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第90回 住宅難とシェアハウス

昨春に続く2度目の緊急事態宣言は3月22日、予定通り解除されました。「予定通り」と言っても、実際には2度の延長期間を経た上での解除であり、1週間単位の新規感染者数は最初の解除予定日であった2月7日時点を大幅に上回っています。すなわち、「感染拡大が収束したから」ではなく、「これ以上緊急事態宣言を延長しても効果がない」という事実が明らかになったための解除だということは、国民すべてが承知の上のはず。にもかかわらず、折しもちょうど桜が例年より早く満開となったこともあってか、22日の解除以降――否、その数日前から――東京都をはじめとする全国各地で新規感染者数はまたもや増加傾向が続いています。3月29日時点での東京都の新規感染者数は234人となり、解除当日である22日の187人に対して47人の増加、10日連続で前週の同じ曜日を上回っています。もともと休日明けの月曜日は1週間でもっとも新規感染者数が少ない曜日でしたが、これも2月15日の266人以来となる200人超を記録し、メディアはこぞって「リバウンド(感染再拡大)だ」「第4波到来だ」と騒ぎ立てています。昨年暮れからのいわゆる「第3波」が収束したわけでもないのに、「第4波」云々と言い出すのはいささか的外れな気もしますが……いずれにせよ、コロナ禍はなおも世界全人類の上に重たくのしかかっているようです。今はただ、ようやく始まったワクチン接種が1日も早く効果を発揮してくれるのを祈るばかりです。

新型コロナウイルスへの対抗手段は専門家である医療機関に委ねるしかありませんが、現状の「コロナ禍」全般に対して何かできることがあれば、門外漢の私たちも手をこまねいてばかりはいられないでしょう。現に、「自分たちにできること」に懸命に取り組んでいる人びともいます。そこでご紹介したいのが、3月27日の『日刊SPA!』に掲載された「借金苦の若者が集うシェアハウス。男女約10人が共同生活中」( https://nikkan-spa.jp/1741457 )と題する記事です。タイトル中にはコロナのコの字も見当たりませんが、これは同サイトが掲載している「[コロナで借金]地獄ルポ」というシリーズの一本です。もともとは同サイトの母体である扶桑社の『週刊SPA!』に掲載された記事であるらしく<取材・文/週刊SPA!編集部>とクレジットされています。有料雑誌の記事ですから全文引用は差し控えますが、冒頭には「コロナ不況のもとで家や仕事を失い、さらに借金まで抱えた若者たちが集まる『セーフティネットシェアハウス』という施設がある。コロナによって苦境に立たされた若者たちが寄り添う施設とはどのような場所なのか。訪ねてみた」というリード文があり、以下のような小見出しが続きます。
「家や職場を失った若者が住む『新たなセーフティネット』」
「周りに言いづらい借金の話もオープンにできる」
「貧困ビジネスではなくあくまでシェアハウス」
「毎月の家賃3万5000円以外は一切もらわない」……。
なお、詳しい本文の内容についてはリンク先をご参照ください。

似たような事例として、3月24日付の『朝日新聞デジタル』には「保証人なしでOK コロナ禍で住まい失った人に物件紹介」( https://www.asahi.com/articles/ASP3Q7JQKP3QIIPE013.html )という会員記事もありました。こちらは一部抜粋して引用します。
「新型コロナウイルスの影響で厳しい雇用情勢が続くなか、職を追われると同時に家まで失ってしまう人がいる。保証人や緊急連絡先として登録できる身寄りの無い人は『住宅弱者』になりやすいという。
 そんななかで、保証人・保証会社不要の物件を紹介する札幌市の不動産賃貸会社には、コロナ禍前の3倍のペースで相談が寄せられている。
 札幌市内のマンションに住む男性(44)は昨年4月、派遣で勤務していた食品製造工場で契約を切られた。住んでいた派遣会社の寮は、一軒家のシェアハウス。住み続けづらくなり、一人暮らしをしながら職探しをしたいと思っていたところ、札幌市内の不動産賃貸事業者「めぐみ企画」をウェブサイトで見つけた。(中略)
 北海道労働局によると、北海道内の1月の新規求人数は前年比で7・2%減少。13カ月連続で前年同月を下回っている。男性が派遣会社に仕事の紹介を頼んでも、ほとんど求人がない。
 失業保険で1日1食で食いつないでいたが、それも底をつきつつあり、4月からは生活保護の受給を検討している。『仕事がなかなか見つからず、先が見えない。住めるところがあるのはまだ救われる』と話す。
 17日現在、同社が借り上げる497室の92%に、10〜80代の458人が入居する。ほとんどの入居者が一人暮らしで、約6割が生活保護を受給している。
 多くの場合、賃貸契約時には契約書類の連帯保証人や緊急連絡先の欄に親族の名前の記入が求められる。会社員として働き、十分な収入を得ている人でも、頼れる親族のいない人は審査が通らず、家を借りられないことがあるという。(中略)
 同社が紹介する物件の入居者の9割が、こうした住宅弱者だ。同社は1カ月あたり数万円で借り上げる物件の家賃に上乗せして賃料を回収し、収益を得ている。(後略)
(2021年3月24日 10時30分/天野彩)」
「住宅弱者」というネーミングはいかにも同紙が好んで使いそうな造語ですが、それはともかく、上の記事では「シェアハウスに住み続けられなくなった居住者」に「借り上げマンションを紹介する」という、いわば『週刊SPA!』とは逆のパターン。とはいえ、これはたまたま取り上げた個別の事例がそういうパターンだったというだけでしょう。上の記事のちょうど1ヶ月前には、次のような記事も掲載されています。

