を伝えています。足立区のハウスは、港区の不動産会社が建設し、世田谷区のLGBT支援会社が運営をサポートしているもので、シェアハウスには珍しい新築一戸建ての物件だといいます。また、世田谷区のハウスは、渋谷区の認定NPO法人が手がけ、新宿区の不動産会社が協力しで、空き家となった友人の家を提供した物件だと言います。これらの関係者の言葉として「『高齢になったLGBTが老人ホームで肩身の狭い思いをしている』という話を耳にしたのが(シェアハウス開設の)きっかけ」「LGBTにはコミュニケーションが得意でなく、当たり前の生活からも取り残されている人がいる。シェアハウスという場を作って、まずは孤立を防ぎたい」などの発言が紹介されており、彼らの取り組みの意図だけでなく、その手段であるシェアハウスに対しても肯定的・好意的に評価しているようです。

この「朝日新聞デジタル」では、4月29日更新の「愛媛)移住・定住を呼び込もう 県内で取り組み広がる」( http://www.asahi.com/articles/ASK4L72C4K4LPFIB00Y.html )という記事の中にも、愛媛県東温市の「地域おこし協力隊」隊員となった女性グラフィックデザイナーのエピソードとして「将来の夢は、音楽や芸術活動をする人を集めたアーティストシェアハウスの運営だ。『アーティストが自分の活動をしながら生活できる仕組みを、東温市でつくりたい』と話す。」という一節があります。これなどは具体的な事例ですらなく、個人的な「将来の夢」を語っているだけなのですが、そこに描かれた未来予想図に対して好意的であることが伝わってきます。
さらに、4月26日更新の「『空家を利用した、ペット共生シェアハウス』完成見学会 〜特定空家寸前の家が、稼ぎ頭に大変身〜」( http://www.asahi.com/and_M/information/pressrelease/Cdpress000151697.html )という文章(これは朝日新聞デジタルの取材記事ではなく、プレスリリース配信代行サービス『ドリームニュース』の配信したプレスリリースですが)でも、「空き家をフルリノベーションし、ペット共生シェアハウスに転用した」埼玉県和光市の物件が紹介されています。

ちなみに、上記した「LGBT支援シェアハウス」は、世田谷区の物件が同NPO法人にとって2棟目。「ペット共生シェアハウス」の方は、和光市の物件で同事業者としては12棟101室になるそうです。つまり、一度あるコンセプトを打ち出したら(なおかつ、それに一定の成功を収めたのであれば)、それを強みとしてとことん掘り下げ、専門性を高めていくことも、差別化戦略の上である程度有効だと考えられます。ただし、その有効性も永続的なものとは限りませんから、シェアハウス大家さんとしては常に一歩引いて自己客観視できる心のゆとりを持つことも大切です。
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