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第96回 コロナ禍とシェアハウス(報道編)

国内のコロナ禍がどうやら一段落したのも束の間、海の向こうでは新たな変異株「オミクロン株」とやらが猛威を振るっていると聞こえています。ネット等の噂(?)によれば、「感染力はデルタ株よりさらに強力。空気感染もするらしい」「ワクチン接種による免疫を無効化して(あるいはすり抜けて)再感染、再々感染するそうだ」など、いかにも恐ろしげな話が聞こえてきます。11月末現在、国内でのオミクロン株感染例は報告されておりませんが、政府の言うところの「水際対策」が役に立った試しはありませんから、いずれ国内でも発見されるでしょうし、遠からず感染拡大の恐怖と直面しなければならなくなるかもしれません。これは何も悲観論で言うのではなく、現実的に考えて、ウイルスの侵入というものはそうたやすく防げるものではないし、ウイルスも入ってこられないほど海外との交流を完全に断絶してしまっては、日本という国は立ち行かないからです。食料も、燃料も、加工品の原料も、自給率の低い日本では国内だけでは賄うことができません。オミクロン株については、今後の研究によっておいおいわかってくることもあるでしょうから、必要以上に恐れる必要はないとも考えられますが、当面はできるだけ警戒しておくに越したことはないでしょう。

さて、今年も1年間、けっきょくはコロナ禍に翻弄されてきた年でしたが、ワクチン接種率が上がったことや、新型コロナウイルスに対する世間の理解が進んできたこともあって、少なくとも1年前に比べれば、だいぶ落ち着いてきたと言っていいでしょう。こうした中で、「シェアハウス」というテーマについても、いろいろな事例が報じられるようになってきました。そこで今回は、『朝日新聞デジタル』の最近のニュースから、参考になりそうなケーススタディをいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。まずは、11月28日付で掲載された「悩む若者らに寄り添う 田辺市の法人代表理事 峯上良平さん」( https://www.asahi.com/articles/ASPCW6R2LPCKPXLB003.html )という勝部真一記者の記事から。例によって、全文引用します。
「生きづらさを抱えた若者たち。かつての自分自身が重なる彼らを支援する一般社団法人『Gifted Creative(ギフテッドクリエーティブ)』(和歌山県田辺市)の代表理事を峯上良平さん(32)は務めている。
 活動を始めたのは2018年。ひきこもりやニート、うつに悩む若者らに寄り添い、居場所づくりや就労の後押しなど、50人以上を見守ってきた。
 19年6月からはシェアハウスを運営。11月1日にオープンした4軒目を含め、東京や神奈川、大阪、山口など全国からやってきた計13人が暮らす。『生活リズムを整え、体力づくりや人との接し方など、課題を一つ一つクリアしていくようにしている』
 希望する職種に就けるようにマッチングする。受け入れ先は企業や飲食店、福祉施設など。テレワークを含め20社以上に広がった。『これまでに就労したメンバーのがんばりが実績になった』。ただ、働いてみて合わなければ、無理に続けることを本人にも就労先にも求めない。『お互いにハードルを低くすることが大切。三方よしの形です』
 田辺市の梅農家で育った。高等専門学校を卒業後、大手企業にシステムエンジニアとして就職したが、1年ほどでうつになり退職。実家に戻り1年ほどひきこもった。徐々に実家の手伝いしながら、趣味だった時計の修理や販売を始めた。
 時計職人として自立できるようになった26歳のころ、東京で働いていた高専時代の友人が過労自殺した。『勉強を教わるなど恩があったけど、何も返せなかった』。その友人の姉が話した『(弟に)居場所があれば死なずにすんだのかも』という言葉が今の活動につながった。今後は、農業の力で心の不調を改善する『農心連携』にも取り組んでいくという」(勝部真一/2021年11月28日 10時00分更新)

一読しておわかりのように、この記事ではコロナ禍以前からもともと「生きづらさを抱える若者に居場所をつくる」という目的を掲げて活動してきた一個人の取り組みを紹介しているわけで、コロナ禍もシェアハウスも、副次的に触れられているだけです。記事中には「テレワーク」という単語も登場しますが、これもコロナ禍に対応しての試みなのか、以前から普通にやっていたことなのかは、この文中からはわかりません。逆に言えば、こうした「日常における取り組み」に記者の関心が向けられるようになったのは、それだけコロナ禍という異常事態が、がいわば前提条件として世の中に当たり前に受け入れられるようになってきたということの証明なのかもしれません。

