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第68回 逆風とシェアハウスその4

10月6日に最終営業日を迎えた築地市場に代わって、10月11日にはついに豊洲新市場が開場しました。もともとの予定では2016年11月8日でしたから、約2年間延期されていたわけですが、はたして、延期した甲斐があったものやら……? 延期の理由は「安全性を確保するため」のはずでしたが、今年7月末の小池百合子都知事による「安全宣言」以降も、さまざまな不安説が囁かれています。しかし、小池都知事は「心配することは何もない」と言わんばかりに、開場初日の視察でも、早朝に起こったターレ(小型運搬車)の出火騒ぎや人身事故などどこ吹く風で、人気の「大和寿司」を貸切にしてご満悦だったとか……。今後、東京都民の「台所」となる場所だけに、問題があるならあるで、できるだけ早く解決していっていただきたいものです。

さて、いい加減この話題からは離れようと思いつつ、更新のたびに新たな動きが報じられるため、なかなか離れられないのが、言わずと知れた「スルガ銀問題」です。まずは10月5日、金融庁からスルガ銀行に「一部業務停止命令」および「業務改善命令」が出されました。以下、10月5日付で『朝日新聞デジタル』に掲載された「スルガ銀に6カ月の一部業務停止命令へ 国内銀では異例( https://www.asahi.com/articles/ASLB54CX5LB5ULFA013.html )」から全文引用します。
「金融庁は、シェアハウス融資で多数の不正があった地方銀行のスルガ銀行(静岡県沼津市)に対し、5日午後に一部業務の停止命令を出す。不動産投資向けの新規融資を6カ月間禁じる内容。スルガ銀ではシェアハウスなど不動産投資向け融資の実績を上げるため、執行役員を含む多数の行員が融資書類改ざんなどの不正に関与していた。国内銀行への一部業務停止命令は異例。金融庁は業務改善命令も同時に出す。
 スルガ銀の融資残高3・2兆円のうち不動産投資向けは3分の2の1・9兆円を占める。(山口博敬/2018年10月5日13時26分更新)」
上記の記事中に「国内銀行への一部業務停止命令は異例」云々とありますが、実際には、2013年12月にみずほ銀行に「新規の提携ローン」を対象に、1ヶ月間の業務停止命令が出されるなど、決して「異例」と言われるほど珍しくはありません。ただし、近年の業務停止命令の事例を見ると、三井住友銀行(2006年)、三菱東京UFJ銀行(2007年)、日本振興銀行(2010年)など、金融庁長官の監督を受ける、いわゆる本庁直轄銀行が対象となっており、スルガ銀行のような地方銀行が対象となることはたしかに異例の事態と言えそうです。

続いて、翌10月6日付の『朝日新聞デジタル』には、「根深かったスルガ銀の不正体質 金融庁、称賛から厳罰に( https://www.asahi.com/articles/ASLB5570QLB5ULFA02H.html )」という記事が掲載されました。一部抜粋して引用します。
「シェアハウス融資で不正問題を起こしたスルガ銀行(静岡県沼津市)に対し、金融庁は一部業務停止という厳しい処分に踏み切った。金融庁検査では、すでに判明していた不動産投資向け融資の不正に加え、創業家への不透明な融資や、暴力団関係者への融資も判明。融資残高の大部分で不正が疑われる異常事態で、再建への道のりは厳しい。(中略)
『非常に多くの顧客からお叱りを頂いている。まずはおわびを申し上げ、業務改善計画を策定して着実に実行し、信頼関係をもう一回築き上げたい』。5日夕、処分公表後のスルガ銀の記者会見で、有国三知男社長はそう述べた。
 金融庁によると、シェアハウスなどの投資用不動産融資では、不動産業者が物件の賃料や入居率を改ざんし、かさ上げされた物件価格をもとに多額の融資が行われた。行員も改ざんを促したり自ら行ったりした。
 審査部は資金使途や有資産の確認を営業現場に任せきりにした。シェアハウス向け融資は99%が承認され、審査が形骸化していた。スルガ銀によると、資料改ざんを行員が黙認したり関与したりしたのは1千件超にのぼる。不動産融資と同時にカードローン契約などを強いる「抱き合わせ」も横行し、法令違反のケースは534件あった。(中略)
 さらに金融庁は、暴力団関係者の預金口座を開設したり、ローン額が拡大したりした例も多数あったと指摘した。一連の問題融資に関する金融庁への報告が実態と異なっていたことも判明した。
 金融庁は『創業家支配のもとで、現場では厳しい業績プレッシャーやノルマで行員を圧迫し、不正行為を蔓延させる企業文化が醸成された』とし、取締役会も『貸し出しなどの内容を把握せず、監督機能を果たさないなど経営管理に問題があった』と認定した。(後略)
(山口博敬、福山亜希、柴田秀並 聞き手=藤田知也/2018年10月6日18時22分更新)」
かつては「地銀の優等生」としてスルガ銀行を称賛していた金融庁が一転、厳罰を下すことになったわけですが、まあ、それ自体は別に批判されるべきことでもないでしょう。少なくとも今のところ、金融庁としてはスルガ銀行をつぶす気はない、という方針だけははっきりしています(今後のなりゆき次第で、またあっさりと手のひらを返すかもしれませんが……)。いずれにせよ、ここまでスルガ銀行が徹底して矢面に立たされるようだと、逆に、シェアハウスや不動産会社への風当たりは多少なりとも弱まりそうです。そもそも、まっとうな経営をしているシェアハウス大家さんにとっては、もとより何のいわれもない風評被害なのですから……。

