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第79回 2020年とシェアハウス

皆様、あけましておめでとうございます。本年も当コラムをよろしくお願い申し上げます。

2020年の年明け早々、一つのニュースが世界を震撼させました。言うまでもなく、1月3日、イラクのバグダッド国際空港において、イランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官らがアメリカ軍の攻撃により暗殺された事件です。昨年末からキナ臭い動向が伝えられていた中東情勢は一触即発となり、海外のインターネットの検索ワードランキングで「第三次世界大戦」がぶっちぎりの1位となりました。ただし、日本では対岸の火事としか思われていないのか、同じ日の日本での検索ワードランキングではなんと10位。どうやら、朝鮮半島情勢ほどにも危機感を覚えていない人が多いようです。1月8日未明にはイランによるイラク国内の米軍駐留基地へのミサイル攻撃も行われ、全面戦争に発展することも危惧されています。
戦争など起こってほしくありませんが、いざ開戦となれば、現在の緊密な日米関係からして、日本だけが無関係でいることなど到底不可能。そういえば、今年はオリンピックイヤーですが、80年前の1940年には、予定されていたヘルシンキオリンピックが第二次世界大戦のために中止となったという前例もあります。しかも、このときは本来なら東京が開催地となるはずだったのを、日中戦争の激化などを理由に日本が辞退したという経緯があり、いわば“幻の東京オリンピック”でしたから、つくづく因縁を感じずにはいられません。

さて、前置きが長くなりましたが、今年も例年通り、(株)不動産流通研究所が運営する不動産ニュースと不動産業務のためのサポートサイト『R.E.port』に掲載された「2020年 年頭挨拶」(業界団体等)の記事( https://www.re-port.net/article/news/0000061056/ )を見て参りましょう。ちなみに、これも例年のことですが、年頭挨拶というのは「あけましておめでとうございます」という定型句で始まることからもわかるように“祝辞”であり、不吉なことや暗い話題は極力避ける傾向があります。また、内部事情的なことを言えば、年頭挨拶の内容は前年のうちに原稿を用意しておくのが通例ですから、例えば年明け早々の中東での出来事などを反映する余裕がなかったのかもしれません(さらに言えば、ほとんどの方にとっては、さしあたり直接的な影響が考えにくいという事情もあるのでしょう)が、緊迫した国際情勢に言及している方は、事実上皆無でした。

まずは、赤羽一嘉国土交通大臣のコメントから見ていくと、2020年に取り組むべき重点課題として、以下の4本を柱として上げています。
(1)防災・減災を社会の主流に!
(2)観光による地方創生
(3)安全・安心な移動環境の整備
(4)持続可能な地域社会と経済成長の実現
このうち、「持続可能な地域社会の形成」については、「AI、IoT等の新技術をまちづくりに取り入れた『スマートシティ』の促進」とともに、シェアハウス大家さんにとっても直接的な関連が深い「住宅政策」「マンション政策」等に関して次のように述べられています。一部抜粋して引用しましょう。
「(前略)既存住宅流通・リフォーム市場の活性化に向けて、安心して購入することができる既存住宅の普及を進めるため、耐震性があり、構造上の不具合などが認められないなど、一定の要件を満たす既存住宅について流通を図るための『安心R住宅』制度の取組を進めてまいります。
 空き家対策については、『空家等対策の推進に関する特別措置法』に基づき、個々の地方公共団体が行う指導・助言、行政代執行等の措置や、空き家の除却・利活用等に対する支援などに積極的に取り組んでいるところです。さらに、空き家等の流通・マッチングや再生を図るため、『全国版空き家・空き地バンク』の活用を促進してまいります。今後とも、空き家の利活用・流通促進に官民総力戦で取り組んでまいります。(中略)
 高経年マンションの増加が急速に進む中、建物・設備の老朽化、管理組合の担い手不足、建替え等の合意形成の困難さ等の課題が生じることが見込まれることから、マンションの維持管理の適正化や再生の円滑化に向けた取組を強化し、マンション政策を強力に進めてまいります。また、賃貸住宅管理業については、近年、サブリース業者と家主の間で家賃保証を巡るトラブル等が多発していることから、サブリースを含む賃貸住宅管理業の適正化について、法制化の検討を進めてまいります。
 若年・子育て世帯や高齢者世帯等が安心して暮らせる住生活を実現するため、地方公共団体や関係省庁と連携し、新たな住宅セーフティネット制度に基づき、民間の空き家・空き室を住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅として活用する取組や各地の居住支援活動に対する支援を行うとともに、住宅金融支援機構の住宅ローン金利の引下げを通じた若年・子育て世帯の住宅取得等の支援、サービス付き高齢者向け住宅の整備等を進めてまいります。(後略)」
赤羽大臣はこのほか、「土地の有効活用」につながる税制改正や「所有者不明土地等問題への対応」につながる法改正、「住宅・建築物の省エネ化の推進」につながる法改正などについても触れられています。いずれも教科書通りのコメントで、特に目新しさはありませんが、年頭挨拶としては、浮ついた美辞麗句や根拠のない楽観論に終始せず、問題は問題としてきちんと認識されている点は好感が持てます。

