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第91回 三たびの緊急事態とシェアハウス

3月22日の「宣言解除」からわずか1ヶ月余りの4月25日、東京都は三たび「緊急事態宣言」を発出しました。もともと、緊急事態宣言より一段階低いとされる「まん延防止等特別措置」の適用が予定されていたものの、ちょうど京都府・大阪府・兵庫県の関西3自治体が緊急事態宣言を政府に要請するのにタイミングを合わせたようです。菅総理大臣も、小池都知事も、相変わらず「3密を回避せよ」「不要不急の外出を控えよ」と、この1年間ですっかり耳にタコができた決まり文句をくり返すばかり。あとは、十分な補償を伴わない時短・休業要請と、現場の受け入れ態勢の不備から一向に進まないワクチン接種……。その一方で、感染力が強く重症化リスクも高いという“変異株”の流行は本格化しつつあり、今回の宣言発出から10日と経たないうちに、早くも延長論が広がりつつあります。GWさ中の5月2・3・4日には、全国の重症者数が1,000人を超え、3日連続で過去最多を更新しました。医療崩壊はもはや現実のものとなり、入院が必要と診断されながらも病床に空きがないため、自宅待機中に死亡するケースも相次いでいます。こうした状況下にも関わらず――政府は五輪開催実現にひたすら血道を上げ、国民はGWに観光地や盛り場にくり出しては、路上で飲んで騒いでいる、というのが現実です。前回の緊急事態宣言は何ひとつ効果を上げることなく、2回も延長をくり返した挙げ句、なし崩しに解除されるという経緯を辿りましたが、今回もまた、同じ愚をくり返す恐れがないとは言い切れません。行政の施策がアテにならない以上、“自分の身は自分で守る”つもりでいたほうがいいでしょう。

さて、5月4日付の『熊本日日新聞』に「支援の輪、広がる『家』 東海大生が熊本市に開設、豪雨被災地への思い共有」( https://kumanichi.com/news/id217851 )という記事が掲載されました。今回はまず、このニュースから……例によって全文を引用しましょう。
「昨年7月の豪雨災害の被災地でボランティアを続ける東海大3年の前元盾哉[じゅんや]さん(21)が4月、熊本市にシェアハウスを開設した。きっかけは、人同士がつながることの大切さを知った被災地での経験。同じ志を持つ若者と共同生活し、支援の輪を広げている。
 大学OBに誘われ、関わるようになった被災地支援。新型コロナウイルスの流行によってボランティアが県内在住者に限られ、学生のアルバイトも減る中、クラウドファンディングを使って有償の学生ボランティアを派遣するプロジェクトの運営を任された。
 初めて人吉市に入ったのは豪雨の約3週間後。がれきだらけの市街地や泥に埋もれた民家、絶望に直面しつつも必死に生きようとする被災者を目の当たりにし、『自分にできることをここで続けなければ』と覚悟した。アルバイトをやめ、被災地に寝泊まりしながら泥かきや困り事の聞き取りを続けた。
 被災地で強く感じたことの一つは、時に強すぎるほどの地縁や共助の精神。『あん家は手付かずで困っとるけん、行ってやって』『軽トラは俺が出す。がれきば片付けよう』。自ら被災しながら、より苦しんでいる家庭に手を差し伸べる多くの人たちに出会った。
 もう一つは、仲間の大切さ。手探りで呼び掛けた学生ボランティアの登録は100人に上った。『思いを具体的に言葉にし、自ら動くことで、多くの学生や大人たちが力を貸してくれた』。『ボランティアバス』の運行は力を結集してできた成果の一つだ。
 前元さんは支援者同士の交流を通じ、食事しながら思いを語り合う場が大切だと思うようになった。その思いが、シェアハウスの開設につながった。
 見つけた物件は、熊本市西区の築40年の一戸建て住宅。前元さんの思いに触れた所有者が、安く貸してくれた。入居者5人それぞれに個室があり、台所や風呂などは共有。賃料と運営費用は5人の毎月の家賃でまかなっている。
 ほかの入居者は、被災地支援で知り合ったほかの大学の学生や、起業を志す若者ら。シェアハウスには英語の『追い風』にちなんで『FolloWINd」と名付けた。
 被災地支援や学業と並行しながら、入居者以外も立ち寄れる『コワーキングスペース』の準備も進める。目指すのは入居者の知人やその知人らが集い、被災地支援のアイデアやスキルを共有する場だ。『若い人たちが夢をかなえられるよう、つながる機会をたくさんつくりたい』
