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第76回 市場調査とシェアハウス

8月27日から福岡県・佐賀県・長崎県の3県では「令和元年8月九州北部豪雨」と仮称される記録的な豪雨に見舞われました。「27日から29日にかけて対馬海峡から九州北部にかけて秋雨前線が停滞、北上と南下を繰り返し、集中豪雨をもたらす線状降水帯が生じた」ことが原因らしく、佐賀県杵島郡大町町では、佐賀鉄工所大町工場から油が流出、付近一帯に流出する騒ぎとなり、また29日には長崎地方気象台が長崎県壱岐市で「50年に一度の大雨」と発表されました。9月に入ってからも九州北部の被災地ではぐずついた天候が続いていますが、異常気象はさらに北上しているようで、9月3日の夕方から夜にかけては、岡山県北部の新見市で「記録的短時間大雨情報」を発表。同日夜には神奈川県横浜市でもゲリラ豪雨による冠水が起こるなど、全国的に被害が拡大しており、今後も引き続き厳重な警戒が必要なようです。

さて、お盆前の8月13日、(一社) 日本シェアハウス連盟( http://www.japansharehouseorganization.com/ )より、『シェアハウス市場調査 2019年』が発表されました。同連盟では、シェアハウスの認知度向上と状況把握のため2013年より三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)の協力のもと市場調査を行い、2013年から2016年まで毎年発表してきました。3年ぶりの調査発表となる今回、同連盟は「『シェアハウス市場調査 2019年』の発表について  国内での『棟数・部屋数・ベッド数』『立地状況』等を調査」( https://www.atpress.ne.jp/news/190278 )というプレスリリースを発信し、調査データと解説のごく一部を公表しています。同調査は、2019年1月から2月にかけて実施され、国内シェアハウスの「棟数・部屋数・ベッド数」および「立地状況」等を発表するとともに、会員にアンケート調査を行い、「シェアハウスの運営・管理の状況」についても公表しています。
この直近3年間には、2013年の「脱法ハウス問題」およびこれに端を発する「寄宿舎ルール問題」の後遺症をようやく抜け出し、徐々に業界に追い風が吹いてきた中での「かぼちゃの馬車問題」が表面化する、という激しい浮き沈みがありました。それだけに、非常に興味を惹かれる内容なのですが、残念ながらこの報告書は同連盟が有料配布しているデータであるため、詳しい調査内容に関して当コラムで紹介することはできません。そこで、上記のプレスリリースとして公表されている部分のみここで引用することにいたします。より詳細なデータを知りたい方は、上記アドレスより直接同連盟にお問い合わせください。
「【結果について ※一部抜粋】
<全国>
棟数4,867/部屋数56,210/ベッド数59,425
・シェアハウスはすべての都道府県において立地がみられ、全国で計約5,000棟となっている。特に東京都を筆頭に、一都三県、大阪・名古屋エリアにおいて集中している。
・東京都内では、23区へ立地が集中し、さらに世田谷区、杉並区、足立区、板橋区、練馬区等、都心部から離れたエリアを中心に全国物件数の大半が供給されている。

【まとめ ※一部抜粋】
シェアハウス物件数は全国各地で増加傾向にあり、市場全体で拡大基調が続いています。
一方、シェアハウス市場の成長に伴い、収益性の高さを魅力に感じて新たにシェアハウス事業を始めようと考える方も増えており、不動産投資の一環でシェアハウス事業を勧める事業者・金融機関による不正融資や、関連する運営事業者の経営破綻など、報道で大きく取り上げられる事態も発生しています」(プレスリリースより)

なお、調査方法も、おそらくは調査対象もまるで違うので単純に比較することはできませんが、2年前に国土交通省が発表した「シェアハウスの運営事業者に対する運営実態等調査」( https://www.mlit.go.jp/common/001232766.pdf )によれば、2017年6〜7月の調査当時、全国のシェアハウス棟数は599棟/7,319室で、そのうちの約80%が一都三県に集中しており、近畿・中部を合わせると約94%が三大都市圏に集中していました。逆に言うと、それ以外の地方では物件数が0棟からせいぜい10棟前後だったわけで、わずか2年足らずでこの差は隔世の感があります。

