12月8日に岸田首相が表明した「防衛費増額」と、その財源として「2027年度以降に不足する年4兆円分のうち、1兆円余りを『新たな増税』でまかなう」との方針を打ち出したことで、世論は沸騰しました。自民党内部からも西村経産相、高市経済安保相らが疑問や反対の声を上げており、さらに、13日に開催された自民党役員会の場で岸田首相が増税について「今を生きる国民が自らの責任としてしっかりその重みを背負って対応すべきものである」と発言した――と報じられると、たちまち火に油を注ぐ結果となりました。政府は慌てて翌14日「総理は『国民が』ではなく『我々が』と発言した。『我々』とは『今の私たちの世代』という意図であり、それを茂木幹事長が役員会終了後の記者会見で誤って(元通りの原稿のまま?)『国民が』と言ってしまったのだ」云々と、弁解としか聞こえないような訂正を発表していますが――その後の報道の推移を見るにつけ、どうも意図的に「論点ずらし」を狙った訂正のように思えてなりません。問われるべきはあくまで「増税の是非」であるはずで、言葉尻はどうでもよいはず。とはいえ、このような国民感情を逆なでする言い方では、すんなり受け入れられるはずがないのも当然でしょうが……。その一方で、自民党内部の反岸田派や野党各党では、これを利用しての「岸田下ろし」を画策しているようですが、これも一見、国民の意に沿っているようで、必ずしもそんなことはありません。国民が望んでいるのは安心・安全な暮らしであり、そのためには何を措いても景気回復が最優先のはず。防衛力強化も必要かもしれませんが、国民の生活を圧迫せずにそれができないということであれば本末転倒でしょう。どこかの国のように、際限のない防衛費増額の犠牲となって、守られるべき国民が飢えて死んでいくようなことがあってはならないと思います。
さて、気を取り直して、直近のニュースからシェアハウス大家さんとも関連の深い話題をいくつか紹介して参りましょう。まずは、12月12日に(公財)東日本不動産流通機構が発表した「2022年11月度の首都圏不動産流通市場動向」(
http://www.reins.or.jp/pdf/trend/mw/mw_202211_summary.pdf )から。これによると、11月の首都圏中古(既存)マンション成約件数は2,797件(前年同月比18.1%減)で、2ヶ月連続の2ケタ減少となりました。内訳は、東京都が同16.7%減、埼玉県が同14.5%減、千葉県が同24.8%減、神奈川県が同19.3%減で、1都3県全域で2ケタ減少しています。また、1平米当たりの成約単価は31ヶ月連続で上昇し、戸当たり平均価格も30ヶ月連続で前年同月を上回っています。一方、東日本レインズの在庫件数は同16.3%増と10ヶ月連続で増加し、直近は6ヶ月連続の2ケタ増となっています。早い話が、首都圏の中古(既存)マンションはここ2年以上価格が高騰し、それに伴って成約は減り、在庫は増え続けているという状況です。これは戸建て住宅も同様で、既存戸建ての成約件数は11ヶ月連続で減少し、平均成約価格は25ヶ月連続の上昇となっています。買い手側は高いから家が買えない。売り手側は数が捌けない分、売れる家の価格を上げなければ利益が出ない。その結果、ますます家が売れなくなる――という、典型的な悪循環に陥っていることがわかります。
この傾向は首都圏だけでなく、全国的に見てもおおむね同様のようです。同じ12月12日に(公財)不動産流通推進センターが発表した「指定流通機構の物件動向(令和4年11月)」(
https://www.retpc.jp/wp-content/uploads/reins/bukken/bukken2211.pdf )によると、全国の指定流通機構における2022年11月の既存住宅の成約動向は、既存マンションは成約価格、1平米単価ともに30ヶ月連続で前年同月比上昇。成約件数は2ヶ月連続で減少しています。一方、既存戸建ては、成約価格こそ29ヶ月ぶりに下落に転じたものの、その下落幅は前年同月比わずか0.08%でした。また、直近2ヶ月はわずかに増加していた成約件数も3ヶ月ぶりに減少に転じています。これを要するに、首都圏の住宅価格高騰を受けて地方へ流れていたニーズが、ここへきてついに限界に達しつつある……といったところでしょうか。もともと年末年始は不動産売買の閑散期に当たりますから、ここしばらくは全国的に「家が売れない」厳しい状況が続くことが予想されます。既存住宅が売れない、という状況は、買い替え需要の鈍化にもつながり、新築住宅の販売にも影響します。一時期の円安不況はようやく緩和された感がありますが、こうした状況下での大増税案は、景気の冷え込みにますます拍車をかけることにもなりかねません。