こちらは「『仮暮らし』しながら職探しを コロナ禍の再出発を支援」( https://www.asahi.com/articles/ASP2S3C22P2LUOOB00H.html )というタイトルの記事になります。以下、全文引用してみましょう。「シェアハウスで『仮暮らし』しながら、新しい仕事を見つけませんか――。新型コロナウイルス感染拡大の影響が続くなか、職を失った人などを支援するため、従来の就労支援と一時的な住居をセットにした取り組みが長野県内で始まっている。
 『かりぐらしスタートプロジェクト@ながの』と名付けられた事業で、県社会福祉協議会が昨年12月に始めた。コロナ禍で失業した人や生活が苦しくなった人などを対象に、アパートの提供と就労支援を行う。
 アパートは長野市内にあり、全部で3室、家賃は月5千円。家具や家電もついている。1室の間取りは3DKで、1室を3人までシェアすることが可能だ。入居中は県社協のスタッフが相談に乗り、就職先の紹介も受けられる。落ち着いた環境で再出発を目指すことができる。
 県社協は昨年6月からコロナ禍における就労支援を続けている。これまで160人以上を就労につなげてきたなかで、仕事だけでなく住まいを求める声もあった。しかし、住居付きの求人は警備業界など業種が限られるため、住居を別に用意することで、挑戦できる仕事の幅を広げようと企画した。
 また、2019年の東日本台風(台風19号)の被災地で活動する災害NGO『結』とも協力。被災地のリンゴ農家やボランティア仲間など、培った人脈を生かして仕事を紹介することも想定している。
 今のところ2人が入居を始めたばかり。首都圏を中心に出されている緊急事態宣言が解除されれば、県外に住む人にも積極的に募集を始めたいという。県社協の山崎博之さんは『コロナを機に、長野で新しい生活にチャレンジしてみてほしい』と話している。
(2021年2月24日 10時14分/田中奏子)」
こちらは自治体が主体となって運営しており、就労支援と並行して取り組んでいるという点が前出の記事とは異なりますが、仕事だけでなく住まいにも困っている層を対象としている点は同じ。また、どちらもローカルな地域限定の取り組みですが、根底に流れる理念は共通しています。とかく不況の時代には、職を求めて大都市への流入人口が増えると言われますが、首都圏の感染拡大に歯止めがかからない現状では、故郷へのUターン・Iターンを検討するのも選択肢の一つかもしれません。

一方で、その首都圏の不動産動向はどうなっているでしょうか。アットホーム(株)が3月25日に発表した「首都圏における『中古マンション』の価格動向(2021年2月)」( https://athome-inc.jp/wp-content/uploads/2021/03/2021032502.pdf )によると、首都圏の中古マンション1 戸あたりの平均価格は3,225万円(前月比+1.1%)となっており、東京23区をはじめ、首都圏8エリアすべてで平均価格の前月比上昇が続いています。しかも、東京23区、埼玉県他、千葉県他では2017年1月以降の最高額を更新しているとのこと。中古マンションの価格高騰は、新築マンションや戸建ての購入を諦めて中古マンションを選択する人が増えている……とも考えられますが、それにしてもコロナ不況が続く中で「どこ吹く風」とも思える活況です。

参考までに、その前日の3月24日に(株)東京カンテイが発表した「三大都市圏・主要都市別/中古マンション70?価格月別推移」( https://www.kantei.ne.jp/report/c202102.pdf )を見ても、やはり首都圏中古マンション平均価格は3,892万円(前月比+0.8%)で6ヶ月連続の上昇傾向にあることが報告されています(こちらは対象物件が70?と大型のため、平均価格がより高価となっています)。

もちろん、中古とはいえ、そもそもマンションを購入しようという層は一定以上の収入があるからだろう――とも考えられますが、賃貸住宅の家賃相場も同様です。同じ3月24日に、前出のアットホーム(株)が発表した「全国主要都市の『賃貸マンション・アパート』募集家賃動向(2021年2月)」( https://athome-inc.jp/wp-content/uploads/2021/03/2021032401.pdf )を見ても、千葉県、神奈川県を筆頭に、首都圏の募集家賃は軒並み上昇傾向にあることがわかります。とりわけ、千葉県では30?以下(シングル向き)から70?超(大型ファミリー向き)までの全面積帯で前年同月を上回り、30〜50?(カップル向き)以上のタイプではいずれも2015年1月以降で最高値を更新。神奈川県でも70?超のマンションは2015年1月以降の最高値を更新しています。
こうした現状を見る限り、コロナ不況が叫ばれる中でも、首都圏の不動産市場は売買・賃貸ともおおむね高値安定傾向にあると言えそうですが――ことシェアハウス大家さんにとっては、歓迎できる材料とは言い切れません。感染拡大防止のために個食・個住を推奨するコロナ時代においては、生活スペースの大半を他人とシェアすることで成り立つシェアハウスという住まい方は、明らかに時代に逆行していると考えられるからです。今回のコラムでご紹介した事例を見ても、シェアハウスは「貧困層救済」という視点でのみ捉えられており、残念ながら収益ビジネスとしての将来性を積極的に評価する声はほとんど聞かれません。シェアハウス大家さんとしては、まだまだ試練の季節が続きそうな気配です。
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