(堀江利雅 『熊本日日新聞』2021年05月04日 14時00分)」
なお、これに先立つ4月26日には、KSBグループの(株)瀬戸内海放送が運営する情報サイト『ほ・とせなNEWS』に「現役大学生が熊本にシェアハウス兼コワーキングスペースをオープン! 『学生の理想をカタチにする』場所に」( https://www.hotosena.com/article/14245514 )という記事が掲載されています。こちらは渡邊めぐみさんというフリーライターによる取材記事で、上記の『熊本日日新聞』の堀江記者とは少し違った角度から本件を取り上げています。興味のある方は合わせてご参照ください。

一方、GW直前の4月28日には、NHK札幌放送局の「ほっとニュース北海道」という番組で「ゲストハウスを若者がシェアハウスに」( https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-ncd737892a5bf )と題してこんなニュースが紹介されました。そもそも、「ゲストハウス」と「シェアハウス」とは「同じもの」もしくは「だいたい同じような意味」と認識していたので、このタイトルを見た時点で「?」となりましたが……。一部抜粋して引用してみましょう。
「海外の旅行客も多く利用していた札幌の宿泊施設・ゲストハウスが2月から6月までの期間限定で若者が共同生活を送るシェアハウスになっています。
コロナ禍を受けて施設を活用する方法を変えようという、その『変化』が、つながりを実感できるあたたかい場を生み出していました。滞在する若者たちをあたたかく見守ってきた施設の代表の1人にどんな思いを抱いて、その『変化』を決めたのか、話をうかがうことから取材を始めました。(中略)
(『ゲストハウス雪結』は) 短い期間の宿泊を受け入れる宿泊施設ゲストハウスとして、2016年にオープン。日本人だけでなく、東南アジアなど海外からくる人達でにぎわっていました。ところが新型コロナの感染拡大で状況が一変。去年11月の宿泊者は1か月間で3人にとどまるなど、厳しい経営を余儀なくされます。 
『これまで胆振東部地震の時など大変なこともいろいろあったが、過去こんなにひどい状況はない』
そう話すのはゲストハウスを運営する合同会社『Staylink』の共同代表、柴田涼平さんです。  宿泊での利用が増えることが見込めない中、ゲストハウス雪結をなんとか有効活用できないか考えていました。 (中略)
そんな中、イベントで知り合った若い大学生たちの言葉が柴田さんの心に刺さります。 
北海道教育大学2年生 鈴木うららさん「1日の終わりに何があったのかを共有できるような場所が作りたい」
北海道大学修士2年 瀬川康さん「ただのシェアハウスじゃなくて人と自分の思いを共有できるような、人と人とが結ばれるようなところを作りたい」
コロナ禍の状況で、直接会って、“密”なコミュニケーションをとるのが難しくなる中、人とつながりたい、自分らしくいられる場所が欲しい。という思いでした。
鈴木さんと瀬川さんは去年、 学生が中心になって運営している函館のシェアハウス「わらじ荘」を訪れていました。 対話を大切にして、住民同士がお互いを尊重しながら暮らしている姿に衝撃を受け、札幌でも「わらじ荘」のような場所に住みたい、 近くになければ作りたいと思いを募らせていたのです。
柴田さんはそんな2人の思いにこたえようと、 2月から4か月、繁忙期を迎えるまでの間、シェアハウスとして貸し出すことにしました。 そしてその運営も任せることにします。(中略) 
鈴木さんと瀬川さんはインターネットやSNSで住人を募集。 2人の思いに共感したメンバー16人が集まりました。 (中略)
いずれも人とつながり、未来を切り開こうとしている人たちでした。 そんな人たちが集まるシェアハウスでは…毎週日曜の夜、ミーティングが開催されています。 
シェアハウスを過ごしやすい場所にするためのルール作りや消毒の徹底や帰宅後の体温測定など新型コロナ感染防止対策、自分の仕事や大学で行うイベントの共有など議題は様々です。(中略)
