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第57回 自立支援とシェアハウス

7月19日、気象庁より中・四国から関東甲信越地方にかけての各地で梅雨明けが発表されました。今年は、九州北部で多くの犠牲者を出した記録的な豪雨があった一方で、関東地方は例年にないカラ梅雨。7月5日〜22日までの18日連続で最高気温30℃以上の真夏日となりました(23日を挟んで、24日からまた30℃超えの日が続いています)。ちなみに、梅雨明け前の7月10日〜16日の1週間に全国の熱中症搬送人数は7,680人(速報値)に達しており、梅雨明け直後の20日には広島県で21歳の男性が屋根修理中に熱中症を発症して亡くなっています。さらに、22日未明から24日にかけて、秋田県を中心とする東北・北陸地方で記録的な大雨となっており、各地で甚大な被害をもたらしています。全国的に異常気象が続く中、7月25日現在、日本列島周辺では台風5号から8号まで4つの台風がほぼ同時に発生しており、今後これらの接近に備えて、引き続き十分な警戒が必要です。

さて、以前当コラムでご紹介した「LGBT支援シェアハウス」をはじめ、シェアハウスを通してさまざまな取り組みを公正に(かつ肯定的に)発信しているメディアのひとつに、「朝日新聞」のニュースサイトである「朝日新聞デジタル」があります。7月17日更新の同サイトに、「知的障害者、住まいをシェア 自立生活、障害のない人とともに」( http://digital.asahi.com/articles/DA3S13041103.html?rm=150 )という記事が掲載されました。例によって、抜粋しつつご紹介しましょう。
「(前略)東京都大田区の住宅街に『トランジットヤード』という名の一軒家がある。
 1階はイベントスログイン前の続きペース。2、3階がシェアハウスで居室が各階に一つずつあり、キッチンと浴室は共同だ。今は男性2人が暮らし、その1人が3階で暮らす知的障害のある福井元揮(げんき)さん(24)。みんなから『げんちゃん』と呼ばれている。
(中略)
 親元を離れるきっかけは4年ほど前。『私に何かあった時、元揮を受け入れてくれる施設はあるのかな』。母親の恵さん(55)の不安を知った介護事業所を運営するNPO法人『風雷社中(ふうらいしゃちゅう)』理事長の中村和利さん(50)が、元揮さんの一人暮らしを提案した。
(中略)
 初めは、様子を見に来る恵さんが帰ろうとすると後追いすることもあったが、今では笑顔で『バイバイ』。ヘルパーと買い物に行き好みの食品を選び、散歩や映画館に出かけ、1階のイベントスペースでの音楽ライブでは地域の人たちと手拍子を鳴らす。
 2年前から元揮さんと『同居』するフォトジャーナリストの柴田大輔さん(37)は、知的障害者との接点はそれまでなかったが、家賃の安さと、『色んな人と暮らすのも面白そう』という好奇心から入居した。
 初めはどう接すればいいか戸惑ったが、共同キッチンで顔を合わせ、『おはよう』と声をかければ笑顔が生まれ、食事の時間が重なれば食卓を共に囲んだりテレビを見たり。今では『げんちゃんは特別な人ではなく、よく顔を合わせるお隣さん』。元揮さんとの出会いをきっかけに福祉に興味を抱き、ガイドヘルパーとして障害者支援に携わるようになった。
(中略)
東京都渋谷区の『ぱれっとの家 いこっと』も、知的障害のある人とない人が暮らすシェアハウスだ。
 NPO法人『ぱれっと』が運営・管理。3階建てで6畳ほどの居室が八つ。共用の居間、キッチンなどもあり家賃は6万円代。障害がある人は身の回りのことを自分ででき、働いていることが入居条件だ。7年前に建てられ、これまで20〜60代の計23人が入居し、知的障害者は8人、障害のない人は15人。入居理由について、障害者は『親が高齢になり自立に向けて』『グループホームが見つからなかった』、障害がない人は『仕事先に近い』『上京にあたり、生活が落ち着くまでの居住先』といった点をあげる。
 現在は男女計4人が暮らし、知的障害があるのは男性2人。その1人、会社員車和則さん(57)は『初めは不安だったが、(障害のない人が)料理や掃除の仕方を教えてくれ、食事会をすることもあり楽しんでいます』。
 学生時代から障害者支援に携わっていた会社員黒澤友貴さん(28)は2011年から2年間、障害のない入居者として『いこっと』で暮らした。黒澤さんはその経験を生かし、入居者の相談に乗っている。『普段から顔を合わせ、気持ちを伝え合う関係を作ることが大事』と話す。(森本美紀)
(後略)」