続いて、各業界団体の代表者の方々の年頭挨拶も見ていきましょう。まず、(一社)不動産協会の菰田正信理事長は、「不動産を取り巻く環境が大きく変化する中、まちづくりを通して、新たな価値を創造していくことが求められる。都市の国際競争力を高め、世界中から人材・企業・資金・情報を呼び込むために、イノベーションや新しい産業が次々と生まれ続ける魅力的な都市づくりを行うことが必要である。自然災害が激甚化・常態化している中、防災性能を高める取り組みも大切だ。また、多様なニーズに対応した質の高い住宅ストックを形成し、新たな住宅循環の環境を整備していくために、既存住宅の活用だけでなく、性能の不十分なストックの更新を図るため、新規ストックの創出が重要である」と述べています。周知のように菰田理事長の“本業”は三井不動産(株)の社長ですから、やはり「新規ストックの創出が重要」という結論に落ち着くのでしょう。

続いて、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会の坂本久会長と、(公社)全日本不動産協会の原嶋和利理事長ですが、この方々はそれぞれの団体が国政や税制改正上で果たした功績を誇るのに終始しているようで、とりたてて見るべきコメントはありません。
それらに比べると、次に取り上げる(一社)不動産流通経営協会の山代裕彦理事長のコメントにはもう少し「お客様」側に立った目線が感じられます。山代理事長は「4月には、いよいよ改正民法が施行される。当協会では、契約書類の改訂などについて入念な準備を進めてきたが、お客様が安心し、満足した取引ができるよう、施行に向けて万全を期していく」と述べております。ここで言う「改正民法」とはもちろん「債権法の改正」のことで、不動産賃貸業に直接関わる部分としては、主に「敷金」と「原状回復」についてのルール、と解釈されています。シェアハウス大家さんならどちらもあまり縁がありませんが、一般のアパート・マンション経営者にとってはきわめて身近なテーマであると言えるでしょう。

このほか、(一社)全国住宅産業協会の馬場研治会長は、「現在およそ655万戸のマンションストックがありますが、居住者の高齢化と同時に住宅の老朽化も確実に進行しています。こうしたマンションを適切に維持・管理するためには定期的な大規模修繕が不可欠ですが、直近のマンション総合調査によれば、計画上の修繕積立金の額に対し実際の積立額が不足しているマンションが約35%にも上ります。その背景には、修繕計画に対する認識の低さや近年のコスト増など、さまざまな要因が考えられます」などと、具体的な数値を示しつつ問題点を指摘しています。ただし、その対策については、「優良なストックを次世代に引き継ぐためには、入居者や管理組合に対して税制上のインセンティブを付与するなどの政策的な配慮がなされなければ、なかなか状況を改善できる糸口が見い出せません」とか、あるいは「建替えについても、区分所有者の合意形成、建替え費用の問題など多くの課題があります。マンション建替えを促進するために必要な規制の緩和やリバースモーゲージの活用、マンション建替えに関する関係法令の見直しなどについて本格的な検討が望まれます」といった具合に、いささか他力本願のようですが。