ここで少々目先を変えて、シェアハウス向けの新たな取り組みの話題をご紹介しましょう。Rsmile(アールスマイル)株式会社という民間企業が同じ12月12日に発行したプレスリリース(
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000054.000068923.html )によると、同社は『COSOJI(こそーじ)』というサービスの一環として、新たにシェアハウス向けの「日常清掃および備品交換」を中心とするサービスの提供を開始したとのことです。この『COSOJI』というのは、「不動産管理業務における受発注や工程管理の仕組みおよびデータ管理に加え、各地域の工務店や作業員への発注までをワンストップで行なえるサービス」とのことです。これだけだとちょっと要領を得ない説明ですが、同社は例の「かぼちゃの馬車」ブランドのシェアハウスの再生案件にも取り組んでいるという実績があるようなので、興味のある方はリンク先を参照されると良いでしょう。
もう1本、これは地方でのシェアハウス関連の取り組み事例についてご紹介しておきます。12月5日付の『全国賃貸住宅新聞』に掲載された「Break Room、空き家活用で社会課題を解消」(
https://www.zenchin.com/news/break-room.php )というタイトルの記事になります。以下、抜粋して引用します。
「ウェブマーケティングや不動産賃貸事業を行うBreak Room(ブレイクルーム:福岡市)は10月、空き家を『シェアハウス』と『子ども食堂』として活用するプロジェクト『Break Room』を開始した。
(中略)
2023年3月の開設に向け、クラウドファンディング(以下、クラファン)で22年10月から支援者を募った。
(中略)
シェアハウス開設を計画する物件は、広島県呉市にある築76年の木造平屋の空き家。延べ床面積は59.50?。現在の間取りは3Kだが、居室3部屋とダイニングキッチン一つに区切り直し、DIYで3DKに改修する予定だ。
ダイニングキッチンは、住人の共用部として活用しつつ、子ども食堂を開催するという。
若者の居場所としてのシェアハウスの定員は最大5人の予定。家賃は、1人あたり平均4万円。家賃には水道代、光熱費、インターネット代、米代を含む。
子ども食堂は、月2〜4回の開催を検討している。食事は地元の食材を使って手作りで提供する。
『空き家の活用』『生きづらさを感じる若者が心地よく共同生活を送れる場所』、気軽に立ち寄れる『子ども食堂』の三つをかなえる場所を目指す。
23年には、さらに1件、空き家活用プロジェクトの予定がある。島や人口流出の激しい地域の『空き家バンク』と連携し、切り口の異なるシェアハウスをまずは1軒、企画していく予定だ。
(2022年12月5日『全国賃貸住宅新聞』15面に掲載)」
この記事の特徴としては、「空き家対策」の一環としての「シェアハウス化」に、昨今問題となっている「貧困などの原因により、家庭で食事を摂れない子ども」を対象とする「子ども食堂」の運営を組み合わせた、きわめて社会貢献要素の高い取り組みとなっていること。そして、資金調達にクラウドファンディングの手法を用いていることが挙げられます。単に「空き家対策」だけでは、クラウドファンディングによる資金調達は厳しいかもしれませんが、そこに「子ども食堂」という公共性のある事業を盛り込むことで――悪い言い方をすれば――出資者の「財布のひもをゆるめる」効果も期待できます。もちろん、実現できなければ詐欺になってしまいますが、「やらぬ善より、やる偽善」とはよく耳にする言葉です。この場合にこの言葉が適切かどうかはさておき、現実に、貧困家庭の子どもたちにとってわずかでも助けになる行為であれば、しないよりはしたほうがいいのではないでしょうか。そして、その対象は子どもたちだけに限ません。こうした生活困窮者への支援や、社会貢献の取り組みといったことは、めぐりめぐっていつかはシェアハウス大家さん自身にも返ってくるのではないでしょうか……。