上記の「トランジットヤード」にせよ「いこっと」にせよ、いわゆる“健常者”(森本記者は記事中、この言葉を意図的に避けていたようですが)と知的障害者とが共同で暮らしているものの、前者が一方的に後者を世話するといった関係性ではなく、あくまで“親しい隣人”として必要とあれば手を貸すという関係性に徹している点に特徴があります。その意味で、これまで当コラムで取り上げてきた「高齢者向けシェアハウス」や「LGBT支援シェアハウス」などと同様、これらの場所は何よりも大前提として「見知らぬ他人同士がひとつ屋根の下で暮らすシェアハウス」であり、決して「特定の層を受け入れ対象とする専門施設」というわけではない――ということが言えると思います。従って、建物のオーナーであるシェアハウス大家さん自身が公的資格や専門知識などを持ち合わせていない場合、ハウスの管理・運営については全面的にNPO法人などに委託する必要があるでしょう。とはいえ、「不動産の取得・保有」と「集合住宅の管理・運営」とに分けて、それぞれを専門家が担当する――というのは、不動産経営の世界ではもともとなじみの深いものですから、シェアハウス大家さんとしても導入しやすいシステムだといえるでしょう。

上記の事例について、「(日常生活の介助等の)障害者支援」ではなく、あくまで「知的障害者の自立支援」を目的としたものだということを申し上げました。これは、前述の「高齢者向け」や「LGBT向け」、あるいはもっとも一般的な「女性専用」シェアハウスなどとも共通する考え方、価値観であると思われます。年齢や性別など、さまざまな外的条件と個々の事情から「一人で生きていくには生きづらい……」と感じている人々が集まり、寄り添い、お互いに助け合うことで、少しでも生きていきやすい環境をつくっていく――そのための舞台装置としてのシェアハウスという考え方です。なまじ「社会貢献」などという単語を前面に押し出すと、かえって“うさんくささ”が鼻につくものですが、困ったときにお互い助け合える環境は誰にとっても必要でしょう。家賃収入や利回りだけを考えている「投資家」であればともかく、昔ながらの「大家さん」に近い感覚の方であれば、シェアハウスの持つこのような側面は「世のため人のため」にも価値あることだと思われるはずです。

いっぽう、「自立支援」といえば、新卒・第二新卒など、社会経験の浅い若い人たちが自分の力で生活できるようにするために、まずシェアハウス生活から始める――というケースも増えてきているようです。大学の学生寮や下宿、企業の独身寮といった集団生活の訓練にもなる場が減ってきていることもあって、シェアハウスがその代役として利用されるようになってきているのです。そうした中で、新卒採用者だけでなく、「異業種からの未経験での転職」といったケースの中途採用者を対象に、業務に必要な知識や技術を教育するサービスを付加したシェアハウスなども現れています。つい先日も、某ソフトウェア開発会社とのコラボレーションにより「仕事×シェアハウスによって未経験者を一流エンジニアに育てるサービス」をスタートしたシェアハウス事業者が話題となりました。これは、当コラムでもたびたび取り上げてきた「コンセプト型シェアハウス」をこれまで数多く手がけてきた某社のプロデュースによるもので、同社の言葉を借りれば「モチベーションの高いビジネスパーソン向け目標達成型コンセプトシェアハウス」だそうです。具体的なビジネスモデルとしては、コラボ相手である某ソフトウェア開発会社が「独自の育成プログラムによって未経験者を集中指導」し、シェアハウス側は「モチベーションの高い仲間に囲まれ、お互いにアドバイスしあうことで、さらに成長速度を高め、質と量の両面で育成サービスを強化」することを目指すというもの。果たして、どの程度の実効性が期待できるかといえば、いささか疑問もありますが……既存の「英会話を学べるシェアハウス」などが一定の成果を上げていることからしても、試みとしてはなかなか面白いものになりそうです。
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