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第72回 地価公示とシェアハウス2019

7年ぶりに日本で開催されたMLB開幕戦のため来日していたシアトル・マリナーズのイチロー選手が3月21日深夜、現役引退を発表しました。イチロー選手といえば、オリックス時代から彼の代名詞ともいえる「振り子打法」で7年連続首位打者など多くのタイトルを獲得しましたが、本領発揮はやはり、2001年のMLB移籍以降の大活躍でしょう。単に「日本人メジャーリーガー」という域を超え、一人のプレイヤーとして日米の球史にその名を刻み、数々の不滅の大記録を打ちたてたイチロー選手でしたが、さすがにここ数年は加齢による衰えが目につくようになり、限界説もささやかれていました。このタイミングでの引退発表が、偶然か意図的なものかは知りませんが、まもなく終わろうとしている「平成」という時代を象徴するスーパースターの引退劇は、一つの時代の終わりを感じさせるものでした。とはいえ、まだ45歳という若さですから、これからの彼の「第二の人生」に幸多かれ、と心よりエールを送らせていただきます。

さて、今年も恒例の「地価公示」発表の時期を迎えました。国土交通省が3月19日に発表した「平成31年地価公示」( http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000043.html )では、なんといっても「地方圏」の「住宅地」の地価が27年ぶりに上昇に転じた、というのが最大のトピックといえるでしょう。27年ぶりということは、「バブル崩壊以来」と言い換えても差し支えない超長期スパン。もちろん、「三大都市圏」ではすでに数年前から「住宅地」「商業地」ともに地価上昇局面に入っており、また、「地方圏」でも「商業地」についてはすでに前年の地価公示において上昇に転じていました。しかし、ただでさえ慢性的な人口流出と空き家問題に悩まされている「地方圏」の「住宅地」までが、地価上昇に転じたということは、「商業圏」あるいは「三大都市圏」の上昇の勢いが、いよいよ全国津々浦々まで波及してきた、ということになります。これだけ見れば決して悪いことではない、どころか、きわめて喜ばしい事態だと思われますが……「本来、地価上昇するだけの理由がない『地方圏』の『住宅地』にまで影響が波及した」ということは、「地価上昇の波が、行きつくところまで行ってしまった……」という意味でもあります。行きつくところまで行ってしまえば、あとは後退するしかありません。東京圏を中心とする「三大都市圏」の地価は、おそらくまだまだ当面の間は上昇し続けるでしょうが、そうそういつまでも続くものではありません。1ヶ月後に迫った改元、半年後に予定されている消費税率引き上げ、1年後に開催される東京オリンピック・パラリンピック。プラスにせよ、マイナスにせよ、地価変動の引き金となりうるイベントが、直近にこれだけ控えているのですから……。

今回の地価公示について、業界団体トップからのコメント( https://www.re-port.net/article/news/0000058532/ )をチェックしてみましょう。
まず、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会の坂本久会長は、「地価の上昇傾向は着実なものになりつつあり、デフレ脱却の糸口が見えたことは喜ばしいこと」としながらも「景気減退の予測がある中、来年の東京オリンピックを控え今後の地価動向は注意深く見守ってきたい。(中略)一般消費者の住宅の買い時感がやや減退している結果となり、消費マインドの動向にも配慮が必要だ」とコメントしています。
また、(一社)不動産協会の菰田正信理事長は、「大都市圏を中心に継続している緩やかな地価の回復傾向が地方圏にも波及しており、不動産に対する堅調な需要が持続していることが地価に反映されたものと評価している」とまずは肯定的に評価しているものの、「我が国経済は緩やかな回復を続けているが、世界の政治・経済情勢の不確実性が極めて高く、先行きについては不透明な状況にある。構造的には人口減少、少子・高齢化が進む中で、急速に変化する国内外の動向等も踏まえつつ、10月に予定されている消費税率の引上げを乗り越え、デフレから脱却し、持続的で力強い経済成長を実現しなければならない」とした上で、そのためには「経済成長の原動力である大都市の国際競争力を一段と強化するとともに、企業の国内設備投資を促進しイノベーションを誘発・加速させ、不動産市場の活性化を図っていくこと」が不可欠だと説いています。いささか具体性を欠いたお題目のようにも聞こえますが、少なくとも将来的なリスクを正しく認識したコメントだと言えるでしょう。

