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住宅セーフティネット法 シェアハウスガイドブック

第60回 住宅セーフティネット法とシェアハウス

11月17日、先の解散総選挙の大勝を受けて安倍晋三首相が所信表明演説を行いました。翌日の全国紙ではどこもこの安倍演説を大きく取り上げていましたが、好意的な評価はひとつとしてなく、「物足りない」「謙虚さがない」「長期的展望がない」など、さまざまな批判が寄せられています。そもそも、選挙戦の圧勝にしても、自民党や安倍政権に対する信任というよりは、有力な対抗勢力となるはずだった希望の党の自滅と、情勢を見る目のなさを露呈した旧民進党の醜態によるところが大きかったのは明らかでしょう。安倍政権を支えているのが国民の絶対的支持ではなく、あくまで相対的な評価に過ぎないという事実は、ゆめゆめ忘れずにいてほしいものです。

さて、その安倍演説からさかのぼること10日ほど前――国土交通省住宅局 住宅総合整備課 賃貸住宅対策室は、『シェアハウスガイドブック』( http://www.mlit.go.jp/common/001207549.pdf )を発行しています。これは、今年10月25日から施行されている、いわゆる「新しい住宅セーフティネット法」と密接な関係があります。この「新しい住宅セーフティネット法」とは、より正確に言えば「第193 回国会において成立した『住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律』の施行期日を平成29 年10 月25 日とする『住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令』と、同法の施行のために必要な規定を整備する『独立行政法人住宅金融支援機構法施行令及び金融商品の販売等に関する法律施行令の一部を改正する政令』」云々……という、やたらまわりくどくて意味の伝わりにくい名称になります。これを、もう少しわかりやすく整理すると……。
まず、「住宅確保要配慮者」というのは、具体的には高齢者、低額所得者、子育て世帯、障害者、被災者など「住宅の確保に特に配慮を要する者」のこと。つまりは、家賃滞納や建物の取り壊しなどの理由で今住んでいる家を追い出されたら、行き場がなくなって直ちに生存を脅かされる弱い立場の人々です。「新しい住宅セーフティネット法」とは、これら住宅確保要配慮者の人々が、それぞれの抱えている理由のためにある程度優先的に住むところを確保できるように――逆に言えば、貸し手側がこうした人々の入居を拒みにくいように――法律として定めようというのが狙いでした。
アパート大家さんなどの貸し手側からすれば、こうした人々は家賃滞納リスクのほか、孤独死などのリスクもあるため、入居を拒みたくなるのは無理もありません。なにしろ、下手に同情して受け入れてしまった場合、何ヶ月にもわたって家賃収入が得られなくなるかもしれません。たまりかねて追い出そうとすれば、かえって逆恨みを買うことになります。それで諦めて放置していたら、いつの間にか部屋で死亡していて、そのまま何日も気づかれないことも考えられます。なまじ相手に同情して一部屋を貸してしまったばかりに、最悪の場合、アパート一棟まるまる事故物件にされてしまい、数千万円もの損失を被ることだってないとは言えないのです。貸し手側には何の落ち度もないのに……。
もちろん、行政の立場からすれば「弱者救済」は錦の御旗ですから、借り手側である住宅確保要配慮者に寄り添った政策を推進せざるを得ないのはわかります。しかし、民間事業者である貸し手側に一方的に負担を押しつけられてはたまったものではありません。そこで、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を創設するとともに、独立行政法人 住宅金融支援機構による支援措置を追加するなどして、住宅セーフティネット機能を強化することになったわけです。今年(平成29)4月26 日に公布されたこの法律(「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律」)を、「いつから施行するか?」について定めた法律(「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」)があり、それに従って去る10月25日に施行された――という流れになります。

同法が施行されるに当たって、国土交通省では「近日中にはシェアハウスガイドブックが発行する」旨を告知していましたが、それが前出の小冊子です。総頁数40ページのPDFにまとめられ、「1. 共同居住型賃貸住宅(シェアハウス)について」「2. シェアハウスの運営管理の各段階での手続きと留意点」「3.住宅確保要配慮者を入居者とする場合の留意点」「4. 事例集」「5. お役立ち情報」の5項目から構成されています。無料配布されているものですから、現物を各自ダウンロードして、それぞれ目を通されることをお勧めしますが、たとえば「空き家を未活用、シェアハウスとして活用の比較(ケーススタディ)」というページを見ると、トータルキャッシュフローが7年目で黒字化するモデルケースが表示されています。同ガイドブックの制作には、(一社)日本シェアハウス協会・(一社)日本シェアハウス連盟の両団体が全面的に協力しているだけあって、非常に内容の濃い、実践する上で役立つ情報が満載ですが、いくつか留意しておくべき点があります。そのひとつは、同ガイドブックが想定しているシェアハウスが、「自己所有している空き家をシェアハウス化したもの」であるということです。したがって、投資用不動産として新たに物件を購入するパターンは想定されていません。また、戸建て住宅であることがほぼ前提となっており、寮や寄宿舎、あるいはアパート・マンション建築を利用することは想定に入っていません(ほんの数年前には「シェアハウスは寄宿舎に該当するものでなければならない」との判断を示していた国交省が、変われば変わるものです)。もうひとつ、もっとも大きな留意点は、同ガイドブックが目指しているシェアハウスは前述の「新しい住宅セーフティネット法」の定める「登録住宅」とすることを大前提としていることです。このため、国や地方公共団体から物件の改修費補助や融資を受けられたり、家賃や家賃債務保証料の補助などを受けられるというメリットが期待できますが、そのためには、「住宅確保要配慮者を拒まない住宅」でなければなりません。すなわち、家賃滞納リスクや賃借人死亡による事故物件リスクなどを受け入れなければならないというわけです。とはいえ――複数の入居者がスペースを共有するシェアハウスの場合、少なくとも「孤独死(=死亡しても数日間は誰も気づかずにそのまま放置される)」はほぼ考えられませんから、万一の場合でも、いわゆる「事故物件化」のリスクは低いとみることもできるでしょう。

今回の「新しい住宅セーフティネット法」の施行が既存のシェアハウス業界に及ぼす影響については、今しばらく様子を見なければ判断できませんが……「既存の」などといってもしょせんは狭い業界です。不動産投資コンサルティングとシェアハウスの運営管理を行う(株)ゼストでは、10月30日に「シェアハウスの稼働率および平均賃料などの実態調査」(2017年10月1日現在)なるデータを公表していますが、同プレスリリースを掲載した朝日新聞デジタルの記事( http://www.asahi.com/and_M/information/pressrelease/CATP2017141446.html )によると、同社は「シェアハウス業界もここ数年コンプライアンスで紆余曲折してきましたが、今後は更なる事業規模が拡大することになると思われます。しかしながら最近、ネガティブな問合せや相談も多くなり、データを公表することといたしました」と述べています。ちなみに、上記のデータによれば、東京23区のシェアハウス稼働率は78.4%、一部屋あたり平均賃料は55,191円(いずれも東京23区内1,481棟/17,923室の平均値)とのこと。10年前に比べるとかなり厳しい数値になっていますが、これが現状の“リアル”なのかもしれません。
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