あたたかく、つながりを実感しながら暮らせる場所を若者たちが自ら作り上げている姿をみた柴田さんは、「この場所をシェアハウスとして住めるのは施設の管理の事情もあって6月中旬までという区切りはあるが、ここで出会った人とのつながりや思いを交差させた時間はずっと残っていく。未来につながるものだ」と、ここで過ごした経験がこの先、生きる瞬間があることを信じています。(後略)
(『ほっとニュース北海道』 2021年4月28日 16時36分)」
図らずも、日本の南と北で、若い世代の学生さんたちによるシェアハウスの明るい話題をご紹介することになりましたが……それというのも、日本経済の中心である東京圏と関西圏がコロナ禍の真っただ中にあり、「明るい話題など、どこをどう探しても見つからない……」ということが大きいでしょう。また、いわゆるオトナ世代を代表する人びと、すなわち政治家や大企業経営者など各界のオピニオンリーダーたちが、国民に明確な指標を示せないということもあります。オトナ世代のはしくれとして、何とも忸怩たる思いですが……。

次にご紹介する2本の記事は、そんな“オトナ”とか“若者”といった世代がキーワードになるかもしれません。どちらも少し前の話題になりますが、まずは4月8日付の『朝日新聞デジタル』に掲載された「行き場のない女性にシェアハウス 横須賀に5月にも誕生」( https://www.asahi.com/articles/ASP476QZZP3RULOB01C.html )という記事から。以下、全文引用します。
「子ども以上大人未満の年齢は、虐待などから逃れて家を出たくても部屋を借りることすら難しい。中でも女性は行き場をなくした結果、心や体に傷を負うことも多い。そんな18歳から20代までの女性向けサポート付きシェアハウスが、5月にも神奈川県横須賀市に誕生する。安心して暮らせる屋根の下で、仲間と未来を探すその場所は『ステップハウス アマヤドリ』だ。
 小学校や高校の養護教諭だった菊池操さん(37)らが運営する一軒家は静かな住宅地にあり、築38年ながら数年前に改装済みの明るく清潔な4LDK。趣旨に賛同した所有者から、格安で借りることができた。
 窓辺に海で拾った流木や植木を飾り、カーテンが揺れる室内。“シェルター”の殺風景な印象はない。1階は共用の台所とリビング、和室。2階は二段ベッドなどが置かれた1〜4人用の3部屋で、最大7人が住める。冷蔵庫やテレビなど家電から家具、食器、寝具までそろい、フードバンクなどから支援されたコメや缶詰、レトルト食品なども自由に食べられる。
 居住期間は最長2年。敷金礼金はなく、光熱費(月額1万円)のほかは家賃が同3万8千円〜5万2千円だが、最初の半年までは前月収入の25%を払えばOK。その間にキャリア支援面談などで就労を後押しし、経済的な自立も促す。常駐スタッフは当面置かず、入居者だけの共同生活だが、菊池さんらの個人面談や全員が集まるミーティング、料理教室などを定期的に開催し、物心両面で入居者を支える。
 アマヤドリの名前には『人生に降り続く雨はなく、一休みで気力、体力を取り戻して再出発しよう』との願いを込めた。菊池さんは、以前勤めていた高校で卒業生から『死にたい』『妊娠してしまった』などの相談を相次いで受けた。家庭も裕福で才気あふれる子が親との関係につまずき、行き場を失うこともあった。気がつけばコロナ禍で親子とも在宅時間が増え、煮詰まって暴発しそうな在校生も大勢いた。
 菊池さん自身、両親の不和やいじめで『家を出たい』と切望した。養護教諭になったのも、学校に子どもの居場所を作ろうと考えたから。個々の相談に乗るだけでは根本的な解決にならない。その思いで『親とちょっと距離を置くという選択肢を提供しよう』と、IT企業カヤックが運営する県の起業支援拠点『HATSU鎌倉』に応募した。
 シェアハウスの事業化に必要な知識を教わり、人脈もできた。具体的に構想を語ると、近所のママ友が『手伝えるよ』と運営に加わってくれた。準備費用の100万円は、自己資金の50万円に匿名の寄付を加えて調達。ソファもテーブルも家電も額絵も生理用品もSNSで寄付を呼びかけ、あっという間に集まった。『助けたい気持ちはみんなにある。支えてくれる人がいることで、「1人じゃないよ」と伝わります。ありがたい』と菊池さん。
 18歳は児童福祉法の保護対象からは外れるのに『未成年』。保護者の同意なく入居した場合の法的事態への対応など詰めておくべき課題は多い。身近なアマヤドリ経験者をリーダー格として同居させたい。一生懸命な親も苦しんでいるのだからサポートしたい――。半年強で構想を実現した菊池さんの計画は、まだまだ膨らむ。『主役は困っている子たち。大人みんなで応援するよ、と伝えたい』