その一方で、(公社)全日本不動産協会の原嶋和利理事長のコメントを見ると、「昨年の回復ぶりをさらに上回る上昇基調が認められたことは、これまでの景気認識を再確認する上で心強いものがある。(中略)懸念すべきは、10月に予定される消費増税後の景気の下振れ、停滞感と言えるが、これも政府による実効性のある経済対策によって、そのリスク回避も可能であることを願うものである」云々と、リスクを懸念しつつも対策はお上頼みと、やや他力本願とも取れる発言が目につきます。
さらに、(一社)不動産流通経営協会の榊真二理事長のコメントを見ると、「不動産流通市場の動きは総じて堅調である。今後も、金融緩和の継続や政策効果等により、実需の住宅取得ならびに法人よる不動産投資は引き続き堅調さを保ち、地価回復が続くものと期待される」云々と、かなりの楽観論を展開しています。その根拠としてレインズのデータを引用し、「昨年1年間の全物件の取引では、成約件数はほぼ前年並み」「成約平均価格は4%弱のプラスと上昇基調が継続」とした上で、「個人実需層の売却・購入ニーズは底堅く」「法人による投資意欲にも根強さが感じられ」と並べています。後の2つは裏づけのない個人の主観に過ぎませんし、前の2つは一応数値の裏づけがあるものの、データ抽出の方法や分析のやり方でいくらでも違った解釈ができそうなのですが……?

榊理事長がコメントの根拠として引き合いに出したレインズのデータに関しては、(公財)不動産流通推進センターが翌3月20日に「指定流通機構の活用状況について(平成31年2月分)」( https://www.retpc.jp/chosa/reins/reins_new/ )と題するプレスリリースを公表しています。これによると、レインズへの新規登録件数は20ヶ月連続で前年同月比プラス(うち売り物件は15ヶ月連続プラス)、成約報告件数は5ヶ月連続で前年同月比プラス(うち売り物件は9ヶ月連続プラス)となり、総登録件数は35ヶ月連続で前年同月比マイナス(うち売り物件は22ヶ月連続プラス)が続いているとのことです。ここから読み取れるのは、まず「新規登録件数の増加=不動産オーナーがどんどん所有物件を売りに出している」ということで、これだけでは良し悪しの判断はできませんが、「成約報告件数の増加=売りに出された物件には着実に買い手がついている」「総登録件数減少の中で、売り物件登録件数が増加=賃貸よりも売買を目的とした新規登録が多い」ということになります。すなわち、「取引の動きは活発で、不動産の流通が促進されている」という状況にあるわけで、レインズを通した不動産流通市場がいかに盛況であるかが窺われます。

ただし、上記のプレスリリースの中で景気のいい話が出てくるのはもっぱら売り物件についてであり、賃貸物件については「新規登録件数は6ヶ月連続のマイナス」「総登録件数は46ヶ月連続のマイナス」など、あまり活況を呈しているとは言えないようです。一応、成約報告件数こそ5ヶ月連続のプラスとなっていますが、前年同月比0.9%増という微々たる増加であり、売り物件(同5.3%増)と比べれば明らかに見劣りします。なお、同じ3月20日付でアットホーム(株)が「2019年2月期の首都圏居住用賃貸物件の市場動向」( https://www.athome.co.jp/contents/dailynews/detail/58563/ )を発表していますが、これによると2月の首都圏のアパート・マンションの成約数は前年同月比4.6%減となり、3ヶ月連続で減少となっています。1戸当たりの平均成約賃料はアパート・マンションともに下落。ただし、1平米当たりの平均賃料はアパート・マンションともに上昇しています。つまり、平米単価が上がったために高額物件ほど借り手がつきにくくなり、価格帯の低い物件に借り手が集中した結果、平均成約賃料は下落し、成約数そのものも減少した、ということでしょう。ところで、余談になりますが――上のリンク先はアットホームの自社サイト内ですが、自社発表のニュースにも関わらず、「デイリーニュース」というコンテンツで紹介され、しかも「情報提供:(株)不動産流通研究所『R.E.port』」とクレジットされています。すなわち、社外に向けて自社が発信し、外部のサイトで紹介されたニュースの内容を、外部のサイトで紹介された通りに自社のサイトで引用する――という、非常にややこしい経路をたどっているわけです。ちなみに、会社案内によれば、同社の従業員数は2019年2月末現在で約1457名とのこと。決して小さな会社ではありませんが、「右手のしていることを左手は知らない……」というほどの巨大組織でもないはずです。おそらく、自社発信のニュースであることは承知の上で引用されたものであり、また、年度末の繁忙期ということもあって、ニュースリリースを自社サイトに反映させるという優先順位の低い作業を後回しにしているだけなのでしょう。それはともかく――運送業界の人手不足などに端を発する「引っ越し難民」問題が注目されているほどの繁忙期において、賃貸物件の成約件数が減少している(あるいは伸び悩んでいる)とすれば、それはアパート・マンションなど賃貸物件オーナーにとってきわめて深刻な問題です。もちろん、シェアハウス大家さんとしても、断じて対岸の火事などではありません。2月期はまだしも、もし次の3月期までこの傾向が続くようであれば、不動産賃貸ビジネスにとって軽視できない事態であるといっても過言ではないでしょう。
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