以前も当コラムで指摘しているように、このスルガ銀問題(=「かぼちゃの馬車」問題)が表面化してからというもの、シェアハウスバッシングの急先鋒に立っているかのような印象すらある朝日新聞ですが、もとはと言えばシェアハウス擁護論を展開していました。そのころの論調を思わせるのが、9月27日付の『朝日新聞デジタル』に掲載された「夫の暴力から逃げ、母子でシェアハウスへ『安心感ある』( https://digital.asahi.com/articles/ASL9T6634L9TPTFC022.html?_requesturl=articles%2FASL9T6634L9TPTFC022.html&rm=748 )」という記事です。以下、一部抜粋して引用します。
「ここ数年、他人と共同生活をする『シェアハウス』が、母子世帯向けに各地で開設されている。空き家が活用でき、社会貢献にもなるとして不動産業者が始めるケースが多い。全国30カ所を訪ねた研究者は『住まいと生活支援を合わせた仕組みで救われている人がいる』といい、調査結果と課題を小冊子にまとめて出版した。
(中略)
 神奈川県伊勢原市の住宅街にある、2階建てのシェアハウス。女性(34)は5歳と9カ月の子どもと1階で暮らす。6月下旬に入居した。
 1、2階にそれぞれ台所とトイレ、居間、和室がある。家具や家電、バスマットやハンガーは備え付け。単身女性も入居でき、2階の大学生2人と風呂や玄関は共有する。
 女性は離婚調停中の夫の暴力から逃げ、実家に身を寄せていた時、ネットでシェアハウスを見つけた。『私たちのためにあるような住まい』と見学した日に入居。今は庭に花を植えたり、近所の高齢者に声を掛けられたり。『見守られている安心感がある。早く仕事に就いて自立したい』(中略)
 こうした住まいが必要なのは、無職だったりで経済的余裕がない母子が一般的な賃貸に住むのは難しいからだ。公営住宅は空きがあるとは限らず、施設やDVシェルターは深刻な暴力の被害者が優先されがちだ。
 介護事業者が、働き手を確保するためにシェアハウスを設ける例もある。(中略)
 シェアハウスは、同社で働くシングルマザーで末子が3歳以下の人向けに8部屋を用意。計画にはシングルマザーの従業員3人が加わり、『洗濯機2台では足りない』『赤ちゃんのために食卓は低めに』などと案を出す。(中略)
 日本学術振興会特別研究員の葛西リサさん(43)は、30カ所の運営者らに聞き取り調査を実施。ブックレット『住まい+ケアを考える〜シングルマザー向けシェアハウスの多様なカタチ〜』(NPO法人西山夘三記念すまい・まちづくり文庫、46ページ、1080円)として出版した。(中略)
 運営側の目的は空き家や空室の活用だが、社会貢献になることや、他社と競合しない賃貸の形態を理由に挙げたところも。一方、経営不振や入居者間の生活トラブルといった問題も起き、調査した中で8カ所が閉鎖している。(中略)
 葛西さんは神戸大大学院で建築を学んでいた02年、母子家庭向け住宅政策の研究を始めた。一人親世帯でも、施設以外で暮らせる選択肢が必要だと考えたからだ。
 家探しに同行すると、職を探すと説明しても『貸せる物件がない』と断られるのが常だった。生活保護水準を少し上回る収入はあっても、雨漏りするような家賃が安い物件で我慢している母子もいた。
 葛西さんはシェアハウスについて、『住まいの選択肢が増えた。職に就くための環境が整い、精神面も安定する点で前進です』と評価。今後は広さや支援メニュー、そこを出た後の暮らしの保障が課題だと指摘する。
 今後は事業者のネットワークをつくり、シェアハウスを運営する手法などの情報を共有してもらう。事業者と入居者双方にメリットがある仕組みを考えたいという。(中塚久美子/2018年9月27日10時02分更新)」
上記の記事では、明らかにシェアハウス住まいを就労・生活困難者と想定しているのがわかりますが、少なくとも居住者を貶めるような悪意は感じられません。このように、朝日新聞もまだ、全面的にシェアハウス否定派に転向したわけではなさそうですが……。

以前からシェアハウスに対してマイナスイメージの記事を執筆しているフジサンケイグループ系の『日刊SPA!』では、最近も9月24日付の「『家が貸りられない…』劣悪シェアハウスに住む25歳男性の貧困上京物語( https://nikkan-spa.jp/1510507 )」、10月9日付の「ニート10年・35歳のドケチ生活術『うまい棒』が主食( https://nikkan-spa.jp/1508495 )」など、相変わらず「貧困ビジネス」という文脈でシェアハウスを論じています。たしかに、数年前のブーム時(=脱法ハウス問題以前)に比べれば、シェアハウス住まいを選択する層の経済力が低下していることは間違いなさそうですが……それは日本人全体の平均的な経済力の低下――あるいは、経済格差の拡大の影響も無視できません。つまり、共同生活というライフスタイルへの魅力や、外国人との同居による語学習得の機会など、かつてシェアハウス住まいの強力な動機となっていたものが、今や二の次・三の次となっていることは、どうやら完全には否めないようです。
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