 入居相談など、問い合わせはホームページ(https://www.amayadori-official.net別ウインドウで開きます)からメールで。(織井優佳 『朝日新聞デジタル』2021年4月8日 10時30分)

もう1本は、4月10日付の『週刊高齢者住宅新聞Online』に掲載された「“仕事付き”高齢者専用シェアハウス 空き家を行政がマッチング」( https://www.koureisha-jutaku.com/newspaper/synthesis/20210324_01_1/ )という記事。こちらは一部抜粋して引用します。
「一般社団法人生涯現役ハウス(東京都江戸川区)は3月、空き家を活用した単身で自立の高齢女性専用シェアハウス『仕事付き高齢者住宅フローラ西一之江』(同)を開設した。住宅の確保が難しい単身高齢者を受け入れるほか、就労希望者には仕事探しのサポートを行うのが特徴。5月を目途に入居が始まる予定だ。(中略)
フローラ西一之江は、住宅街にある2階建ての築30年の戸建て住宅をシェアハウスに改装したもの。(中略)
建物の2階部分が入居者の個室となっている。居室は洋室2 室(13.6及び14.7平米)、和室2室(8.8及び16.2平米)の4部屋。1階部分はキッチン、リビング、風呂などの共用部。テレワークなどに使用できるワーキングスペースも用意されている。インターネットは無料で使用可能だ。
個室にはエアコン、共用部には洗濯機、冷蔵庫などの家電を完備。生活上の悩みについては、『LINE』を活用し、いつでも生涯現役ハウスに相談できる体制としている。賃料は共益費込みで月額4万6500円から6万7000円。
入居時に無職でも部屋を借りられるが、仕事を探す意思があることが条件となっている。その場合は、元気高齢者の職業紹介を手掛けるかい援隊本部(同品川区)の協力で、有料老人ホームの居室内清掃を行う生活支援スタッフなど、かい援隊本部の求人を紹介する。
持田昇一代表理事は、『私は現在60代だが、数年前に都内へと引っ越しをする際に、賃貸への入居を断られ住居の確保に苦労した。その経験から高齢者の住まいの課題を解消したいという思いがあった』と語る。
また、高齢者などの『住む場所』の確保が難しい人がいる一方で、現在、『住む人』がいない空き家が社会問題となっていると指摘し、『その2つを同時に解決できることに気づき、今回の取り組みに至った』とした。
シェアハウスへの改修費用は300万円で、生涯現役ハウスの基金から拠出した。その内、100万円は江戸川区の『空き家改修工事等助成事業』の助成金、残りは家賃収入からの償却で回収していく。(中略)
持田代表理事は今後、フローラ西一之江をモデルに全国でこの仕事付き高齢者向けシェアハウスを展開していく方針だ。『高齢者施設などとも連携して、身体状況に応じて、自宅からフローラ西一之江、次は高齢者施設というように住み替えながら、最期まで地域のコミュニティの中で暮らせる環境を実現したいと思う』と語った。
(『週刊高齢者住宅新聞 2021年3月24日号』2021年4月10日)」
なお、この『週刊高齢者住宅新聞』というのは、発行元である(株)高齢者住宅新聞社が「 高齢者の住まいと介護・医療を考える」というコンセプトの下に2006年4月に創刊した媒体です。『朝日新聞デジタル』の記事に書かれた「未成年者」と、こちらの記事で取り上げている「単身高齢者」に共通するのは、いずれも「住宅の確保が困難である」ということ。以前、当コラムで取り上げた記事に出てきた造語によれば、いわゆる「住宅弱者」ということになるでしょう。しかし、今回取り上げた記事では、どちらも「悲惨な状況にある弱者の救済・支援」といった上から目線の取り組みではなく、「困っている人に寄り添い、手を取り合い、支え合って共に立ち上がろう」という姿勢が感じられます。その過程で多くの困難は予想されるにせよ、困難を乗り越えた先にある「希望」が伝わってくるようです。それは、この期に及んで五輪開催に固執することなどより、はるかに現実的で地に足のついた希望ではないでしょうか。
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