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シェアハウス コロナ 緊急事態宣言 延長 貧困 奨学金

第94回 コロナ禍とシェアハウス(人助け編)

早いもので、開催直前まであれほど論議を巻き起こした東京オリンピック・パラリンピックも、今やすっかり過去の出来事となりました。開催前と比べて一番変わったのは、誰一人として「オリ・パラの経済効果」について触れようとしないこと。あれだけ国民の血税を湯水のように注ぎ込んでおいて、いったい、どれだけの赤字を計上したのでしょうか? そして、そのツケはいつ頃、どんな形で国民に回ってくるのでしょうか? 想像するだにそら恐ろしい気がします。パラリンピック閉幕後、メディアの話題はすっかり秋の総選挙を見据えた自民党総裁選一色となっておりましたが、現職の菅義偉総理が出馬を断念したことにより、政局の行方はますます混沌として参りました。こうした中で、少しでも明るい話題を探すなら、「全国民のワクチン接種率が過半数を超えた」ことや、それと明確な因果関係があるかどうかは定かではないものの、「9月以降、新規感染者数がいくらか減少傾向にある」ということくらいでしょうか。とはいえ、より感染力の強い変異株が次々と国内でも確認されている現状ですから、ワクチンを2回接種したからといって、必ずしも安心できるわけではないようです。

さて、今回もコロナ禍におけるシェアハウス関連のニュースから見て参りましょう。
まずは、いささか不真面目な記事を取り上げてみたいと思います。これは、(株)ソシオコーポレーションという会社が運営している『ロケットニュース24』というニュースサイト(?)に9月11日付で掲載された「【知りたい】コロナ禍の『シェアハウス』はどうなっているのか? 3人でシェアハウスする男性(30歳)の場合」( https://rocketnews24.com/2021/09/11/1536245/ )という記事。とりあえず、その導入部分を引用してみましょう。
「新型コロナウイルスのバタバタのせいで忘れてしまっていたが、そういえばコロナ禍になる前『シェアハウス』はちょっとしたトレンドだった。1つ屋根の下、見知らぬ者同士が始める共同生活……正直、めっちゃ憧れてます。
つい先日、ふとした瞬間に『そういえばシェアハウスはコロナでどうなってるんだろう?』なんて疑問が湧いてきた。今回は男性3人でシェアハウス生活を送る男性(30歳)に話を聞くことが出来たのでお知らせしたい。」
いかにも肩の力の抜けた、くだけた語り口調ですが、それはともかく、内容については少々疑問符も浮かびます。そして、それが決定的になるのが、以下の本文の出だし。
「トレンドだったシェアハウス
シェアハウスがインターネットやメディアで話題になったのは2019年頃。(以下略)」
当コラムは2011年4月から、その前身である「今月の不動産コラム」に至っては2009年9月から連載されていますが、シェアハウスが「トレンド」であったり、「インターネットやメディアで話題」になったのは、どう考えても2019年よりもずっと以前の話になります。あの「かぼちゃの馬車」事件ですら2018年の出来事なのですから、いったいどこの国の話をしているのか? と思わずツッコミを入れたくなってしまいます。そこで、同サイトについて調べてみると、運営元によるこんな自己紹介が見つかりました。
「ロケットニュース24は、あまり新しくないことを早く伝えたい、という気持ちだけは負けていないネットメディアです。お金や知名度、人脈はないけれども、くだらなくて、おもしろい出来事などを、8割くらいの力でお届けします。」
よくよく見れば、サイトロゴの上にも「昨日のニュースをいち早くお届けしたい」とあり、どうやら運営元自身が今さら感のある古い話題を取り上げている自覚があるようです。わざわざ「人脈」もないことを謳っているくらいですから、内容の信憑性については考慮するまでもなさそうです。おそらくは創作、あるいはせいぜい又聞きといったレベルなのでしょうが、この時代錯誤な書き手のスタンスが逆に「くだらなくて、おもしろい」と感じたもので、ついつい取り上げてしまいました。

