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第69回 逆風とシェアハウスその5

11月15日、日本パブリックリレーションズ協会による2018年度「PRアワードグランプリ」の受賞作品が発表されました。同賞は、企業や団体の優れたPR活動を顕彰するという趣旨に基づき2001年から行われているものですが、今回グランプリに選ばれたのが、大和ハウス工業の「家事シェアハウス」。……といっても、これは住まい方のスタイルであるシェアハウスとは何の関係もなく、脱ぎっぱなしの靴を片づけるとかトイレットペーパーの補充であるとか、要するに「炊事・洗濯・掃除」のように名づけられることのない「名もなき家事」を家族で平等にシェアしていこう――という意味の標語だそうです。一瞬注目してしまい、意味を知って拍子抜けしてしまいましたが、好意的に解釈すれば、それだけ「シェアハウス」という用語が世間一般に浸透し、かつその意味が多様化してきたという事実のあらわれかもしれません。

さて、いささか気が早いようですが、2018年の業界を振り返ると、今年は年明け早々の「かぼちゃの馬車」騒動から始まった逆風の1年でありました。スマートデイズ社の経営破綻からスルガ銀行の不正融資問題をめぐる一連の騒動は今なお現在進行形で継続中ですが、11月に入ると、9月度の中間決算発表を受けてさらに報道が過熱しつつあります。『朝日新聞デジタル』に掲載された記事の流れを追っていくと、11月9日付で「スルガ銀、最大900億円赤字も シェアハウス問題響く( https://www.asahi.com/articles/ASLC84V5KLC8ULFA020.html )」、同12日付で「スルガ銀、創業家の前CEOら訴える 『信用失墜』( https://www.asahi.com/articles/ASLCD52BLLCDULFA01M.html )」、同14日付で「スルガ銀、大赤字に転落 中間決算985億円の純損失に( https://www.asahi.com/articles/ASLCG52VLLCGULFA01P.html )」、同15日付で「赤字転落のスルガ銀、新規貸し出し難しく 厳しい先行き( https://www.asahi.com/articles/ASLCG56Z6LCGULFA027.html )」と、ほとんど毎日のように関連ニュースの見出しに「スルガ銀」の文字が並んでいます。

こうした流れを受けて、同16日付で報じられた「地銀決算 景気不安映す 63行で3割減益 9月中間( https://www.asahi.com/articles/ASLCH528QLCHULFA018.html )」によれば、もはやスルガ銀1行にとどまらず、地方銀行全体に影響が拡がりつつあるようです。以下、一部抜粋して引用してみましょう。
「地方銀行の経営に『黄信号』がともっている。公表された2018年9月中間決算では、貸出先の経営悪化に備えた貸し倒れ引当金がかさみ、利益を押し下げた。企業の経営動向に敏感な銀行の業績の異変は、景気の先行きへの不安を示しているともいえそうだ。
 全国地方銀行協会が中間決算を公表済みの63行分(未公表は1行)を集計したところ、純利益合計は前年同期比30.3%減の3355億円だった。本業のもうけを示すコア業務純益は同3.9%増の5559億円で、超低金利による貸し出し収益減には歯止めがかかったが、貸し倒れ引当金などの『与信関係費用』がかさみ純利益は減った。(中略)
 今年はシェアハウス融資の不正問題を起こしたスルガ銀行(静岡県沼津市)が1196億円もの与信費用を計上し、全体を押し下げた面もある。ただそれを除いても412億円で、前年同期の195億円の『戻り益』からは約600億円の費用増となった。
 メガバンクの中間決算では戻り益が利益を押し上げたが、地銀では対照的な結果となった。決算を公表した銀行幹部の発言からは、景気の先行きへの懸念から、貸し倒れ引当金を多めに積む姿勢がうかがえる。
 常陽銀行(茨城)と足利銀行(栃木)を傘下に持つめぶきフィナンシャルグループ(FG)の松下正直副社長は『景気(拡大)の最終局面に近づいているのは紛れもない事実。より精緻にみていく必要がある』。融資先の財務や事業を精査して、与信関係費用を積み増した。北海道銀行の笹原晶博頭取は『景気はそう遠くない時期に転換点を迎える。与信費用は上がって行かざるを得ない』と語った。
 ふくおかFGは傘下3行で『戻り益』が前年同期より60億円以上減った。柴戸隆成社長は『景気はやはり循環する。いずれ後退局面が来ると思って色々な手当てをしている』と話した。山口FGの吉村猛社長も『必要ならばきちんと引当金を積む体制でいく』という。
 鹿児島銀行と肥後銀行(熊本)を傘下に持つ九州FGは与信関係費用が前年同期より27億円増。傘下行の与信関係費用の基準を今年統一し、『厳しい方に合わせて算出した』(担当者)。きらぼし銀行(東京)の常久秀紀専務も『保守的に引当金を積む方向で、行内でも手法を検討している』と話す。マネックス証券の大槻奈那氏は『銀行の収益にはマイナスだが、将来を見すえて、景気が本当に悪くなる前にできる限りの予防をすることは大切だ』と話す。(榊原謙、伊沢健司、高橋尚之/2018年11月16日11時27分更新)」