参考までに、これもやはり1年以上前のデータですが、(株)東京商工リサーチが2018年6月4日に発表した「主な『シェアハウス業者』752社動向調査」( https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180604_01.html )によると、直近3期の売上高が判明している124社を対象に売上高の推移を比較した場合、2015年(1月〜12月)の売上高合計は578億8,000万円で、2016年は前期比14.8%増の664億8,900万円、2017年は同21.3%増の806億7,400万円に拡大しています。すなわち、シェアハウスの市場規模は急速に拡大しており、2015年からの2年間で39.3%も拡大したことになります。しかも、これはわずか124社を対象とした合計金額ですから、実際の市場規模は少なく見積もっても約6倍(同調査全体での対象業者数は752社であることから)、おそらく10倍以上はあると見て間違いありません。また、細かい数値の引用は省きますが(なにしろ1年以上前の古いデータなので)、シェアハウス事業者の6割強が「業歴5年未満」、つまり、比較的最近シェアハウス事業に乗り出したばかりの後発事業者となっています。また、同調査実施時点ですでに一連の「かぼちゃの馬車問題」あるいは「スルガ銀問題」はすでに発覚していますから、あれだけの社会問題となった後で(もっとも、より正確にいえば調査時点ではまだ事件発覚の直後だったと思われ、その後の情勢を見て撤退した事業者もそれなりに多かったと推測されますが……)なおもシェアハウス事業を継続している事業者がそれだけあったということになります。とりもなおさず、それだけシェアハウスという事業が「儲かるビジネス」として認知されていることの証明でもありますが――10年前ならいざ知らず、今さら認知度が上がって業界として喜ばしいという呑気な感想が出てくる人もそうはいないでしょう。むしろ、かつて「脱法ハウス問題」が騒がれた時期にある程度淘汰されたはずの質の低い業者が、ほとぼりが冷めたことでふたたび業界に参入してきたような感もあります。後発事業者の参入が増えても、市場規模(シェアハウスの利用者数)が爆発的に増えているわけではないので、下手をすれば共食い、共倒れを招きかねない状況であると認識しておいたほうが良いかもしれません。

上記の『シェアハウス市場調査 2019年』によれば、今や47都道府県すべてに最低1棟以上のシェアハウスが存在することになりますが、やはり地方へ行けば行くほどその数は少なくなり、また、単純な人口比でいっても利用者数はきわめて少ないはずです。そこで、最適なターゲット層を絞り込む経営戦略が必要となってくるわけですが、もっとも手っ取り早く、また成功事例も多いのが、たとえば「高齢者向けシェアハウス」というカテゴリーでしょう。次に紹介するのは9月3日付の『大分合同新聞』に記載された「移動支援とシェアハウス、高齢化に負けない大分市の住民活動」 ( https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2019/09/03/JD0058441582 )という見出しの記事です。例によって全文引用してみましょう。
「大分市本神崎の『NPO法人福祉コミュニティKOUZAKI』(高橋政行理事長、110人)が新たな活動を始めた。住民から寄贈された中古の軽自動車と平屋を活用し、無料の移動支援と単身者のシェアハウスを運用。『住み慣れた地域で末永く暮らせるように助け合おう』という思いを実行に移している。
 本神崎では約30年前から地域おこし活動が始まった。1990年代に地区内で1人暮らしの男性が孤独死したのを契機に地域福祉活動を強化。2007年に『KOUZAKI』を設立した。18年度からの介護保険制度改正を受け、日常生活の困りごとを住民の力で解決する体制づくりのため、同年7月に実動部隊となる「こうざきご加勢隊」(中村勲会長、54人)を立ち上げた。
 無償の移動支援は、ご加勢隊の総会(8月22日)後から始めた。90歳で運転免許証を返上した梶谷衛治さん(91)、ミネ子さん(88)夫婦は「買い物があるときに利用する。ものすごくありがたい」と感謝する。
 シェアハウスは築30年で106平方メートル。9月から入居できる。家賃は3人(定員)で計3万円。1人暮らしの中村会長(79)は『みんなと住みたい。安心だから』と入居を決めた。台風などで不安な日は、近くの高齢者が集う場にもなる。
 『KOUZAKI』はこうざき校区社協が06年から発行する『ご加勢チケット』を活用し、高齢者から草刈りや食事作りなどの依頼を受けてきた。高齢化率が40%を超える地域で独自システムを構築した取り組みは『模範的』と評価が高く、他地域からの視察も多い。
 中心的存在の稲生亨さん(73)=KOUZAKI事務局長=は『困っている人がいたら助ける。支え合う地域にしたい』と力を込めた」(2019/09/03 03:00更新)

このほか、高齢者向けシェアハウス関連のニュースとしては、9月2日に発行された『日本老友新聞』2019年9月号の1面に特集として「新生活スタイル 高齢者向けシェアハウス」というそのものズバリの記事も掲載されています。同紙は1954年創刊の月刊全国紙で、記事の内容まではサイトから確認することはできませんが、ここ数年増え続けている高齢者向けシェアハウスの存在を主要ターゲット層にダイレクトに周知するという意味で興味深い企画であるといえるでしょう。
近年はこうした「高齢者向け」に限らず、もっとも一般的な「女性向け」から、よりニッチなターゲット層に絞り込んだ、たとえば「ペット愛好者向け」「バイク乗り向け」「釣り人向け」、アニメや漫画、ゲームなどカテゴライズの細分化も進んだ「オタク向け」などもあります。あるいは「起業家向け」、「就活シェアハウス」「英語が学べるシェアハウス」「子育てシェアハウス」等々、入居者の趣味嗜好や目的意識に合わせたさまざまな種類のシェアハウスが市場にはあふれています。そのすべてが成功しているわけではなく、特に狙いすぎ、尖りすぎの企画シェアハウスの多くは、一過性の話題にすらなることなく、いつのまにやら市場から消えているものです。かつてないほど競合が増えた分、独自性をアピールしたくなるのは当然の思考ですが、あくまで市場のニーズを慎重に見極めてからでないと、独りよがりの空回りに終わる可能性が高いと思っておいたほうがいいでしょう。
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