次にご紹介するのは、9月5日付の『朝日新聞デジタル』に掲載された「地域でがんばる姿、奨学金につながる コロナ禍の留学生のために創設」( https://www.asahi.com/articles/ASP9471V0P91PIHB00W.html )という記事。以下、抜粋して引用します。
「コロナ禍でアルバイトが減り、学費の支払いに苦しむ外国人留学生たちを助けようと、神戸市の女性がそんな給付型の奨学金を創設した。選考基準は日本語能力でも試験の点数でもなく、手伝いに行った地元企業での働きぶり。女性は、奨学金に充てる資金の寄付を呼びかけている。
神戸市兵庫区にある国際交流シェアハウス『やどかり』を運営する中野みゆきさん(37)。昨年、ここで生活していたインドネシア人の女子留学生から『学内の奨学金の最終選考で落ちた』と打ち明けられたことが、きっかけだった。(中略)
秋は、日本語学校に通う2年生にとって厳しい季節だ。進学先の大学や専門学校の入学金と、日本語学校の後期の学費の支払いが重なる。留学生は時給の高い夜勤などで学費を稼ぐが、コロナ禍で今はアルバイトもままならない。
そこで、中野さんが奨学金をつくることにした。
こだわったのが選考過程。地元の兵庫区役所やスポーツジム、自動車販売店などで留学生を受け入れてもらい、取り組む姿勢や実績などを評価してもらう。その点数が受け取る奨学金の額に反映される仕組みだ。
ベトナム人とミャンマー人計7人が応募し、地元企業に派遣されている。給付額は一人最大20万円。今月18日に最終面接がある。
奨学金の原資となる300万円を寄付で募っている。中野さんは『応募している7人はコロナ禍でも日本で学びたいと来日してきた生徒たち。大学や専門学校に進学できるよう力を貸して』と呼びかけている。(中略)
奨学金に応募した留学生の中には、2月に国軍のクーデターがあったミャンマー出身の留学生もいる。
テッテッモーさん(24)は昨年10月に来日し、神戸市内の日本語学校に入学した。ミャンマーでは大学で数学を専攻し、卒業後はスマホゲームの制作会社で働いた。日本でプログラミングを学びたいと、留学を決めた。
学費は両親が送金してくれていた。ただ、クーデターで状況が一変。母国の銀行は閉鎖され、両親が送金できなくなってしまった。野菜工場のアルバイトでは、月の収入は5万円ほど。学費と生活費はまかないきれず、区役所で特例貸し付けを受けて学費を支払おうと考えている。(中略)
テッテッモーさんは『今はミャンマーには帰られないので、日本で頑張るしかない。日本の人たちに助けてほしい』と話す。(遠藤美波/2021年9月5日 9時30分)」
一読しておわかりのように、これはシェアハウスに関するニュースというより、「あるシェアハウス大家さんが入居者のためにクラウドファンディングで奨学金をつくろうとしている」というニュースです。いわゆる「国際交流シェアハウス」は、シェアハウス経営の差別化戦略としては効果的な手法と考えられ、現在も全国で一定数のハウスが稼働中ですが、昨今のコロナ禍で経営困難に陥っているところも少なくないと思われます。この事例の大家さんは、入居者の経済的困窮に伴う家賃収入の減収をどのように補填しているのか、この記事からは読み取れませんが――家賃とは別に収入源を持っているか、過去の家賃収入による留保分あるいは個人の貯蓄等を切り崩すことで当面の運転資金に不安がないのであれば、入居者のためにひと肌脱いでくれる面倒見のいい大家さん、というのは、じつに魅力的な存在に思えます。願わくは、彼女の純粋な善意が踏みにじられる世の中ではないことを祈ります。