次にご紹介するのは、11月26日付の「五右衛門風呂やピザ窯 空き家を再生、シェアハウスとイベント空間に」( https://www.asahi.com/articles/ASPCT7DWWPC8UZOB00D.html )という平山亜理記者の記事。これは一部抜粋して引用してみましょう。
「荒れ果てた甲府市内の3棟の空き家が、魅力的なシェアハウスやイベント空間に生まれ変わった。土壁やしっくいを使った建物には、五右衛門風呂やピザ窯もある。和洋折衷のユニークな建物で農業も芸術も楽しめる暮らし。空き家率が全国一という山梨県での試みだ。
 『結〜yui』と題したプロジェクト。JR甲府駅に近い愛宕山の中腹にある空き家のリノベーションが9月に完成した。建築設計事務所『SHOEI』の社長大原勝一さん(57)が中心になり、累計で300人ほどがボランティアでしっくいや土壁を塗る作業にも参加した。
 囲炉裏や茶室もあれば、ロシアの暖房器具であるペチカやピザ窯もある。昭和初期の窓ガラスを使ったり、フランス製の古い鏡を洗面所に置いたりし古いものを生かす。盆地を見下ろし、富士山も見える。中庭には上ってくる月を見られるイスも用意し、『月待ちの席』と名づけた。日本の船で使われていた昭和のランプを置き、日が暮れれば、自動的に点灯するようにしている。
 大原さんは『古民家のディズニーランドみたい』と言う。『小さい子どもから大人まで、国籍を問わず楽しめると思う』
(中略)
 去年、県の『空き家活用促進事業』の第1号に認定され、大原さんが中心になり、年末から改修を始め、完成させた。施設整備のため県から補助金が出ており、10年以上はこの場所を地域活性化のため活用することになっている。
 木造平屋建ては1ヶ月以上の入居が出来るシェアハウスで、4人が入居できる。鉄筋コンクリートの棟は1年以上の入居が条件で、4人が住める。家賃は1人4万5千円から。今年12月と来年2月から入居が可能だ。
 家の前にある農地では、綿を育てて布を作り、有機野菜も栽培する。地域の人が交流できる持続可能な暮らしをしたいという。
 昔の日本の生活を日常に取り込みながら暮らす。将来的には、アーティストが滞在しながら、創作する場所としても利用してもらいたいという。大原さんは、『農業とアートを中心に新しい地方の豊かさを一緒に探したい』と話す。(後略)」(平山亜理/2021年11月26日 11時00分)

こちらも同様ですね。テーマは「空き家対策」「古民家再生」ということで、文中にはコロナ禍を連想させる記述は一切ありません。さらには、居住目的というよりはどちらかと言えば滞在目的の物件として運営されているように読めます(住む・暮らすための場所に「ディズニーランド」という比喩は普通使わないでしょうから)。「10年以上の活用」「1ヶ月以上の入居」といった記述からも、永続的な利用を想定していないことは明らかです。