また、(独)都市再生機構の中島正弘理事長は、「賃貸住宅事業については、平成30年12月に、UR賃貸住宅ストックを将来にわたって国民共有の貴重な地域資源として生かし続けるため、2033年度までのUR賃貸住宅ストックの多様な活用の方向性を定める『UR賃貸住宅ストック活用・再生ビジョン』を策定しました。
 このビジョンの実現に向けた施策の1つとして、UR賃貸住宅団地内に地域に不足している医療・福祉施設の誘致等を図り、UR賃貸住宅の生活環境の向上を図るとともに、周辺地域にも医療・福祉サービス等が提供されることで、団地やその周辺地域において安心して健やかに住み続けられることができるよう、団地の地域医療福祉拠点化を進めています。2033年度には地域医療福祉拠点化を推進する団地を250団地程度とすることを目指しています。
 全国で管理する70万戸を超えるUR賃貸住宅ストックについて、引き続きこのビジョンに掲げる『多様な世代が安心して住み続けられる環境整備』『持続可能で活力ある地域・まちづくりの推進』『賃貸住宅ストックの価値向上』の3つの視点でUR賃貸住宅ストックの多様な活用を行い、多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちの実現を目指してまいります」とコメントしています。後半になればなるほど、勇ましい決意表明のようにも聞こえてしまいますが、ぜひとも有言実行を期待したいところです。

こうした中で、特に注目したいのが(一社)マンション管理業協会の岡本潮理事長の年頭挨拶です。
「当協会が特に注力してきた取組みが『マンション管理がマンションの市場価値へ正しく反映される仕組みづくり』です。
 当協会を含む11団体からなる『マンション管理適正評価研究会』を立ち上げ、管理情報の開示の在り方、等級評価の手法、評価項目の選定や評価ポイントの配分等について議論して参りました。
 研究会では、マンションの基礎的情報である『一般情報』、購入(予定)者により評価・判断が分かれる『客観情報』、管理状況を評価付けして示す『等級評価』に区分のうえ、等級評価の項目を『管理組合体制関係』『管理組合収支関係』『建築・設備関係』『耐震診断関係』『生活関連』の5つに分類。評点に応じてS〜Dの5段階評価とする方式の中間とりまとめを行い、近日公表の運びです」とのこと。この取り組み自体もたいへん興味深いものですし、シェアハウス経営の上でも参考になりそうです。引き続き、同研究会の動きに注目していくべきでしょう。

もう一つ、(一社)プレハブ建築協会の芳井敬一会長や、(一社)住宅生産団体連合会の阿部俊則会長がコメント中で触れている「ZEH(ゼッチ)」にも要注目です。これは、経済産業省 資源エネルギー庁の「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について」( https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html )というページの説明によると、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」のことだそうで、これだけ読んでもちょっとよくわかりませんが、思いきり簡単に言ってしまえば、平時には「電気代が安く」、災害時には「停電しても安心」というコンセプトのようです。政府は2014年4月に閣議決定された「第4次エネルギー基本計画」において、「住宅については、2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」とする政策目標を設定しています。「標準的」とか「平均」とか、どうとでも解釈できそうな文言なのは少々気になりますが――それはさておき、経産省だけでなく、国交省・環境省との3省連携でZEH支援事業(補助金)も推進していますから、今後、新築計画がある方は、検討してみるのも面白いかもしれません。

いずれにせよ、2020年はまだ始まったばかり。オリンピック・パラリンピックをはじめ、今年もこれからさまざまな行事やイベントが控えています。楽しいことばかりではありませんが、くよくよ思い悩んでいても仕方がありません。お金や時間のゆとりがなくても、せめて気持ちにはゆとりを持てるようにしたいものです。
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