全国各地の地銀関係者が口をそろえて「遠からず景気は悪化する」と予測し、今からその準備に余念のない状況が窺われます。これまで、少なくとも2020年の東京五輪開催までは右肩上がりの経済成長が続くと無邪気に信じてきた人も少なくなかったと思われますが、こうした現場の声を耳にすると、それもどうやら甘過ぎる見通しだったのではないか――と、思わず不安がこみ上げてきそうです。銀行が与信関係費用を貯えるには、貸し倒れリスクの高い中小・零細事業者向け融資を制限せざるを得なくなり、バブル崩壊後の「貸し渋り」の悪夢の再現さえ考えられるからです。

その一方で、国土交通省が11月16日に公表した「平成30年第3四半期 主要都市の高度利用地地価動向報告〜地価LOOKレポート〜( http://www.mlit.go.jp/common/001261624.pdf )」によれば、7月1日〜10月1日の地価動向は、上昇が96地区(前回95地区)、横ばいが4地区(同5地区)、下落は0地区(同0地区)となりました。特に、住宅系地区32地区中では、上昇が31地区(同29地区)と圧倒的です。上昇地区数の割合は3期連続で9割を上回っており、このうち15地区(同13地区)は3〜6%の上昇を示しています。無論、かつてのバブル期の地価暴騰に比べればきわめて緩やかな上昇ですが……。国交省では地価上昇について、オフィス市況が好調なことや、再開発事業の進捗により繁華性が向上したこと、インバウンドによる消費・宿泊需要などが主な要因であると分析しており、オフィス・店舗・ホテル・マンション等に対する投資が引き続き堅調であることなどを指摘しています。この「地価LOOKレポート」は、(一財)日本不動産研究所の不動産鑑定士に調査・分析を委託しているものですが、その道の専門家の目から見ても、ほとんどの住居系地区で判で押したように「マンション市況は好調を維持」「地価動向はやや上昇傾向が続く」というコメントが並んでいます。

金融業界では近い将来の景気の後退局面が予測されており、不動産業界ではまだ当面は好況が持続する見通し――というのはもちろん、別に矛盾しているわけでも、どちらかが間違っているわけでもありません。もともと、不動産業界におけるさまざまな市況データはいわば「景気の遅行指標」ですから、金融業界の景気動向予測と比べれば一定のタイムラグが生じるのは当然のことです(逆に、「景気の先行指標」である金利の変動などから不動産業界の景気動向を予測することも可能で、不動産投資家の多くは投資の判断基準としています)。このタイムラグがどの程度のものになるかを正確に予測するのは困難ですが、来たる2019年10月には、消費税率10%への増税が4年越しで実施されることもあり、増税の影響がどこまで拡大するかの見極めも今のところついていません。いずれにせよ、先々必ず景気が落ち込むことは避けられない……ということだけは確実だと思っておいた方がいいでしょう。シェアハウス大家さんとしては、来年も引き続き逆風を覚悟しなければならないかもしれません。
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