続いて、『朝日新聞デジタル』からもう一本、9月1日付の「若年女性のシェアハウス、大阪府営住宅にオープン 自立を支援」( https://www.asahi.com/articles/ASP913HYSP8XPIHB00B.html )という記事を一部抜粋してご紹介しておきましょう。
「家族の暴力や貧困など様々な事情で安住できる家がない10〜20代女性を対象に、大阪府営住宅を使った初のシェアハウスが1日、茨木市内に開設された。市と地域住民、不動産業者の連携で実現した。女性の自立を支援し、公営住宅の空室対策も兼ねる取り組みで、関係者は他の自治体への広がりを期待する。
シェアハウスは3LDK(約70平方メートル)で、3人での共用を想定。4・5〜6畳の3部屋を個室として使い、16畳のLDKや風呂、トイレを共用する。家賃は光熱水費やネット通信料など込みで1人月2万5千円。ベッドや家電は備え付けられ、敷金・礼金、保証人が不要で即入居が可能だ。
茨木市に住む社会福祉士の辻由起子さん(47)は、シェアハウスの開設を主導した一人。住む家がない10〜20代の女性を支援してきたが、自立を妨げる大きな要因の一つが『住所』がないことだった。役所の手続きや就職活動など自立への一歩を踏み出すことが難しくなる。
住む家がなく、友人や男性宅を転々とするうちに妊娠したりトラブルに巻き込まれたりして困窮した女性は、貯金がなく保証人もいないため、賃貸住宅を借りられず住所をつくれないことが多い。辻さんは『身分証がない子は生きていけない』と困難を訴えてきた。
辻さんの訴えで動いたのが、兵庫県尼崎市に本社を置く不動産業者『アドミリ』の菊竹貴史社長(44)だ。(中略)
2人が専門家を交えて協議してたどり着いたのが、府営住宅の『目的外使用』だった。
府営住宅は原則、高齢や障害などの理由を除き単身者は入居できない。目的外使用は、空室活用のため住居以外にも使えるよう国が承認する制度だ。府内では、障害者のグループホームや介護を学ぶ外国人技能実習生らの寮、子ども食堂などに約600戸が使われている。シェアハウスは、茨木市の後押しを得てこの枠組みを利用した。
アドミリが、年約60万円の使用料を払って府営住宅を借り受け、居住者に貸して家賃を受け取る。居住者は、家賃負担を抑えて家を確保し、支援者や市の手助けを得ながら自立をめざすことができる。
辻さんは『若い女性が自立しようとしても行政の支援の選択肢は少なく、施設に入るか生活保護を受けるしかなかった。入居しやすく安心して暮らせる場ができたのは大きな一歩』と喜ぶ。入居の相談は『アドミリ』のウェブサイトや市の窓口で受け付ける。
初期費用を含めて持ち出しもある菊竹さんも『支援者や行政と連携して展開できる安心感は事業者にもメリット』という。府営住宅は約12万戸あり、空室は約1割の1万2千戸ほどにのぼる。『もてあますのはもったいない。空室の有効活用にもなる』と話した。(後略)
(中塚久美子/2021年9月1日 13時00分)」
こちらの事例では、シェアハウスを運営する不動産業者が、当面は持ち出しがあっても「事業者にもメリット」がある、と語っているのが興味深いポイントです。偶然ながら、今回ご紹介した『朝日新聞デジタル』の記事はどちらも関西圏での事例でしたが、現状のいわゆる「第5波」、あるいは五輪開幕直前から延長、延長が続いている通算4回目の緊急事態宣言の発端となったエリアだけに、生活が困窮している人も多く、こうした民間レベルでの取り組みに対する行政の理解も早いのかもしれません。また、困っている人への同情などの綺麗事ではなく、事業者側のメリットにも言及している点が、かえって信頼感を高めることにつながっています。「損して得取れ」の精神というか、いかにもしたたかな「大阪商人」の頼もしさが感じられます。「世のため人のため」という善意は尊いものですが、それだけでは自分の生活が成り立ちません。困っている人を助けるためにも、まずは自分自身のメリットをしっかり担保しておくことが大切です。
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