もう1本、こちらは1ヶ月前のやや旧聞に属するニュースになってしまいますが、「シェアハウスが作る『小さな社会』 血縁・属性…違っても支え合える」( https://www.asahi.com/articles/ASPBY729CPBWUTIL05F.html )という、御船紗子記者の記事をご紹介しておきます。
「東京都中野区内の駅から程近い場所に、シェアハウス『東京フルハウス』はある。入居者計13人は全員30代以下。大学生、会社員、政治家秘書、数学者……。リノベーションを繰り返した家屋は『築年数不明』。隣り合う3階建て住宅2棟に分かれて住んでいる。
 血縁もなく、属性も異なる人々が偶然に集い、一つ屋根の下で一緒に暮らす。一見、独特なコミュニティーにも思えるが、屋根と壁を取っ払って考えてみれば、そこには私たちが身を置く社会と何ら変わらない世界が広がっている。
 『ゲームしまって』。夕方、共用スペースの居間で茂原奈央美さん(36)が息子の醍慈(だいじ)くん(4)に呼びかけた。夫の栗山和基さん(39)が食卓に皿を並べて夕食が始まる。夫妻はこのシェアハウスの運営者。2014年に結婚し、高田馬場、西新宿と移り住んで3ヶ所目の運営になる。
 板張りの居間の一角には台所。空くのを待ってから、建築家の男性がギョーザを包み始めた。食卓の傍らにあるソファでは、Tシャツ姿の31歳の男性が漫画を読んでいる。
 誰かと接したければ接し、1人で過ごしたければそうする。居間は騒がしくもあり、どこか静かでもある。大好きなビールで晩酌をしていた26歳の会社員と、明るい金髪の20歳の大学生の男性2人が、風呂上がりの醍慈くんと遊んでいる。奈央美さんはその間に家事を片付け、建築家の男性はひとり、焼き上がったギョーザを口に運んだ。
 居間のほか、風呂やトイレも共用。家賃は、広さごとに4万〜11万5千円。住人は東京フルハウスの口座に振り込み、夫妻が大家に支払う。共益費1万2千円は、光熱費やゴミ袋代のほか、コメや調味料などの購入代金になる。
 緩やかにつながり合うシェアハウスには、『明文化されたルールはない』(和基さん)。お互いの配慮の積み重ねで、日々の暮らしが回っていく。
 『知らぬ間に廊下がきれいになっていたり、ゴミ出しが終わっていたり。私は何をすればいいのか最初は戸惑った』と、5年前に入居した女性。奈央美さんは『紙ゴミの日、お願い』と依頼した。別の男性は『ライフスタイルがなんとなく決まっている。お互いの邪魔にならないように』と、自分なりのルールを話す。
 奈央美さんにとって、この暮らしは『セーフティーネットの役割もある』という。自分が体調を崩したとき、入居者が醍慈くんの面倒を見てくれた。『昔は親戚や近所ぐるみで育児していた。シェアハウスはそれに近いのかも』
 若者の人生設計にも影響を与えている。大学2年の浅井伶夫(れお)さん(20)は、子育てを身近に感じることで、将来への考え方が変わったという。入居時に2歳だった醍慈くんが、大人たちと元気にしゃべり合っている。『親になることを、同世代の友人よりも解像度が高く捉えられている』。窮屈に思えた結婚も、今では『ありだな』と思う。
 『入居してすぐは距離があっても、だんだん自我が溶け合って、お互いに甘えていいんだと気づく。少しずつ迷惑をかけあい、お互いに尊敬し合っている』。家の中に広がるこの小さな社会を、和基さんはこう表現している」(御船紗子/2021年10月30日 10時30分)

こちらは23区内の物件ですが、同じくコロナ禍への言及は一切ありません。文中に登場する女性入居者は5年、20歳の大学生でさえ2年はこの物件に居住しているようですから、昨年から今年にかけてのコロナ禍を同じ場所で過ごしてきたはずですが、たとえば緊急事態宣言下で、お互いに長時間在宅していた時期にどのような日常を送ってきたのかは一言も触れられていません。記者が取材した時期、記事が掲載された時期が、すでにコロナ禍以前の日常に回帰していた時期だったから……という理由であると思われますが、それにしても、誰一人口にしないのはいささか不自然です。おそらく、取材時にはいくらかそういう趣旨の発言もあったものの、記事にする段階でカットされているものと推測できます。

もちろん、文字数の限られた新聞記事では、テーマにそぐわない内容はカットされてしかるべきですが、不特定多数の赤の他人が一つ屋根の下で暮らす環境で、昨今のコロナ禍の影響がないとか、ハウス内での感染対策が講じられていないとかいうことは、常識的に考えてありえません。そこに一切触れられていない、ということは、「触れるまでもない」「いちいち断る必要もない」と、記者個人なり、もしくは記事を掲載するメディアなりがそう判断しているということにほかなりません。それが良いことなのか、そうでないかは、人によって考え方が異なるでしょうが……。

冒頭で触れたオミクロン株の話題ではありませんが、海外における感染拡大も含めて、まだまだ完全に安心できる状況ではない以上、コロナ禍を「終わったもの」「過去の話題」であるかのようにスルーしてしまうのは如何なものかと思ってしまいます。
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